ステータス異常は恥ずかしい
僕が隣に座ると、カラはしばらく僕の目をじっと見ていた。
「えっ、どうかした?」
「うん。いつもの不細工なモヤスの顔に戻ってきたかも」
僕ははっとした。
「じゃあ、やっぱりカラが連れてきてくれたってこと?」
「じゃあ?堂々と連れてきたつもりだけど?」
「でも、めが、いや神様とか王様は自分達が召喚したって…」
「ああ、あれね。アタシの演技、そんなにうまかったかあ」
カラは三度ほど頷いた。あんまり嬉しそうだったので、僕は否定しなかった。
「ま、とりあえず、ここはアタシが目をつけてた異世界で、モヤスも異世界行きたそーだったから連れてきたってわけ」
行きたそー?思い出してみる。確かにそんな様なことを言ったかもしれない。
「ありがとう」
自然に口が動いていた。誰かにお礼を言ったのは久しぶりだと思った。
「ウン」
カラは水場跡地の向こうの壁を見て、また脚を振った。
「てか、さっき、これで休めるとか言ってたから、もう気づいてると思ってたよ」
「あれは、一緒に無事宿に辿りついた、達成感っていうの? 大会を勝ち抜いた、部活の仲間的な気分だったんだよ」
「それはあるかも。なんかキモイ担当ばっかだったし。モヤスはいつの間にかお金捨てようとしてるし」
カラは眉をよせたが、唇の端は上向きのままだった。
「悪かったって。でさ、カラは何でこの世界に来たかったの?」
「ウン?単純だよ?魔法使えるようになりたいから」
カラは手の平を前に出した。
「ババーン!」
そのままカラはしばらく止まっていた。僕は拍手した。
「すごいね!」
「何もまだやってないんだけど」
「うん。分かってる」
カラは僕を睨んだ。
「今にみてろお。絶対めっちゃ強力な魔法覚えてやるんだから!」
「ガンバレー。僕は普通に生活できればいいや。僕のスキルはバグってるっぽいし」
そう。カラは魔法素地解放をきちんと手に入れられたらしけど、僕の天界スキルはバグっているのだ。
カラは少し考え込んだあと、顔の緊張をといた。
「ああ、バカ王が言ってたヤツ?じゃ、いいこと教えてあげる。自分のステータス見てみて。こうするの」
カラは手の平を上に、片手を高く挙げた。
「出でよ!ステータス!!」
仕方ないので僕もマネをした。
「出でよ!ステータス!!」
すると、目の前に文字が映ったわけでもないのに、自分の情報が視えた。
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登録名ーモヤス(ギルドでの正式名に更新NEW)
職業ー剣士
Lv.0
バッドステータスー童貞(知力-17に加え、常に軽度混乱)
…
「閉じよ!ステータス!!」
僕は叫んだ。情報は掻き消えた。
「なんで閉じちゃってんの?」
カラはいぶかしげにしている。それでも、僕は一つ訊かねばならない。
「今、カラには僕のステータス見えた?」
「ううん。自分にしか見えないものだし」
カラは僕を見続けている。あとは、何か理由を考え出すだけだ。
「えっと、急に頭の中に文字が浮かんで」
「その中にバッドステータスがあった?」
時が止まった。カラはカピバラ小屋の天井を見上げた。
「そっか。高校でもう『トラウマ』ついちゃってたか…」
「え?どういうこと?」
カラは返事をせず、天井に向かって聞きとれない声で、何かつぶやいた。そして僕の方を向いた。
「別に無理してステータス開ける必要はないから」
カラの声は優しかった。とりあえず、このままではまずいことが分かった。
「いやいや、無理じゃないって」
「大丈夫だから」
「ホント!ホントウにOK!」
「でもバッドステータスが…」
僕は困った。さすがに正直にいうのは恥ずかしい。けれど無傷では済みそうにない。
「バッドステータスは、『巨乳好き』だったんだ!」
僕は肉を差し出し、骨を守った。
カラは目を丸くして黙っていた。そして十数秒後カラの口が開いた。
「『巨乳好き』」
「うん」
「バッドステータス」
「うん」
「効果は?」
「ええっと」
僕は天井を見た。そして、ステータスを参照するフリをして時間を稼ぐことにした。僕は立ち上がって、左手を掲げた。
「出でよ、ステータス」
情報が視えるが、無視して考える。あ、『童貞』と同じような感じにすればいいのか。
「うんと。巨乳の女性に近づいたときに限り、軽度混乱」
ついでに症状も少しごまかした。
「へえー。巨乳の定義は?」
焦った。
「そんなのステータスに書いてないよ」
「分からない単語をクリックするイメージで、詳細出てくるはず」
僕は『童貞』をクリックしてみた。
童貞ー生まれてから一度も他人との性交渉の経験がない男性につくバッドステータス。満年齢の分、知力にマイナス。更に、常に軽度混乱。自分の恋愛対象範囲内の生物が自分の知覚範囲に入ることで、時々混乱状態になる。
「それより、ステータス開いたのは元々何の為だったっけ?」
知力が下がったせいで、僕には詳細が思い付かなかった。