効率的な南京錠の開け方
「とりあえず、付いてきて!」
そういって、カラは僕を、非常階段のそばまで連れてきた。
「あの、外に行くならエレベータを使わない?」
9階だから、降りられないことはないけれど、学校帰りの僕にはそこまでの気力は残っていなかった。
しかし、カラはそのまま、屋上へ登る階段の方に僕の腕を引っぱった。
「屋上行きたいの? 行けないよ、鍵かかってるから」
屋上へは昔は行けたらしいが、今は南京錠がかかっている。その入口までは屋根があり、鉄格子が天井まで伸びているので、上がりようがないのだ。
「大丈夫、いいもの持っているから」
カラはそういうと荷物をおろし、中身を探りはじめた。まさか、鍵を入手していたのだろうか。そんな期待は裏切られた。
「日本刀?」
カラが取り出したのは時代劇に出てきそうな刀だった。鞘から抜けば、白く光る。勿論、模擬刀なのだろうが、怖い。
「うん。カラ姫」
「自分の名前つけたんかい」
一気に緊張が吹きとんだ気がした。カラはあんまり変わっていない。
「まあ、いいや。刀をどうするの? 南京錠の穴に差し込んで回すとか?」
安いおみやげ品なら、どう使ってもいいのかもしれないが、まだ、安全ピンでも試した方が望みがある気がした。
「そんな面倒なことするわけないって」
カラは笑うと、刀を構え、そのまま振り下ろした。
ガキン。
「先に屋上あがってて」
そう言うと、カラは刀を鞘に収め、リュックサックに突っこみはじめた。
「え?」
僕は柵に近づいた。南京錠は縦に二つに割れていた。さらに、その近くの鉄格子も何本か折れている。
「は?」
刀で金属が切れるわけがない。でも、何故目の前の鉄棒は崩れているんだ?
僕は扉を軽く押した。開かない。ああ、やっぱり鍵や鉄格子が切れる訳ないんだ。僕の見ているのは妄想なんだ。安心していると、カラが近づいてきた。
「モヤス、先に行ってって言ったのに」
そう言うと、カラは扉を引いた。扉はあっけなく内側に開いた。
「あーあ、鍵だけ切ったつもりだったのに、鉄格子までやっちゃってるよー。これなら、いっそ全部とっちゃった方が綺麗でいいかも」
そう言うとカラは再びリュックを背中から下ろそうとしたので、僕はあせった。とりあえず、止めないと。
「いや、カラ! それよりも屋上に用があるんじゃない?」
「そうだった! はやくしないと。モヤスもさっさと来て!」
カラは慌ててリュックを背負い直し、階段を登りはじめた。後を追って登る前に、もう一度南京錠を見ると、まだ割れていた。