素晴らしい人と朝食でキレる若者
「ところで君は何高の人か?」
「N高だけ、ど?」
振り向くと、真っ黒な鎧を着た女の子が立っていた。鎧はゴテゴテしていて暑そう。胸は当然不明。背は僕よりも小さい。カラよりは少し高いかもしれない。
「君は転移者だな」
「ってことは君も転移者?なんで僕が高校生だって?」
黒鎧の子は両肩を上げた。
「それなら早く新しい服を買った方がいいな」
そういえば、僕はまだ制服のままだった。彼女は僕に一歩近寄った。
「君、いつ転移してきたのかな?女神経由?それともこの国の魔導師に召喚されたか?どちらだ?」
彼女が顔を近付けてきたので、僕はテンパった。
「えーっと。どっち?えっと」
「あっ、ゴメン、いきなり」
彼女は頭に手をやると、僕から少し離れた。
「オレはエミ。女神経由の転移者で、この世界は3年目。勇者やってた。よろしく」
軽く頭を下げると、エミの鎧がガチガチ鳴った。
「僕は」
「モヤスぅ、まさか、マサカ、先に朝ごはん食べたりしてないよねェ」
昏い声は、開いたギルド事務所の扉から入ってきた。僕の心は跳びあがった。カラは入ってくるなり、酒場の区画にまっすぐ進んでいく。背中には相変らずリュックがある。
エミはその様子を見たあと僕に振り返った。
「君、モヤス?」
僕は気持ち固くなった首で頷いた。
「おーい!モヤス君はここにいるぞう!!」
カラはすぐに僕の隣に走ってきた。そしてエミをちらっと見た。
「この子ダレ?モシカシテ、アサゴハン、イッショニ、タベタ??」
僕はつっかえ気味にエミを紹介した。そして、朝食など食べていないことと空腹なことを強調した。カラの声は普通に戻った。そしてエミに手を差し出した。
「へえー、3年ここで生きてこられたなんて、すごいじゃん!」
「やっと生きている。というか今も危ないんだがな」
エミは困った顔を作りながら、カラの手を握った。
「どういうコト?」
「おい、あれ、エミじゃないか?!」
事務所に今男3人組が入ってきた。声はその一人の坊主頭があげたものだった。僕達が話している間にも、ギルド事務所内は混雑してきていた。カラは坊主頭を見てから、エミに訊いた。
「エミって有名人なの?」
僕には何かが引っかかっていた。エミってどこかで聞いたような…
声の大きな3人組の会話はまだ続いていた。
「え!エミって勇者エミ?」
「ああ、前に助けてもらったことがある!素晴らしい人だ」
「え?じゃあ、お前何バラしちゃってんの?」
「は?どういうことだよ」
「そうだよ!元勇者エミ!たしか懸賞金かかってただろ!級不問の!」
「級不問の掲示板なんてオレ見ねえよ!」
「なんで素晴らしい人売っちゃってんだよ、お前はよ!」
3人組はまだ入口でウロウロしていた。しかし、ほとんどの冒険者はじっとはしていなかった。僕達の側にいた低級っぽい人達は、酒場の方に逃げていく。かわりに、上位級の掲示板や、酒場、そしてギルド事務所の奥からも、目付きの悪い男女が、ゆっくりと近づいてくる。近づきながら、彼等は僕達を包囲しつつあった。
カラは周りを見渡した。そしてニッコリした。
「エミってお尋ねものだったんだー。懸賞金ありの」
エミは唇を一文字にした。
「大丈夫。君達には迷惑はかけない。オレはこの壁を壊して逃げるつもりだ。仮にも元勇者。そんなことは造作もない」
「そんなことはさせないよ」
カラはいつの間にかバナナを手にしており、エミの鎧の真ん中に突き刺した。
「な」
黄色の光はバナナから広がり、エミを包んだかと思うとまた縮まって、バナナに一瞬で戻った。カラは目を大きくした。
「アリ?シッパイ??」