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7話

中央に位置する神樹。そこで今、成人の義が行われていた。

 エルフは十五歳になると成人と見なされる。そして大人として認められるためには、神樹の雫と呼ばれる物を作らなければならない。

 神樹の雫は文字通り、神樹から魔力を抽出して作る秘薬だ。それを飲んだ者は年齢を固定化され、エルフと同じ長大な寿命を得る事が出来るアイテムである。


「神樹よ、我らに神聖なる加護を与えたまえ」


 神樹に跪き、エクセルは祈りを捧げる。魔力を使って神樹から力を抽出すると、彼女の持った瓶に琥珀色の雫が満たされた。

 これこそが神樹の雫だ。高純度の雫が生み出されたのを見て、エルフの里長は大きく頷いた。


「素晴らしい、これほど純度の高い雫は、初めて見ました」

「お褒めに預かり、光栄です」


 エクセルは恭しく首を垂れる。

 里長からローレルの冠を頂いて、最後に祈祷を受け、ようやく成人の義が終わる。

 晴れてエクセルは、大人のエルフとして認められたのだ。


『ご苦労さん、エクセル』


 その様子を、グリーンは感慨深く見守っていた。

 子犬だった彼もまた、立派な成犬になっている。ふさふさの毛皮に、愛らしくも凛々しい面立ち、立派な脚と。力強い柴犬へ成長していた。

 勇者と魔王が再会してから、早五年。

 二人はやっと、魔王軍立ち上げのスタートラインに立ったのだった。


  ◇◇◇


『中々厳かな儀式だったな。流石のエクセルも緊張したんじゃないか?』

「まぁ、それなりに。本音を言うと、内心上手く雫が出来るか不安だったよ」


 エクセルははにかんだ笑顔を見せた。

 五年間で彼女は、とても美しくなっていた。犬の目ではよく見えないが、絶世の美女と言っても過言ではないだろう。


「しかし、もう五年か。時が経つのは早い物だな」

『ああ、俺も完全に犬の体に順応したし、この愛剣の使い方にも慣れたし、新しい装備も整えたしな』


 首に提げたドッグブレードを咥え、グリーンは胸を張る。


『確かエルフは、成人の義を超えれば自由に里の外に出られるんだよな』

「ああ、もう既に父上と母上には話をしてある。私の素性の事もな」

『意外だったよな、元魔王だって言っても動揺しなかったし、むしろ「頑張って人間滅ぼしてください、魔王様」とか応援されてたし』

「それがエルフ達の本音でもあるのさ。何しろ、自分達の住処を奪われたのだからな。っと、忘れる所だった」


 エクセルはしゃがむと、雫を出した。


「さ、飲むがいい。これを飲みさえすれば、柴犬の体でも百年以上は生きられよう。共に目的を果たす友として、受け取ってくれ」

『ありがとう、それじゃ、いただきます』


 甘い雫を飲み下すと、心臓が急にひんやりした感じがした。

 だけどすぐに、体が軽くなってくる。力が、奥底から湧いてくるようだ。


『これで、一緒に旅に出られるな。人間を滅ぼすための旅に』

「ああ。旅支度は済ませてある、明日は休養日に当てて、明後日出発しよう。当面、戻ってこれないだろうからな」


 エクセルは足早に自宅へ向かっていく。彼女を追いかけながら、グリーンはエルフの集落を振り返った。


『待ってろ、ポインター……必ず、この剣をお前の喉元に、突き立ててやる……!』


  ◇◇◇


 二日後、勇者と魔王はエルフ達に見送られながら、集落を後にした。

 必ず朗報を届けてくると約束し、意気揚々と旅立つ二人。グリーンは名残惜しく感じながらも、決意を新たに顔を上げた。


『さて、俺達の最初の一歩は、魔王軍残党を集める事だよな。行く当てはあるのか?』

「勿論ある。残党の指揮を一時的に任せている幹部、ラディッツと合流する。奴と出会う事が出来れば、残党を一気に集結させる事が可能だ」

『ラディッツ……俺は会った事がないな』

「そりゃそうだ、奴は戦闘力が低いから、前線に出す事が出来なかったからな。だが引き換えに、頭のキレる奴だ。後方へ置いて参謀として活躍していたのだよ」

『参謀か。そりゃいいや、俺達は前線に赴く事になるだろうしな、後方支援役がいると助かるぜ』

「だろう? む?」


 エクセルとグリーンは足を止めた。

 同時に、地響きが聞こえ始める。随分、巨大な足音だ。


「この足音、来るぞグリーン」


 エクエルは魔剣を引き抜いた。すると同時に木々の間から、全長十メートルもの巨大な鎧が現れた。

 全身を硬質化した皮膚で覆った魔物、リビングアーマーだ。この皮膚により、絶対的防御力を持っている。並の攻撃では、崩す事も出来ないだろう。


『へぇ、でかいな。丁度いい、この装備の試運転をさせてもらおうか』


 グリーンは嬉々として前に出る。彼の体には、ハーネス状の帯が巻き付かれ、胴体の両端にワイヤーアンカーを射出する装備が付けられていた。


『エクセル、こいつらは俺にやらせてくれ。長旅の前に筋肉を解さなきゃ』

「ん、いいだろう。やりすぎてヘルニアになるなよ」

『それコーギー、俺柴犬。オーケー?』


 言うなりグリーンは剣を咥えると、リビングアーマーに飛び掛かった。

 残像を置き去りにする速度で駆け抜けるなり、魔物の全身に無数の切り傷が刻まれる。体を回転させながら、遠心力を付けて、神速の斬撃を放っているのだ。


『へいノロマ! ワンちゃんに切り刻まれるのってどんな気持ちだい!』


 挑発しながらグリーンは、尻尾にかけられた紐を引っ張った。

 それをトリガーにワイヤーが発射。魔物に突き刺さるなり、グリーンの体が引き寄せられる。


『ひゃっほぉう! 犬の空中ブランコだ、曲芸をお楽しみあれ!』


 ブランコのように体を振りながら、グリーンは魔物の肩と足首の腱を切り裂いた。

 リビングアーマーは尻もちをつき、大の字に倒れる。トドメに首を断ち切り、見事に巨大な魔物を仕留めてしまった。


『機動力をより強化するフックショットさ。犬だとどうしても、防御力や対空攻撃力が低くなりがちでね。その対策で、この五年間研究を重ねてきたのさ』


 これまたプラチナスライムを活用し、エクセルの魔装備によって完成した物だ。

 グリーンの魔力でプラチナスライム製のワイヤーフックを射出し、体を引き寄せる事でより高次元かつ高機動を実現する装備。犬ゆえに鎧や盾を持てないから、素早さを上げて攻撃を回避する事で防御面をカバーしようと考えたのである。


「ふ、見事なスピードだ。私の目でもやっと見える程度とはな。それに」


 グリーンを撫でてやり、エクセルは頼もし気に彼を抱き上げた。


「うーん、もふもふぅ……いやーたまらんなぁ、この毛皮の抱き心地」

『あっ、あっ、顎撫でるの止めて、あぁ~骨抜きになりゅう~……!』


 撫でられた気持ちよさで余計に毛皮が逆立ってくる。それに伴いもふもふ度もアップ。


「ふふっ、暫くはこうしてもふもふを堪能させてもらうぞ、グリーン」

『ひゃああ~ん……も、もぉやぁめてぇ~……』


 そんなこんなで、二人の旅が始まったのだった。

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