五年ごしの真実
外に出てきたヤツの格好は酷かった。髪は寝癖が酷くて、膨れあがっていた。Tシャツは黒く汚れ、ジーンズのパンツは、ダメージとしてすら売れないほどに傷だらけである。スニーカーも昔真っ白だったはずなのが、今は灰色で、泥が所どころついている。短髪で胸はなく、男のようだった。
ソイツは飛び出してくると、立ち止まり、しばらく空中をぼんやり見た。そして、すぐにまた、ドアの中に飛び込んだ。
「誰だ、いったい?」
見覚えがない。いつの間にか人手に渡ったか。いつから住んでいるんだろう。ちょっと、挨拶がてら探ろうか。
もしも、悪そうなヤツだったら、我慢しただろう。けれど、ヤツは僕よりも少し背が低く、体の細い中学生のようだった。ならば、いくら僕でも何かされることはないだろう。それにいつから引っ越してきたか分かれば、カラが出ていったのはその前ということになる。今は扉が開いている。まずはベルを押して、返事がなかったら開けてみればいい。
そう決意して、ドアベルに近付く途中、扉がまた開いて、ヤツが出てきた。今度はくすんだ緑色のリュックを背負っている。今にも走り出しかねない。僕はヤツの視線の先に体を割り込んだ。
「あのー、すみません」
ヤツはやっと僕を見た。上から下まで見るように、顔を動かした。
「あ、モヤス。ちょうどよかった。付いてきて!」
「は?」
なぜ僕のことを知ってる? それもモヤスと呼ぶのは一人しかいない。しかし、こいつが彼女である訳がない。だから、
「カラ…の弟さん?」
「何いってんの? アタシに弟なんていないけど」
僕は発狂しそうになった。
「えっ、何で胸、ないの?」
中学生の時点で、すでにカラの胸は大きかった。だから僕はカラじゃないと思ったわけで…。大体、胸って大きくなることはあっても、小さくなることなんてないだろ。いや、もしかして、手術かなんかで、切らなければいけなかったんだろうか。
「胸? アタシの?」
カラは不思議そうな顔をして、自分の胸を見た。そしてしばらく考えたあと、意地悪そうに微笑んだ。
「ああ、アレ? モヤスといたときはいつもパッド入れてたっけ」
五年ごしの真実に、僕は発狂しそうになった。