神様と呼ばないと
バナナは痛くなかった。ただ、バナナが刺さったところから、黄色い光が身体の表面を広がっていく。
「な」
バナナが腹から抜かれても、光は止まらない。それを見てカラは満足そうに頷くと、今度は自分の無い胸に突き刺した。すぐに光はカラの胸から、顔、リュック、そして全身を包む。
「大丈夫だから」
カラの声を聞くのと、光が僕の顔に届くのは同時だったろうか。眩しすぎて僕は思わず、目を閉じた。
目をつむったせいか、浮いている感覚があった。そして、また地に足がつく感覚がしたあと、全く知らない声がした。
「ようこそ、わたくしの世界へ」
目を開くと真っ暗だった。ただ豆電球みたいな明かりが、目の前の事務机と、その後ろに座っている女性を照らしていた。女性の顔の彫りは深く、スーツを着ていた。眼鏡はかけていない。胸は大きそうだったが、服装のせいかよく分からなかった。
「この世界にお招き頂き、光栄に存じます」
隣を見ると、カラがリュックを背負ったまま、礼をしていた。僕も真似をしてお辞儀をした。女性は口角を上げた。
「フン。転移者にしては、礼儀がなっているようですね」
転移者?もしかして、これって異世界転移ってやつじゃないのか?! だったら何か貴重なスキルが一杯もらえたりするのかな。一体いくつまでなんだろう。望むまま、とか!てか元の世界には帰れるのか?別に帰れなくてもいいんだけど。
とたんに僕の夢が膨らんだ。
「この頃の転移者は、せっかくわたくしの素晴しい世界に召喚んでやっているというのに、帰りたいだの、願いは何個までですかだの、傲慢な者達が多くて困っていたところです。困っていた、というのは、勿論、どんな酷い目に遭わせようか、そのやり方を考え出すのに困っていたということですけれど」
え?もしかして心読まれた?思わず僕はカラの方を見た。カラは僕の視線に気付くと、無い胸の右側と左側を指先で触ってから、人差し指を口の端にあてた。それなら、ひとまず、カラに任せることにしよう。
「初めて世界に訪れた者だということで一つ、特典を与えるのだけでも大サービスだというのにそれも分からず。愚かな人間の多いことといったら。特典を与える装置の、一回のエネルギーを捻出するのに、わたくしやわたくしの世界がどれだけ苦労しているか」
女性は机に向かって息を吐いた。
「神様のご苦労、ワタシ達には想像も及ばないことと存じております」
カラは人が変わったようだ。先程までとの落差ゆえか、身体が痒い。女性は机を叩いた。
「そうです。わたくしは神様なのです!どいつもこいつも女神女神。じゃあ、男の神様は男神というのか!そういう転移者にはうんざりです!」
この方のことは、神様と呼ばないといけないんだ。神様神様。僕はイメトレをした。
「その点、あなた達には安心しました。二人同時に来るというのは初めてのケースでしたが」
カラは重々しく頷いた。
「はい。恐れながら、ワタシ達は二人で一人、一人が二人。互いに切り離すことに出来ない、極めて特殊な人間達なのでございます」
「なるほど。そのようなことがあるのですね。けれど、そうでなければ、わたくしの召喚に二人同時に引かれることはあり得ませんね。フムフム」
僕にはカラが何を言っているのかさっぱりだったが、神様は納得したようだった。