朝のトイレは3文の得
トリの声で目が覚めた。寝心地は残念だが、悪くなかった。もう一つのベッドを見るとカラが丸まって寝ている。僕は小屋の外に出てみることにした。トイレに行きたかった。
「絶好の冒険日和だな」
空は青く、雲も少ない。僕は、小屋の周りを歩いた。小屋は完全に独立していた。2階はない。勇者はペットと別居して住んでいるようだ。ほかの宿舎に行けば、トイレもあるだろうが、そういう賭けをするには、だんだん余裕がなくなってきていた。ならばギルド事務所に行くしかない。
「結局僕もカラと同じか」
森が近くにあればよかったが、王都でも高級地区らしく、雑草すらほとんどない。
「あら?」
ギルド事務所に近づいて扉を開けようとすると、後ろから声がした。見れば、昨日の新人担当のお姉さんだった。もう、事務服を着ている。
「おはようございます」
「おはようございます。早いですね。昨日はお楽しみだったでしょ」
お姉さんはニヤリとした。誤解を解きたい気持ちはあったが、誤解していた方が対応がよさそうなので、そのままにする。
「ギルドってもう空いていますか?」
「もうすぐだから、入っていいですよ。まだ受付は空いてませんが、掲示板の貼り付けなら終わってますから」
お姉さんは扉を開けてくれた。僕はお礼を言って中に入ると、トイレに直行した。間に合った。やはり、あの小屋は不便だ。出てきたら、カウンターの中からお姉さんのつぶやき声が聞こえた。
「昨日も今日も洗ってたのね。納得だわ」
僕は何も聞かなかったフリをして、掲示板の方に向かった。掲示板は級ごとに分かれていて、6-8級はいちばん端の方である。そのほか、級不問と書いたものもあった。試しに級不問を覗いてみた。
<級不問>
(依頼主)ユーシュ国タシマ領領主
(内容)領内東部の帰黄竜討伐
(報酬)金貨1200枚
(備考)無期限
<級不問>
(依頼主)ユーシュ国国王
(内容)元勇者エミの捕獲、又は殺害
(報酬)金貨1000枚
(備考)無期限
二人で一ヶ月といって1金貨しかくれなかったユーシュ王の依頼でさえも高い。それも討伐対象が勇者とか竜とかいかにも危そうだ。つまり、級不同というのは実質どの級でもできそうにないということだろう。ちらと見ただけで諦めて僕は6-8級の依頼書のところに行った。依頼書は5枚位ある。セール・通常・NEW・緊急に分かれていたが、緊急の依頼書はなかった。目を引いたのはセールのところの一枚だった。
<いまだけセール・6-8級>
(依頼主)不動産屋カール
(内容)荒地のモンスター完全駆除
(報酬)銅貨5枚+銅貨1枚(セール増額)
(備考)広範囲魔法禁止。一匹一匹のモンスターは6級の人一人でも簡単に倒せます。セールは本日のみ。
これいいんじゃないだろうか。手頃そうだし。依頼書の下にはモンス太のイラストが描かれ、「お得!!!!!」と絶叫している。
カラは一人で決めるなといっていた。けれど、今この依頼書を確定させておかないと、誰かに奪われてしまうのだ。せっかくのセール、偶然の幸運で一番に辿りつけたのに、逃せば後悔する。
僕は依頼書に手を触れた。その時、後ろから女の人の声がした。
「それは地雷だ。受けない方がいい。荒地の蟲なぞ1000では済まない。1日2日で終るわけがない。その報酬で受ける者はいないだろう」
僕は依頼書の上で手を滑らせると、静かに天井に手を掲げた。