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6話

 弱いプラチナスライムの個体をとっ捕まえ、二人は早速行動に移し始めた。

 用意するのは折れた鉄の剣。家の蔵にあった物を引っ張り出した物だ。


「魔物と武具を合成する、魔装備の術だ。魔王のみが使える秘術でな、これを使えば、貴様の望み通りの武器を作れるぞ」


 プラチナスライムと剣に手を翳すと、魔物と剣が一瞬で合体した。

 ボロボロの鉄の剣が、柄の両端に細く薄い白金の刀身を持つ、双頭剣へ生まれ変わった。


『なぁるほど、ダブルセイバーにしたのか』


 ダブルセイバーは人間が使うにはデメリットが多すぎる武器だ。なにしろ、


1両端に刃があるので重い上、両端にだけ重量が集中しているため威力を出しにくい

2それでいて真ん中は棒なので動きに制約がかかる

3端側を持てないため武器の長さの割にリーチが長くない

4柄に納めることができない、納めても鍔が無いと片側の刃にだけ圧力がかかってしまう

5立てることもできないので、常に両手で提げるか抜き身で背負うかするような形になる

6振り回すだけで自分の足などを切る可能性もあり危険


 と、これだけのデメリットがある。

 だけども、犬が咥えて使うのならば、全デメリットが無くなる。


「何しろ口に咥えて使うのだ、真ん中が棒状の方が使いやすい。端側を持つ必要もないし、両端に重量が集中していた方がむしろバランスがとりやすくなる。振り回した所で、どうせ左右にしか動かせん。足を切る危険も少ない」

『犬ならではのメリットだな。リーチの短さはむしろ機動性を削がないし、両側に刃があるから切り返しも容易になる。よし、試し斬りをしてみよう』


 早速剣を咥え、グリーンは助走をつけて体を回転させながら、木を切りつけてみた。

 バターでも切るように、バッサリと切り倒された。刃を極限まで薄くし、しなるように作られた刀身は、切る力を対象へ最大限に伝えてくれる。僅かな力であらゆる物を両断する事が可能だ。多分切れ味のみならば、ロスヴァイセを超えるだろう。


 しかし、


『そりゃっ!』


 数回木を切った所で、刃が折れてしまった。火力と引き換えに耐久値を犠牲にしたのだから仕方がない。が、

 折れた剣は、瞬く間に再生してしまった。

 プラチナスライムの持つ再生力を刃に付与したのだ。折れても折れても、何度だって再生する不死身の剣。新しいグリーンの相棒だ。


「武器が自分に合わず壊れるなら、武器が勝手に直るようにすればいいか。至極単純だが、分かりやすい対策だな」

『だろ? これなら武器の心配をする事もない。でもって、ありがとう、エクセル。その……色々世話を焼いてもらって』

「気にするな、貴様と私の仲ではないか。それに貴様は、対人類戦における切り札になる。貴様を強くするのはすなわち、魔王軍の強化も同義なのだ」

『だとしても、ここまでしてくれた以上、礼はさせてほしい。ちょっと、待っていてくれ』


 グリーンは袋を咥えると、鼻をくんくんさせ、森の中へ向かって行った。

 実は、さっきからずっと気になる香りが漂っていたのだ。豊潤で、うっとりしてしまうような良い香りが、土の中からプンプンしている。

 人間だった頃、一度だけ食べた事のある匂い。記憶が正しければ、この香りは。


『あったあった、ここだ』


 早速土を掘り返すと、見つけた。黒い、ごろっとした形のキノコ。トリュフだ。

 トリュフは土の中にあるキノコで、犬や豚に探して貰って収穫する。奇しくも犬になった事で、人では出来ない恩返しができるようになっていた。

 トリュフを袋に詰め込み、エクセルへ持っていく。彼女はトリュフを見るなり驚いた。


「これは、私の好物ではないか。こんなにも採ってきてくれるなんて……!」

『剣の代金には、ちょっとちゃちかもしれないけど、受け取ってくれ。俺の気持ちだ』

「ありがたく頂いておこう、すまないな、グリーン」


 エクセルはトリュフを大事そうに抱きしめた。

 目はよく見えないが、心音が高鳴って、体臭もどことなく良い香りになったのを感じた。彼女がとても嬉しそうにしているのは分かる。


『戦っている時は分からなかったけど、そうしているととても、魔王とは思えないな。……なぁエクセル、お前はどうして、人間を滅ぼそうと思ったんだ? そんなに優しい奴が、人間を滅ぼそうとするなんて、ちょっと理解できないんだ』

