目的意識をもった行動
「お、おいお前等、聞こえてるのか? 何をやってるんだ?」
どうやら、筋肉男に見えている子供には、男の声が届かず、いつもはしない不可解な行動をしているらしい。つまり幻覚である可能性に気づきはじめたということだ。まさか、直接治療に役立つとは思わなかった。
僕はいよいよ、力を入れてジャンプをはじめた。手を机についているから、普通よりも高く上がる。それでも、もっと高く、もっと高く。息が上がってくる。普段運動をしていない自分が悪い。もう少しの我慢だ。
「じゃ、邪魔したな…」
筋肉男は立ち去った。成功だ。ようやく、登録の紙も見つかったらしく、受付のお姉さんも戻って来た。
「こちらに、お二人のお名前と、職業を記入してください」
お姉さんは腕を長く伸ばして、カラに紙を差し出した。なぜか、お姉さんはカウンターから離れた位置に立っていた。カラはジャンプをもうしていなかったので、僕もやめた。
カラは、僕の分まで書いた。覗くと名前がモヤスになっている。
「あっ」
「はい、ではカードを作ってきますね」
そう言うとすぐに、お姉さんは奥に走っていった。名前はまあいい、けれど、カラは僕の本名を忘れているんじゃなかろうか。
「それでは、これがお二人のカードになります。発行手数料は合計銀貨3枚が必要ですが、今お持ちですか?」
カラが金貨をカウンターに載せると、お姉さんは目を大きくしながら手にとり、代わりに銀貨7枚とカードを二枚カウンターに置いた。
「これであなた達はギルドメンバーです。あなた達は8級ですが一ヶ月は宿舎が使用可能です。その間に6級まで上がれば4級になるまでは、継続して宿舎が利用できます。6級まで上がらなければ退会かつ一年再加入不可になります。そのほかメンバーはモンスター買い取り所や酒場などの施設も利用できます」
カラは大きく頷いた。
「それで、ここのトイレはどこですか?」
「えっ?トイレなら、酒場の奥ですが…」
お姉さんの言葉が終らないうちに、カラは走り去った。
「もしかして、トイレを使うためにウチのギルドに入ったんじゃ…」
「ギルドの制度のことで訊きたいことがあるんですが!」
僕は受付のお姉さんの思考の妨害を試みた。