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はじめての、ギルド

僕達はすぐに城門の外におい出された。約束のお金は二人分で金貨一枚。頼りない。アタシは一度も物を落としたことがないとカラがいい出したので、金貨はカラに渡されている。


「しゃっくり治ってよかったね」

「うん!ホント辛かったわ!」


兵士に背中を押されて追いたてられたのが効いたらしい。僕達の後ろでは、門が完全に閉じられ、閂を下ろす音がした。見張りもいない。どうやら、城の正門は別にあるらしい。使用人の通る門なのだろう。


目の前には、店らしき建物が立ち並び、ちらほら人が行きかっている。その何人かは、僕達をちらちらと見てくる。兵士がいないといっても、落ちつけそうにはない。


「とりあえず、宿屋かどこかに移動しない?」


日はまだ高い。けれど、屋上では夕食時でそれから大分時間が経っているから、地球ではもう夜中かもしれない。カラはリュックを下ろしながら頷いた。


「ウン。あのバカ親子一回シめてから」

「あのバカ親子?」


カラはバナナを取り出した。そして、扉と門の隙間にまっすぐ突き入れた。


「えっ?」


バナナからは黄色い光が飛び出し、扉と門の隙間を全て満たした。扉は金で縁取られた。同時に、門の向こう側の、何箇所かで、金属のきしみが、そして最後に重いものが落ちた地響きが伝わってきた。


「イイネ!」


カラは僕に親指を立てると、バナナをリュックにしまった。


「えっ、今のは?」

「バカ親子や兵士達とか全員王都から閉め出したの。城の中に。これで3日以上経っても王都に住んでて大丈夫」

「外に出てこられないの?」

「ウン、ゼッタイ」


僕は指を顎に当てて、考えようとして諦めた。エネルギーが足りない。


「とりあえず、宿屋にいかない?」

「いいよ。こんにちわ!この辺りに安い宿ってありますか?」


カラはすぐさま、通りすがりの人に向かって走って行った。そこそこ綺麗な服を着ている中年の女性だった。胸は握りこぶし位。さっきからチラチラ僕達を見ていた一人だ。


「えっ、安い?アンタ達は商人かい?」

「いえ、冒険者です」


僕は抗議しようとして、やめた。距離が遠すぎる。近づいたら、何も知らない僕はすぐボロを出しそうだ。


「でもさっきバナナを持ってたじゃないか。てっきり城へ果物を」

「城にバナナを持ったモンスターが入り込んだんです!今倒してきました!」

「そうなのかい?お手柄だねえ」


女性は素直な性格をしていた。


「それなら冒険者ギルドが管理している宿がいちばん安いんでないかい?ギルドの施設は冒険者しか使えないからワタシはよく知らないけどね」

「そうですか!ギルドってどこですか?」

「うん?城に沿って回っていたら、正門のすぐ前にある一番大きな建物がそうだけど、アンタ知らないのかい?」

「はい、アタシ達商人なんで!」

「そうなのかい?」


僕が尋ねる役でも大丈夫だった気がした。カラは走って戻ってきたので、とりあえず抗議した。


「冒険者ギルド入るの?僕、商人になりたかったのに」

「アタシ達、商人やるほど金ないよ」

「冒険者やるほど身体も強くないと思う…」

「モヤスは冒険者やる方がカッコイイって」


冒険者ギルドの建物はすぐに見つかった。建物の前庭に大きな看板があり、剣の形をしたゆるキャラが、モンスターの形のゆるキャラを貫いた絵が描いてあった。ケン坊とモンス太という名前だそうだ。


扉を開けて中に入ると、受付はがらがらだった。それでも側面の張り紙がある場所や脇の椅子や机があるところにはそこそこ人がいた。カラは僕の手を引き、すぐさまカウンターにかけ込んだ。


「冒険者になりたいです!二人分!」

「職種は何ですか?」

「二人とも剣士で!」


受付の胸が豊かなお姉さんはカラと僕を上から下までみた。手、腕、脚。そして、ため息をついた。


「ちょっとお待ち下さいね。今書類を用意しますから」


そういうと、机に座り、引き出しを開け、中の紙の束をとり出しはじめた。


「おい、ガキ共。ここはおまえ等の遊び場じゃねえんだぞ!」


いつの間にか隣には、筋肉が油ぎっている大柄の男が立っていた。手には鉄の棍棒、腰のベルトには縄が巻いてある水筒が下がっている。男は僕達に怒鳴っているよう見える。受付にいたお姉さんはまだ書類を探しているし、ギルド内のほかの人々も静観している。このギルドではよくあること、ということだ。


僕はカラの表情を覗き見た。カラはカウンターの前で何度もジャンプしている。筋肉男のことは全く無視するつもりのようだった。


少々リスキーな行動の気がしたが、僕はこの世界のことをよく知らない。僕達はガキではなく、遊んでもいない。つまり、この男はボケていて、今目の前に、自分の子供の幻覚を見ている訳だ。


介護を勉強していれば…。専門家でないのに下手に関わって症状が悪化したら。そう考えると、カラは正しい行動をしているのだろう。僕は、カウンターに両手を突き、カラと一緒に飛び跳ねはじめた。

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