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未だ慶応三年 〈其の五〉


薩長と幕府の駆け引きやら開戦準備やらが忙しなく交わされている最中に、先年より頻発した打ち壊しが妙な具合に形を整え、遂に名高き『ええじゃないか』が始まったのは坂本が長崎事件で駆けずり回っていた七月頃。

この奇妙な形の民衆蜂起は表立って時の政府に対し対決姿勢を打ち出す訳でもなく、第一その意思も無い、という実に中途半端な叛乱行為である。現状に対する不満が刹那的な反社会行動に発展した、日本型反権力運動の生み出した、ある種の奇形の革命とも言うべき現象と言えるかも知れない。言葉を変えれば憤懣以上、革命未満と言った、デモかストのような行動であろう。と言っても明確な要求項目を掲げたアジテーションの意図も無い。要するに世直し祈願のお祭りに過ぎないのであるが、最早現政権に対して従順ではないと言う意思表示だけはハッキリしていた。兎角学会のインテリは物事を鋳型に当て嵌めようとする傾向が有るようで、ヨーロッパの清教徒革命や最近のイスラム革命と比較してかどうか、これをして専門家の中には日本人の宗教心が云々と言った、しみったれた学術的分類に押し込もうとする向きも有るが、恐らく宗教とは余り関係無いであろう。確かにこの頃、現在も存続している天理教や金光教などが生まれているが、新興宗教などはいつの時代にも生まれて来るのである。ただ、この時代は政局に大きな変動が起こり、世の中が不安定なだけに言わばそれらの教団は、どさくさに紛れて肥え太っただけと言えるだろう。確かに黒船来航などに対する不安が庶民の間に蟠っていた為にあらゆる方向にマイナスのエネルギーが放射された挙句、その一部が宗教的な部分を形成したと言う事も考えられようが、こう言った騒動の起きた直接の動機は要するに現状に対する不満である。そうなれば、庶民は無能な政権に対し、容赦無く“NO”の意思表示を突きつける。刹那的な乱痴気騒ぎを起こし、捨て鉢な態度をこれでもかと見せつける、日本型の叛乱行動と言えるかも知れない。こう言った事から見ても、幕府の侵略__譜代はいざ知らず、外様大名の領地は徳川家とは別個の領土である。直轄領以外は徳川家の領地ではない__に対して士民一丸となった長州に比べれば、やはり徳川幕府の領民との繋がりは稀薄であったと言う事なのだろう。

それに、この『ええじゃないか』が起こったのが、長州藩兵が駐留していた西宮であった所から討幕側の煽動による攪乱工作ではないかと言う意見もある。確かにその手の呼び水、お札を撒いたりしたと言うくらいの事はやったかも知れないが、基本的に自然発生的な騒動ではないかと思われる。或いは長州軍が留まっていたせいで民衆の“世直し”気分が高まり、無闇矢鱈と盛り上がりまくったのかも知れない。

いよいよ本格的に世直しの祭りが始まったのである。


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