王様の歓迎会
「今回は2人か。術式は前回と同じであろうな」
「はい、陛下。魔方陣、投入魔力等全て同じであります」
「前回の召喚人数はいくらであったか?」
「54人であります」
「ふむ。人数が少なくなった分強力な者を召喚できたのなら、女神の唯一勇者召喚に近き偉業を朕は達成できたのやもしれぬな」
誰かが話す声がきこえる。花と汗と鉄のにおいが鼻を刺す。
「ようこそ、わが国へ」
目を開ければ、僕達は円形の台の上に立っていた。台には、複雑な幾何学模様が刻まれ、線の光は弱くなっていく。目の前には、紅い絨毯が遠くの扉まで続き、その脇には武装した中世風の兵隊が列をなしている。一番気になるのは台座を囲むようにして、息を荒げているカルトっぽい格好の人達だ。
コホン。
「ようこそ、わが王国へ!」
尻の方から声が聞こえる。振り返ると、台座の麓に豪華な椅子がつくられ、金色の冠を被った白髭の男が座っている。その両脇には同じような金色の冠を被った女性と、女の子が立っていた。女性は白髭よりも小柄で、胸の谷間が深く、女の子は小学校低学年くらいだろうか。三人とも平和そうに微笑んでいる。
「朕はユーシュ国王、エルマン2世である」
白髭は王様だったようだ。また、畏まった風にしないといけないのか。僕は礼をした。しかし、カラは動かなかった。
「このたびは、朕の突然の召喚に応じてくれたこと、感謝する」
朕の突然の召喚?僕は首を傾むけそうになったが、カラが突然叫び出した。
「これって一体どういうことですか?ここはどこです?アタシ達は屋上にいたのに!」
「オクジョとな?朕はよく分からぬが、そなた達は朕によって、この世界に召喚されたのじゃ。もとの場所にはもう戻れぬ。すまぬが諦めよ」
王様の顔に皺が寄った。
「そんな…」
カラは両手で顔を覆った。何が起こっているのか、さっぱり分からない。ただ、何となく僕はカラの側に歩いていき、背中を撫でた。
「まずは、そなた達にはこの世界へ渡った瞬間に、ランダムに特別なスキルが与えられているはずじゃ。それを教えてもらう。処遇はそのあとできっちり決めさせてもらう」
王様は手を叩いた。すると、カルト風の男が一人、水晶を持って王様達のいる方に回り込んできて命令した。
「さあ、一人ずつ、心の内にあるスキルを使うイメージを持ちながら、水晶に手をのせよ。まずはそこの青いズボンの男」
そんな奴がどこに、と思ったら、カラがゆっくり進み出て、右手を水晶に載せた。水晶が光る。カルト男はその様子を見ると、王様の方を向いた。
「この者の獲得したのは、魔法素地解放のようです」
どうやらスキル習得は成功したようだ。ということは僕の方には天界パスが入ったのだろう。王様は黙って目をつむった。顔の皺は圧倒的に増えていた。
「次の者」
パスっていうんだから、乗り物があって、改札があって、それを見せると天界に入れるんだろう。僕は、必死に想像力を働かせ、雲の上の駅の自動改札にSカードをかざすように、手を出した。
「なんと!」
カルト男が驚く。僕のスキルは貴重なのだろうか。
「この者のスキル、バグっております!」
「なんと!」
王様は叫んで、椅子に寄りかかった。異世界人の僕にも、王様が全く喜んでいないことだけは分かった。僕も「なんと!」と叫びたかった。僕は獲得失敗したんかい!
王様の横の女性も、汚物を見るような目に変わっていた。彼女は王様の耳のそばに屈みこんで、何かをささやき始めた。
「これ、まずいんじゃナイ?」
カラはまだ目を腕でこすり、鼻で音を立てて息を吸い込んでいた。だが、近くにいた僕にはその合間のささやき声が聞こえた。
「イヤ、ひぐっ、カンペキ」