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4話

 自分が勇者の力を持った柴犬だと分かったので、グリーンはちょっとだけ自信を取り戻した。

 柴犬に転生した直後はショックだったが、いざ慣れてくると犬なのも悪くない。むしろ人間の時よりも気が楽だ。


『人間の頃は、色々しがらみがあったからな。王族との親交があったから貴族達からの目がきつかったし、周囲からは魔王を倒す、最強の冒険者とか言われて、異常な期待を掛けられていたし……犬なら、そんなのは何もない。それに、変な謀略に巻き込まれて、裏切られる事もないしな』


 ポインターは自分の欲望のために、グリーンを裏切り殺した。聖剣と手柄も、何もかもを奪い取って。


(別に、聖剣なんてくれてやるさ。手柄だってな。だけど……友達だと思っていたのに、俺を裏切った。それが、許せないんだ……!)


 思いだすだけで、やるせない気持ちがふつふつと湧き出してくる。自分を裏切ったポインターへの怒りが、止まらない。


『そうだ、エクセル。この世界の事を教えてくれないか? やっと頭が落ち着いてきた所だし、そろそろ世界情勢が知りたいんだ』

「いいだろう。だが、これを聞いたら貴様は、激高するだろうな」


 エクセルはグリーンを抱き上げた。もふもふした子犬の感触を気に入っているらしい。


「結論から言えば、この世界は以前居た場所と同じ世界だ。だが、時間軸が違う。我々が居た頃から、十五年未来の世界だ」

『十五年、か……けど思ったほど時間が経ってない……待てよ、十五年、だって? 今、国を治めているのは、まさか……!』

「流石に察しがいいな。その通りだ。現国王は、ポインター・ヴィ・レファレント。貴様を裏切り、全てを奪った男だ」

『あいつが、国王……ポインターが……!』


 全ての体毛が逆立ってくる。奴は宣言通り、グリーンを殺して国王の座に上り詰めたのだ。


「情報筋から聞いたが、中々下衆い手段を使ったようだな。聖剣の力を使って兄王子達を殺し、それらを全て貴様の罪として擦り付け……魔王討伐の功績を振りかざし、国王の座を奪ったのだ」

『ちょっと待ってくれ、なんで俺が王子殺害の罪を着せられるんだ? だって俺は、エクセルと戦った後に奴に殺されたんだぞ?』

「魔法で貴様の影武者を用意したようだ。その上で、自分がメインとなって私を殺したと報告したようだな。後は邪魔な兄王子二人を殺し、影武者に罪を擦り付けたと。そんなシナリオだ。あとは国王を自然死と見せかけて暗殺し……若くして国王に即位した。というわけだ」

『……ポインタぁァァァァァ!』


 あまりの怒りに魔力が暴発し、周囲の木々や岩が吹き飛んだ。

 自分を殺すだけでは飽き足らず、欲望のためだけに家族をも殺すとは。呆れ果てた下衆、なんたる外道だ。


「世間でなんと呼ばれているか分かるか? 魔王を倒し、不義の勇者を倒した、聖剣に選ばれし真なる勇者、英雄王だ。実際は壮大な自作自演をした、とんでもない強盗王だがな」

『聞けば聞く程、胸糞が悪くなってくるよ……一時でも、あいつを友だと思った俺が、情けなくなる……! まてよ、それだと俺は、一体どうなっている? その情報のままだと、俺は……』

「そうだ、貴様は王殺しの大罪人として歴史に記録されている。裏切り者のグリーンとしてな。魔王を倒す勇者と持て囃していた連中は、今や貴様を憎き敵だと認識しているようだ」

『……な、んだ、とぉぉぉっ……!』


 グリーンは歯ぎしりした。

 あれだけ勇者だ、救世主だなんだと持ち上げておきながら……事が終わったら、まるでゴミのように自分を捨てやがった。


『俺を、なんだと思っている……勝手に人に縋っておきながら、平和になった途端、掌を返しやがって……人間、どもめが!』


 堪忍袋の緒は、完全にブチ切れた。


『エクセル、俺は決めたよ……ポインターだけじゃない、俺は人類を、駆逐してやる! 俺から全てを奪った挙句、用が無くなったらゴミのように捨てやがった連中に……最早情けの心もなくなった! この世に存在する人間全てを、一匹残らずぶっ殺してやる!』


 復讐心を滾らせ、グリーンはしっぽを逆立てる。

 友の情も存在しない。自分を殺した王に逆襲するため、柴犬となった勇者は決意した。


「ならば、私も力を貸してやろう」


 その想いに同調し、エクセルが手を差し伸べた。


「交えたからこそ、私は貴様の事を、よく分かっている。貴様は私が出会ったどの人類よりも実直で、真っ直ぐで、曇りなき人間だ。そいつが言われなき罪を被せられ、手酷い裏切りに遭ったとならば、助けてやらねば筋が通らないからな」