「……グリーン、貴様はこの世界が元々、誰の物だったか知っているか?」

『いいや?』

「そうか、なら教えてやろう。……元は我々、魔族の物だったのだ」


 エクセルだけでなく、魔王軍に属する存在は、魔族と言う種族に分類されている。

 人間界では魔界から現れた邪悪な種族と言われていて、人に仇成す共存できない敵とされているのだが。


「それは、人間達が魔族を追い払ってから広めた、偽りの情報だ。本来この世界、と言うよりこの大陸には、我々魔族しかいなかった。我々は長き時をかけて、枯れ果てた土地を耕し、実り溢れる豊かな世界へと変えたのだよ。だが、この大陸が住みよい場所へなった時にやってきたのが」

『俺達人間、ってわけなのか?』

「そうだ。貴様ら人間達の祖先は、自分達の元居た大陸から逃げてきたのだよ。聞く所によれば、住んでいた場所が環境汚染により住めなくなったから、新天地を求めやってきたそうだ。我らの祖先は哀れに思い、人間達を受け入れたようだが……それが間違いだった」


 人間達は魔族を武力で追い払い、彼らが作り上げた土地を強引に奪い取ったのだ。


「人間達には元々、「勇者」と言う隠しスキルが備わっている。潜在能力を一時的に引き上げ、圧倒的な戦闘力を発揮する物でな。その力の前に我々の祖先は、敗れてしまったのだ」

『でも、今の人間達には、そんな力はないぞ? 俺が人間の頃だって、魔族と戦えたのは、俺だけだったし』

「魔族を追い払ってから、戦う必要が少なくなったからな。だが、時折先祖返りで途轍もない力を持った人間が生まれる時がある。貴様のようにな、グリーン。それが人間達の呼ぶ、「勇者」の正体だ」


 魔族は幾度も人間達から大陸を取り戻すため、戦いを挑んできた。

 だけどその度に勇者が現れ、悉く計画を阻まれてしまった。エクセルの代は、人間の力が最も弱まり、悲願を果たすチャンスと言われていたのだが……グリーンと言う勇者の前に、またしても敗れてしまったのである。


「これがこの大陸の、歴史の真相だ。ついでに言うと、貴様らがエルフやドワーフと呼ぶ連中も、元は魔族の仲間なのだぞ」

『そうなのか!? でも魔族って、大抵魔物みたいな外見をしている奴らばっかりだけど。それにエルフもドワーフも、人間達に協力しているし……』

「人間達が勝手に分類したせいだ。エルフとドワーフは人間に近い外見をしている上、エルフはその美しさと魔力の高さ、ドワーフは鍛冶能力の高さから、人間に有益な存在と見なされた。だから人間達は、彼らを脅迫したのさ。自分達の軍門に下れ、さもなくば滅ぼすと。エルフにドワーフは、我々魔族との共闘を望んでいる。だが」

『その脅迫のせいで、人間側につかざるを得なくなった、って事か……』

「正解だ。私の一族は代々魔族を統治する家、いわば魔族の王と呼ぶべき存在でな。人間達に奪われた土地を取り戻すのが、一族の悲願なのだ。私は祖先の無念と、大切な民達のために、もう一度この大陸を取り戻そうとした。だが、結局はまた、失敗に終わってしまった。勇者という、強大な壁によってな」

『……そう、だったのか。俺、そんな事も知らないで……お前達を殺そうと……!』


 グリーンは心を痛めた。ぽろぽろと涙を零し、体を震わせ、泣き始める。


『俺は、なんて馬鹿だったんだろう……! 魔族は悪者だって決めつけて、無意味に殺し続けて……本当に悪いのは、人間じゃないか。今までの自分を、殴り飛ばしてやりたい……!』

「そんなに自分を責めるな、貴様は何も悪くない。私は貴様が、優しい心を持つ男だと知っている。このトリュフが、その証拠だよ」


 グリーンを撫で、エクセルは励ました。


「とまぁ、これが私が人間を滅ぼそうとする理由だ。先の戦いで敗れたとしても、まだ私の戦いは終わっていない。必ず再起を果たし、一族の悲願を果たすまで……断じて諦めるわけにはいかないのだ」

『……その想い、俺も確かに受け取った』


 エクセルの手を舐め、グリーンも心に決めた。


『俺が人間を滅ぼすのは、もう私怨だけじゃない。人間達に追い出され、土地を奪われた魔族のために、俺も戦う。エクセル、お前には、俺が居る!』

「くくっ、柴犬でなければ格好のいい決め台詞だな。ありがとう、グリーン」


 グリーンをわしゃわしゃと撫でまわし、エクセルは微笑んだ。

 撫でられながら、元勇者の柴犬は決意していた。

 この元魔王の少女を、必ず守ってみせようと。

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