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第二の選択肢

女性が話し終えると、王様は重々しく頷き、僕達の方を向いた。


「処遇を言い渡す。青いズボンの者はまだ動揺しているようだから、バグったスキルの者が決めよ」


せめて黒ズボンの男と言ってほしかった。僕はまだ学生服のままだった。


「そなた達には二つ選択肢がある。一つは、そなた達のような役立たずを召喚した際の、通常の処遇である。すなわち、王都でなら一般臣民として1ヶ月生活できるだけの金を授与する。ただし、そなた達が王都に住むのは罷りならん。3日猶予を与えるが、その後は見つけ次第、死刑とす。よって、3日以内に王都を出、ほかの土地へと旅立つのじゃ」


はっきり役立たずといってないかな?


「ただし、ユーシュ国はこの世界でも平和な土地。そして転移者は魔法を持たぬ民。それを補うスキルも持たず、見たところ、腕力すら普通の臣民にも劣る。そのような者が、王都の外で生き延びれるとは思えぬな」


僕は自分の腕を見た。回りの兵士達と比べると、確かに今にも折れそうだった。


「そこで王妃が特別に慈悲を申し出た。今よりバグスキルの者に一振りの宝剣を貸し与える。これは王妃の持ち物であり、ユーシュ国の国宝の一つである」


僕は王様の隣の女性、王妃様を誤解していたらしい。王妃の見る目に影を感じたのは、ただ僕の気持ちの持ちようだけであったのだ。僕は王妃の方に手を振った。


「その剣で、バグスキルの者は、この場で自害せよ」


僕は手を振るのを辞めた。王妃が代わりに僕に手を振った。


「そのかわり、今一人の者は王妃つきの召し使いとなることを許す。そうなれば、王妃の側で、わが国の臣民でさえ到底望めないような贅沢な暮らしをし、一生を終えることが出来よう。本来ならば、そのような身分では決してないものの、王妃のたっての望みである。これが第二の選択肢である。さあ、選べ」


王の演説が終わると、兵士の一人が、僕達のいる台座に近づいた。兵士は、紅いクッションを手に抱えており、そのクッションには剣が載っていた。


この選択だけはカラに助言を求めてはいけない物だ、と分かった。だから僕はカラの方を向かなかった。思えば、僕はいつの間にか異世界に連れて来られた。今はもう、カラが連れてきたのか、神様が連れてきたのか、王様が召喚したのか、その全部なのか、僕には分からない。けれど、カラは屋上で僕の話をきいてくれた。それだけは確かだった。そして僕はもう自分の人生に興味を失っていた。なら、選択は一つだ。


剣は短剣で、宝石が持ち手や鞘にちりばめられた輝く芸術品だった。少なくとも、斬る為に作られたとは思えなかった。けれど、頚動脈を殺る程度はできるだろう。


子供の教育には悪いだろうな。王女であろう子の方を見ると、手拍子をしていた。何か高い声で話している。耳をすませてみる。


「コロシアイ! コロシアイ! ママ?今からコロシアイ、やる?」

「殺し合いじゃないのよ。あの黒いお兄さんが大切な人の為に、血をたくさん流して倒れるの」

「ステキ!」


王女は大丈夫そうだ。王妃は邪悪な笑みを見せていた。王妃の思惑通り、か。


そこで僕の思考は留まった。王妃の思惑通り?王妃は何を考えている?


当然僕は男として見られている。しかし、今はカラも男として見られているのではなかったか。つまり、王妃は邪悪に腐っていてリアルでそれが見られると喜んでいて…そいつを満足させる?!


「第二の選択肢はあり得ません。第一の選択肢でよろしくお願いします」


僕はハッキリ、キッパリと言いはなった。王妃は虫けらを見るような目で僕を見ていた。王女も顔を膨らませている。しかし、僕は何とも思わない。ただ、カラだけには悪いな、とは思った。


隣でカラは胸を抑えて俯いていた。

王様はつまらなそうな顔でカラの方を向いた。


「ということだ。王妃の慈悲に縋れば、そなただけでも生き長らえたというのに」

「ひぐっ」

「誠に残念であったな」

「ひぐっ」

「そうであろう?」

「ひぐっ」

「おい」

「ひぐっ、ひぐっ」

「そなた」

「ひぐっ、ひぐっ」

「いいかげん返事をせぬか!!」


王様は椅子から立ち上がり、怒鳴った。

カラはやっと顔を上げた。胸を抑えていた両手が、胸も無いのにバウンドした。


「すみません。泣きマ、いえ泣き過ぎて、しゃっくりが止まらなくなっちゃって。今それどころじゃないんです! 早くお金ください!!」


カラは今日一番の真剣な顔で王様に訴えると、再び胸を抑えて俯いた。

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