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5話

「さて、我々の今後の方針を話すとしようか」


 翌日、犬の散歩がてら二人は、これからの行動指針を立てていた。


「人類を滅ぼす、それが最大の目的であるが……そのためには兵力が必要だ。だからまずは、魔王軍の残党をかき集めなければならない。いかに貴様でも、延々と戦い続けるのは不可能だろう?」

『確かに。つーか、居たんだな、魔王軍の残党』

「勿論だ。貴様が倒したのは全体の六割程度、残り四割は有事に備え、各地に分散して潜伏させていたのだ」


 用意周到な事だ。これならば転生術を使って復活し、再起する事が出来る。


「それに、ただ真正面から殺すだけじゃつまらんだろう。世界を救った恩人へ強烈な平手打ちを食わせた連中だ、徹底的に、身も心も捻り潰してから殺してやりたくないか?」

『……そうだな、人間どもが泣いて許しを請うくらいのド酷い事をやってから、一人ずつ丁寧にぶっ殺してやる』


 グリーンはぐるると唸った。

 自分に縋った挙句、手のひら返しで侮蔑してきた連中は、絶対に許さない。簡単に殺さず、とことん苦しめてから滅ぼしてやろう。


「というわけで、大目的の人類滅亡を果たすために、魔王軍の残党を集める事を当面の目的としよう。そのためには、最低でも五年は待たねばならん」

『なんで?』

「貴様な、いくら元魔王とはいえ、十歳そこそこの子供に残党共が傅くか?」

『あ、あー……成程、な』

「威厳のない子供に一体誰がついてくるものか。十五ともなればこの世界では一応成人扱いされる、最低限の箔は付くだろう。それに貴様も、元勇者と言え現柴犬だ。犬っころなんぞ相手にすらされるわけがない」


 言われてみれば、事を起こすのに自分達はまだ幼過ぎる。もう少し時間が必要なのも分かる、が……。


『ただ、あんまり悠長に待っては居られないぞ? 俺は柴犬、十年ちょっとしか生きられない生物だ。五年も待つと、もう人生折り返しになるんだけど……』

「心配するな、エルフには特別な秘薬がある」


 エクセルはにやっとした。


「神樹の雫と言うアイテムだ。成人したエルフのみが作れる秘薬でな、それを飲みさえすれば年齢を固定する事が出来る不老不死の雫なのだよ。勿論、柴犬にも適用されるぞ」

『おおっ!? それさえあれば確かに、柴犬でも長生きが出来るな!』


 短命な犬の寿命をカバーする最高のアイテムだ。でもってそれを作るのは勿論、エクセルだ。


「成人になった時に、秘薬を作る儀式が行われる。それを飲めば貴様の年齢を固定できる。人類を滅ぼすための時間を、きちんと確保できるだろう」

『ああ、これで不安が一つ消えたよ。となると、小目的を果たすために俺達がやるのは……』

「レベリング、これしかないだろう」


 とりあえずの行動方針が決まり、勇者と魔王は頷き合った。


『ステータスを引き継いでレベル1スタートだ、これから鍛えれば、もっと強い柴犬になれる。確実に人間を滅ぼすためにも、今は強くならないとな』

「だな。という事でこれから、貴様をレベリングにもってこいな場所へ連れて行ってやろう」


  ◇◇◇


 エクセルに連れられたのは、郊外にある洞窟だった。

 洞窟内の匂いを嗅ぐと、何やら金属のような匂いが漂ってくる。それに、流体の生物が蠢く音も聞こえてきた。


『ここはまさか……プラチナスライムの巣か!』


 プラチナスライム、それは大量の経験値を蓄えた、まるでレベリングのために生まれたかのような魔物である。

 一匹倒すだけで数万もの経験値が入り、たった数時間の修行で数十年分もの鍛練を積んだのと同じ結果をもたらす、宝石のような魔物。しかしその性質のため各地で乱獲が起こり、現在ではごくわずかにしか生息していない魔物でもある。


『そんな魔物が、こんな所に居るなんて……』

「ふっ、プラチナスライムは酷く臆病な魔物でな。人里では人間の殺気に怯えて近づきもしない。だがエルフはそうした闘争と無縁の種族、自分達に危害が及ぶ心配も少ない。だから奴らは、エルフの集落近くに巣を作るのだよ。エルフが狩猟で、外敵を駆除してくれるからな」

