13話
柴犬と英雄王の大喧嘩から、二年後。王国は今、新たなる君主による統治が行われていた。
前国王であるポインターは、己の犯した親殺しの罪と勇者グリーンへの裏切りから退位している。跡継ぎも居なかったため、国内は大混乱に陥ったが……その混乱を抑えた者が居た。
エクセルである。元魔王である彼女は辣腕を振るい、混乱の最中にあった王国を瞬く間に統治してしまったのだ。
元魔王ならではのカリスマ性である。エクセルの即位によって王国の方向性は、大きく変わっていく事になる。
人間と魔族が共存できる環境が整えられたのだ。王国各地で潜伏していた残党軍には人権が与えられ、同時に魔王軍も解散。当初こそいがみ合いが起こったが、今では人間と魔族が自然に暮らせるようになっていた。
エクセルの悲願であった大陸の奪還は、やや方向こそ違えど、完遂されたと言っていいだろう。
『やっぱ、凄いよなエクセルは。たった二年で国内をこんな、住みよい形にしてしまうなんて』
「元魔王をなめるでない。それより、本当に行くのだな」
あくる日の夜明け前、荷物を担いだグリーンに対し、エクセルは寂しそうに言った。
『ああ、そうでないと、こいつが寂しがるだろうしな』
「馬鹿言え、無理して付いてくる事などないだろうに」
そう言い、ポインターはそっぽを向いた。
自分には国を治める資格がない。そう思った彼は、エクセルがスムーズに国王になれるよう、ポインターは自分を死んだ事にしていた。
セフィロトから力を受けた反動は重く、この二年間まともに動く事も出来なかった。しかし、グリーンが懸命に看病したおかげで、つい先日動けるようになっていた。
「俺は多大な罪を犯してしまった。その贖罪は、しなければならない。これから国外を旅し、行く先に居る魔族と人間が共存できるよう、尽力するつもりだ」
「そうしてもらうと、こちらとしても助かる。まだ国の整備が終わっていないからな、国外となると、流石にまだ手が出せないのだ」
『ま、独りぼっちで旅するのも嫌だろうし。エルフの秘薬のお陰で年も取らないし、こいつの気が済むまで一緒に行くよ。友達はやっぱ、見捨てられないからさ』
「ふん、どこまでも、お人よしな奴だ」
憎まれ口をたたくも、ポインターはどことなく嬉しそうだ。
ずっと独りぼっちだと思っていた、捨てたと思っていた友達が戻ってきた。それが彼にとって、数少ない救いになっていた。
『じゃあ、またなエクセル。色々助けてくれて、本当にありがとう。必ずまた、戻ってくるよ。親愛なる、友人に会うために』
「ああ、首を長くして待っているぞ、グリーン」
柴犬を抱き上げ、額にキスする。名残惜しそうに抱きしめると、彼女はグリーンを解放した。
『さ、行こうぜ親友。風の向くまま気の向くまま、どこまでも旅をしよう』
「随分長い犬の散歩になりそうだ。だがそれも、悪くないかな」
『言ってろ』
軽口をたたき、二人はハイタッチする。
旅立つ男と柴犬を、魔王は姿が見えなくなるまで見送っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ちょっとした息抜きで書いた短期連載ですが、お楽しみ頂ければ幸いに思います。
今後も私の小説をよろしくお願いいたします。




