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続く元治元年 〈其の三〉


六月には、いよいよ京はえらい騒ぎになってしまった。倒幕派の志士、古高俊太郎が四日に新撰組の手によって拉致され、残忍な拷問に堪えかねて密かに準備を薦めていた重大な密計を喋ってしまったのである。その情報が元で五日には新撰組が会合中の志士たちを騙まし討ちして数多くの犠牲者を出し、世に言う“池田屋事件”が起きた。この一件は倒幕派浪士を決定的に刺激し、特に多くの重要人物を失った長州は激昂し、藩内の穏健派は勿論、倒幕派の指導的人物であった桂小五郎や高杉晋作の説得にも耳を貸さず、毛利家の冤罪を申し立てるべく来島又兵衛に率いられた長州の遊撃軍二千が京に進発した。

このような変転を聞いて、隼人が神戸くんだりで海軍ごっこなどにうつつを抜かして居られる筈がない。

「行くぞ、義を見てこれを捨て置けるか」

「またか」

猛は呆れて引き止めた。

「あのな、お前一人が行った所でどないなるちゅうねん」

「うるさい、残りたければお前だけ残れ。俺は行くぞ、譬え無駄だと分っていても」

止めても無駄なのだろう、一人で行かせる訳にもいくまい、猛も諦めて神戸を後にした。

「残っても良かったのだぞ。お前は海軍に興味が有ったのだろう“大攘夷“の為に」

「まあ、そう邪険にするな、こうなったらとことんまで付き合うわい」

諦め顔の猛が惚けた笑いを見せた。隼人に取っては不思議と安心できる、今や“相棒”の顔であった。猛も彼の言う通り、正直海軍技能や坂本の口にする法螺だか来るべき日本の展望に興味は有ったのだが、何故だか国粋思想に取り憑かれたこの偏狭で一本気な攘夷志士と妙にウマが合い、何やら離れ難くなっていた。無論操練所を飛び出したのは隼人たちだけではない、土佐浪士池内蔵太なども無駄を承知で神戸を後にし、海路堺から京へ入った。

猛たちが京に辿り着いたのはいよいよ長州が追い詰められ、今にも暴発しそうな七月十一日であったが、一触即発の洛中に入る事は当然許されず、淀川の辺りで足止めを食い右往左往する羽目に陥った。この日、江戸では佐久間象山が肥後の“人斬り彦斎”こと河上彦斎に暗殺された。

所で__

この前後、猛は実に奇妙な遭遇を体験した。

「すいませーん」

猛に声をかけてきた少年は何ともいえぬ独特の扮装で、全身、頭までを一枚もので覆った青い服は、どういう生地を用いているのか体にピッチリと密着し、その上頭には角の無い丸っこい円錐形の物体を着けていた。丸っこい角のようにも見えた。鬼の仮装でもしているつもりだろうか。傍らの、同じような赤っぽい服装の少女は、紅でも塗ったような赤い唇がいやに目立つ。

「ちょっとお聞きしたいんですけど」

更に、その後ろにはカブトムシのような形の、車輪の着いたこれまた青い色のどうやら鋼で出来たらしい、異様な山車が控えていた。

「はあ」

猛はその恐ろしく異風な少年と、後方の山車を見比べながらあっ気に取られたような表情であった。

「平賀源内さんをご存知有りませんか?」

「は?」

「平賀源内さんですよ」

「ええーと」

余りの出来事(?)に幾分混乱気味な上に、質問の内容が突飛過ぎて猛は咄嗟には答え難かった。第一、平賀源内と言えばとうの昔に死んだ人物ではないか。猛も蘭学者の端くれだったから、この過去の有名人については普通よりは知っている物の、この少年がどういう意味で“知っているか”と聞いたのかが分からない為、答え様も無かった。

「……平賀源内先生やったら、お亡くなりになった筈やけど」

やっとそれだけと言う感じで答えた。

「ええー!?」

 少年がえらく素直に驚いた。

「それはいつですか?」

「いつて言われても……」

「つい最近ですか?」

真顔で聞かれても困ってしまう。見れば目はキチンと焦点を結んでいるし、精神に異常をきたしている訳でも無さそうだった。

「済みません、今は一体いつの時代なんですか?」

戸惑いながら黙っている猛に傍らの少女が重ねて聞いて来たが、聞かれた方としては益々訳が分らなくなって来る質問である。

「ここって江戸時代ですよね?」

一体何を言いたいのだろう。もう、猛は相手になるまいと決めた。後はどうやってこの場を引き払うかである。

「源内先生が亡くなったのってどの位前ですか?」

相手もそんな猛の気配を察したらしく、もうしょうがないと言う感じでズバリと聞いて来た。

「ええーと、かなり前の筈やけど」

猛も、この質問に答さえすれば開放してくれるらしい事を察知し、脂汗を流して思案投げ首しながら割りと真剣に考えた。少年たちも期待を込めてそれを伺っている。

「確か、七,八十年位前ちゃうかなあ……」

「ええー、そんなに前なんですか?」

「どうやらかなり時代を間違えたみたいだペッチャ」

傍らに飛んで来た、青っぽい、緑っぽい色の鳥がいきなり喋ったのには猛も驚いたが、この頃は九官鳥も日本の一部に持ち込まれているし、外国には他にも喋る鳥が有る事を知識として知っていた。しかし、こんなにもペラペラと鳥が喋ったりする物だろうか?

「行きましょう、きっとダイナ○ンドは源内先生のエレキテルの中よ」

「それじゃどうも、有り難う御座いました」

二人は礼を言うとカブトムシ型の山車に上り、驚いたことにどうやら硝子で出来た半円型の蓋を開けて中に入った。猛は呆然とその光景を見守った。

やがてカブトムシの山車が異様な光に包まれると、突然目の前から消えたのである。

余りの出来事に猛は呆然と口を開けて立ち尽くす以外何とてする事も無く、暫らく呆然と佇むばかりだった。

「おい、こんな所で一体何をしている」

どこからか現れた隼人が、猛を見つけると声をかけた。

「貴様、こんな所でアホ面曝して何をやっておるのだ」

そう言われても猛には答え様も無い。

タイ○ボカンに詳しい方、突っ込まないで下さい。


「平賀源内の回はド○バッタンだったぞ!」


とか言われても困りますのでw

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