あの国の民はウサギ小屋に住んでいる
僕達の部屋はウサギ小屋だった。
受付のお姉さんは管理人の男に引き継いだ。その初老の男は杖をつきながら、いかにも宿舎らしい3階建ての大きなアパートを二つ素通りした。そして離れたところにある、2階建ての一軒家に導いた。
「訳有の部屋っていうんだから、誰かが死んだ豪華な家かな」
カラは楽しそうにいうと、
「そんなの当たり前に起こることよ!そんなことでは訳有りにならん!」
管理人の男は機嫌が悪かった。一階の扉は鉛色に鈍く光り、鍵穴もピーナッツぐらいある。
無言で男が鍵を開けたので、中に入ると床に藁が敷き詰められていた。入って正面の壁には草原と青い空の絵が描いてある。窓は天井近くにある通気口のみのようだ。右手には水場がある。
「ここは勇者様がいらしたときに、ユーシュなペット様が滞在される名誉あるお部屋である」
管理人の男は鼻を膨らませた。
「干し草も王国直轄地より送られたもので、滞在時は毎日とりかえられる。部屋の広さも当然貴賓室並みである。部屋にはペット様に最適な湿度と温度、それに空気の清浄を保つ為の魔法も掛けられておる。明かりの魔法も半日毎に自動で点き、消える」
僕は部屋を見渡した。トイレ、ベッドはおろか、毛布さえもない。何より暑い。むし暑い。そして水場は濁っている。腐っているのかもしれない。黒い水が縁を乗り越え、周りの大理石部分も池になっている。
「遊ばせておくのが勿体ないと貸し出すのは仕方ないとしても、なぜここが訳有りなのか、ギルド長の考えは儂には理解できん!」
男は杖で床を突いた。足元の藁が少し舞い上がる。
「そうですね」
僕は同意した。こんな宿を貸し出す頭を疑う。男は少し両肩の力を抜いた。
「朝食はギルド事務所の食堂に行け。鍵はそなたに渡す。何か質問はあるか?」
僕は腕くらいある銅の鍵を受け取った。カラは手を挙げた。
「ハイハイ!その勇者のウサギはいつ来ますか?」
「ペット様は勇者様と一緒に旅立たれており、当分はこちらに滞在なさらない。だからこそ、お主たちに貸すことができるのだ!それにペット様はウサギではない。カピバラである!」
カラは僕の方を向いた。
「ねえ、モヤス?カピバラって食べられるんだっけ?」
管理人の男の機嫌がまた悪くなってはたまらない。僕は慌ててフォローした。
「ダメだって、勇者様の大事な食べ物を盗るなんて!勇者様に失礼だよ!」
何かが折れる音がした。男はなぜか額に青筋を立てていた。杖は二つになって床に落ちている。
「オジーサンが杖なしで立った!!」
カラは嬉しそうに拍手をした。