表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の精霊使いと翡翠の精霊姫  作者: 岬かおる
第1章 紅と黒猫
9/98

8



 この世界の幸せをぎゅうと詰め込んだ庭。



 まだ皇太子であった時のル・クリフはそう呟いて微笑んでいた。あたたかい庭園で、金色の姫と彼の弟が穏やかに過ごしているのをただ眺めるだけで幸福そうだった。

 ヴァインの王女は幼く、ここにはみんなしかいないのだから内緒にすれば大丈夫と言って、一緒に用意された茶菓子を自分の侍女や護衛の軍人にもふるまった。

 あの時に、どうぞと渡されたのは紅茶の味がするクッキーだったと記憶している。


『俺、殿下の婿入りについて行ってヴァインに再就職とかしてえ』


 そんな冗談を同僚が口走るほどには、優しい時間だったのだ。

 間違いなく。


 それを悪夢だと彼女は言った。


 いやな夢。もしくは抱えると心が軋むほどの幸福だった過去。

 今は持ちえない夢のような時間を悪夢と言った。


「やあ、ユング大佐」


 司令官室の執務机に、声が落ちた。声として落ちると、キラキラ、蜻蛉の翅が破けたように光も落ちる。

「報告を聞いたよ」

 声が落ちるたびに、光も落ちる。けれど執務机には何の欠片も残らず消える。

「あまり派手なことは控えてくれないと、陛下の耳に入ったら大変だ」

「煩わせてしまい申し訳ございません」

「それで、もう一つだけ訊きたいことがあったんだ」

「何なりと」

 風の精霊が伝える声は澄んでいて、彼らが届けてくれるのは本当に声なのかと感じてしまうほどだ。目の前でキラキラと砕けていくのは声でなくココロのようだ。


「僕のメルは、やっぱり可愛かった?」


 変わらず、いっそう、美しくいらっしゃいましたと。

 心から伝えると、相手も嬉しそうであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