『……なんでだ? なんでお前はそうまで、助けてくれる? 俺はお前を殺した勇者なんだぞ? 憎まれこそすれど、手を差し伸べるなんて、とてもじゃないが信じられない』

「理由が必要か。ま、そう難しい物ではない。貴様は、私が認めた唯一の人間だからだ」


 魔王と勇者として敵対している頃、グリーンは幾度もエクセルの攻撃を跳ね除けてきた。

 人の身でありながら聖剣ロスヴァイセに選ばれ、魔王と同等の力を持った唯一の人間。幾度も相対する内に、彼女はグリーンに敬意を持つようになった。


 だからこそ、許せないのだ。彼の名に泥を塗り、言われなき罪を被せたくそ野郎が。


「私は貴様を尊敬している、そんな男が罪人として語り草になっている現状が、私も許せんのだ。それに少女になったと言えど、私は魔王だぞ。人類を絶滅させる野望を諦めたわけではない。再び命を手にした今、もう一度始めるつもりなのだ。人類滅亡計画をな」


 エクセルは不敵な笑みを浮かべた。転生しても彼女は、全くブレていない。人間を憎み、滅ぼす事に、何の迷いもなかった。

 目的が同じであれば、手を組むメリットはある。ただ、


『……お前に戦う力は残っているのか?』


 エクセルはにやりとすると、手を翳した。

 すると次元の壁が崩れ、中から禍々しい大剣が飛び出してくる。その剣を握りしめ、エクセルは数度振り回した。


「魔剣コーディネイター、私が魔王だった頃、愛用していた剣。聖剣ロスヴァイセの兄弟剣だ。貴様も当然見た事があるだろう?」

『という事は、お前も』


 エクセルは頷くと、剣を一振りした。

 途端、空が切り裂かれた。雲と大気が両断され、重い重低音が響き渡る。


「私も貴様と同じだ。生前の能力を引き継いで転生したのだよ。勇者と魔王。我らが手を組めば、敵は居ないだろう」

『……そうだな。だが、昨日も言った通り、俺はまだお前を信用は出来ない。ただ、力を貸してくれるなら。それを利用させてもらおうか』


 いつ寝首を掻かれるか分からない以上、全面的に信用するわけにはいかない。だがエクセルの力は絶大だ。


『俺は、人間が憎い! だから必ず人間を滅ぼす! そのために力を貸せ、魔王!』

「よかろう、私も人間が憎い! 絶対に人間を滅ぼしてやる! 力を貸してやろう、勇者!」


 元勇者の柴犬と、元魔王のエルフ。反逆同盟が組まれた瞬間である。


  ◇◇◇


 レファレント王国首都、ケイランス。

 中央に建つ宮殿から城下町を見下ろし、ポインター王は満足げに顎髭を撫でた。

 即位してから威厳を示すために生やし始めたが、中々似合っていて、個人的には気に入っている。


「ふふふ、感謝するよグリーン。貴様のお陰で俺は、国王の座に着く事が出来たのだから」


 第三王子として生まれた時、自分は王になれないとすぐに理解できた。

 王族の三男ほど虚しい立場はない。政治的価値も低く、精々兄が死んだときのための予備としてしか存在意味はなかった。

 兄からは幾度もいじめに遭い、両親も自分の事を碌に見てくれやしなかった。一体どれだけ悔しい、雌伏の日々を送った事だろう。

 だから、逆襲してやりたかった。


 そのために聖剣を引き抜いた勇者、グリーンを利用してやった。


 奴と接触した後、唯一信用できる魔術師に聖剣を細工させた。ポインターも所有者だと誤認させるように。

 グリーンが魔王を倒した後、その功績を奪えるよう、常に近い位置で援護し続けた。もし奴が負けても、問題ない。そうなれば人類はどうせ滅亡する。最前線に居ればとっとと死ねる、変に苦しまずに済むのだから。


「だが、結果としてグリーンは魔王を殺し、俺に最高の富と名誉をプレゼントしてくれた……全て俺の、思惑通りの展開だ!」


 ポインターは振り返り、壁に飾っているロスヴァイセを見やった。

 自身の権力の象徴、勇者の持つ聖剣ロスヴァイセ。彼を英雄王たらしめる、唯一無二の一品。


「だが、まだだ……まだ俺は、満足していないんだ。もっと、富を、名誉を! 父も兄達も成しえなかった偉業を果たしてこそ、俺の逆襲は成立するのだから!」


 ポインターの計画はまだ、道半ばであった。

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