『成程……ん? お前年齢の割に強いよな。もしかして』

「そうだ、この場所で修行を積んだのだよ。連中が逃げないよう、魔法で居場所も固定してある。思う存分、鍛練が出来るぞ」

『ほほー……そんじゃ、まぁ。なまった体をほぐしに行きますか!』


 子犬の勇者は駆けだした。

 異様な子犬を見るなり、プラチナスライムは逃げ出していく。しかしグリーンは雑魚には一切目もくれず、一直線に奥へ向かった。

 勇者だった頃の知識で知っているのだ。プラチナスライムは、強い個体ほど巣の奥に留まっている。

 経験値は、レベル差があればあるほど多く手に入る。より効率よくレベリングをするならば、この低レベルの段階でレベル50以上の魔物を殺すのがいい。


『見つけた、プラチナスライムの中ボス!』


 中でもひときわ匂いの強い個体を見つけ、グリーンは飛び掛かった。

 スキャンの魔法で確認したが、奥にはもっとレベルの高い個体が居る。その手前に居るプラチナスライムのレベルは、60。こいつを殺せば、一気にレベルアップ出来るはず。


「いけっグリーン! 「噛み砕く」だ!」

『ばうっ!』


 ぽっけに入る魔物的なやり取りの後、グリーンはプラチナスライムを噛み砕いた。

 急所である核を粉砕し、一撃で仕留める。プラチナスライムは物理・魔法両面に高い耐性を持つ魔物だが、流体の体を留める核が存在している。それさえ破壊すれば、簡単に倒す事が出来るのだ。


『よし、これで……お、おお……おおお!』


 体の奥底から、ぎゅんぎゅんと力が湧き出すのを感じる。経験値が大量に入った事で、一気にレベルが上がり始めたのだ。


「おお、レベルが急激に上昇しているぞ。レベル80、83、87、94……まだ上がる、だと!?」


 スキャンで測定しているエクセルは、あまりの強化っぷりに驚いていた。

 流石はプラチナスライム、レベル差がある状態で高レベル個体を殺したら、凄まじい勢いでレベルアップしていく。能力値も文字通り、けた違いの域に達そうとしていた。


「そうか、今の貴様は人間ではなく柴犬、弱い種族程、レベルアップに必要な経験値も少なくて済むのだな。喜べグリーン、もうすぐレベル100だ!」

『よっしゃあ! これで全盛期の俺、復活ぅっ?』


 ところがである。レベル100に到達した瞬間、急激に体から気が抜けた感じがした。

 あまりの変化に戸惑うグリーン。観測していたエクセルに振り向くと、彼女も唖然としてた。


「これは、どう言う事だ? レベル100になった瞬間……またレベル1に戻ったぞ?」

『へあっ!? な、なんで!?』

「分からん、ただ……もう一つ奇妙な事が起こっていてな」


 エクセルはステータスを見せてきた。そしたら、レベル1なのにステータスは、減っていない。むしろさっきレベルアップした分だけ、上昇していた。

 しかも、能力値の上限も、また更新されている。


『え、これ、どう言う事だ? ステータスを引き継いで、またレベル1に戻った、って事か?』

「恐らくは、そうだな。なんでこんな事が……」

『……考えられるとしたら、女神のバグ、の影響かな? 俺をミスって柴犬に転生させたから、レベル上限に達したらレベルがリセットされるようになった、んじゃない?』


 それも、レベルアップで得たステータスをそのまま引き継いで、だ。それと同時に上限値もリセットされ、カンストとしたステータスが再び上がるようになるらしい。

 レベルリセットにより、エンドレスにステータスを上げ続けるスキル。「レベループ」とも呼べる物を、グリーンは手にしたわけだ。

 しかも、しかもだ。レベルアップすると、当然弱い敵から得られる経験値は減ってしまい、レベルアップ速度も大きく落ちてしまう。だがレベルをリセット出来るなら、常に弱い状態から強い敵と戦えるわけで。


『ここでレベル1から100になるのを延々と繰り返していれば……』

「得られる経験値は目減りせず、しかも上限値もリセットされるから、無限に強くなる事が出来る、というわけか?」


 瞬間、グリーンは目を輝かせた。


『……いい、いいじゃないかそれ! なんだか楽しくなってきた! プラチナスライム! 俺を、俺をもっと強くしろ!』


 仕組みを理解した途端、グリーンは嬉々としてプラチナスライムを狩り始めた。

 何しろ、常にレベル1状態なのだ。一体倒せば一気にレベル100まで到達してはリセット、一体倒せばリセットと。レベルアップのループが止まらない。

 戦えば戦う程強くなる快感に浸り、グリーンは高揚していた。


「今日はここまでにしておけ、グリーン」

『止めるなエクセル! 折角楽しくなってきたのに』

「これ以上戦えばプラチナスライムが居なくなるぞ」


 グリーンははっとし、手を止めた。


「現状、プラチナスライムの巣窟はここ以外に存在していない。いくら無限に強くなれると言っても、こいつらが居なければ成り立たなくなる。幸いこいつらは数日で元の個体数に繁殖する、少し時間を置いてからまた来よう」

『分かったよ。ただこうまで来ると、今度は武器も欲しくなるな』


 勇者だった頃、グリーンに見合った剣はロスヴァイセしかなかった。それ以外の剣では彼の腕に合わず、すぐに壊れてしまうのだ。


『業物の武器なんてそう手に入る物じゃないし……耐久値は低くていいから、壊れてもすぐ再生する剣があると嬉しいな』

「そんな物が存在するわけ……ん?」


 エクセルとグリーンはプラチナスライムを見やった。

 確かスライムは、再生力に優れた魔物だった気がする。


「……グリーン、今、面白い事を思いついたのだが」

『偶然だな、俺もだ』


 勇者と魔王の目が、ぎらりと光った。

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