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11話

「要塞陥落、奇妙な動きをする柴犬……そもそも大分姿形が変わったが、どれだけお前を傍で見ていたと思っている。すぐに、分かったよ。お前が、転生して戻ってきたんだとな。グリーン」


 地下へ潜りながら、ポインターは愛憎入り混じった感情を吐き出した。


「……お前が、ロスヴァイセさえ手にしなければ……素直に俺に剣を譲って引きこもっていれば、こうはならなかっただろうに! お前は、俺の後ろに居るべきだったんだ! そうすれば……せめて俺の傍に置いてやったというのに……」


 微かに後悔の念が伺える。それを振り払い、ポインターは王城地下深くに作っていた、儀式の場にたどり着いた。

 無数の檻が置かれた、不気味な部屋である。檻の中には捕らえた残党軍が納められ、中央には生々しく蠢く、赤い植物が鎮座していた。

 球根に触手が生えた、奇怪な植物だ。そいつは触手を魔族に突き刺し、血液を吸い取って養分にしている。


「錬金術で作り上げた、セフィロトの根だ。魔族を養分にするこいつを育てれば、ふふふ……!」


 ポインターの目的は唯一つ、世界中の連中に、自分を見てもらう事。

 王族の三男は孤独だ。王位継承から最も遠く、得られる地位も低い。誰も自分ではなく、背後の親や二人の兄を見るばかり。誰も自分を見てくれやしなかった。


「もっと俺を、見ろ。近隣国を全部統一すれば、否応でも俺を見るだろう? だから俺は……力が欲しい。もっと、力を! 誰しもが目を離さぬくらい、眩しい存在に! こい、ロスヴァイセ!」


 ポインターの呼び声に答え、ロスヴァイセが飛んでくる。

 早馬が持ってきた情報は、逆算して三日前の物。グリーンの状況を考えれば、恐らくもう、王都に潜伏し、行動の機を伺っているはずだ。


「丁度いい、グリーン、お前も見ていろ。この俺を。圧倒的な力を持った、この俺を!」


 ポインターはロスヴァイセを、セフィロトに突き刺した。


  ◇◇◇


『どうにかここまで潜入できたな』


 潜入したグリーンとエクセルは、王都の外れにある廃屋に居た。

 驚く事に、王都内にも少数だが魔族への協力を行っている人間が居るのだ。長く敵対を続けていた人と魔族は、少しずつ歩み寄ろうとしている。


「まだエルフやドワーフといった、確執のある種族は居るが……そいつらとも対話の機会を設ければ、きっと分かり合えるはずだ。そのためにもこの作戦、成功させなくては」

『当然だ、ポインター……お前の愚行、絶対止めてやる!』


 ポインターの計画は、体を魔族に代えて、自分が魔王になる事だ。

 錬金術師にセフィロトと言う植物を作らせた彼は、魔族を養分にそれを育てているという。セフィロトは、多量の魔力を宿した果実を実らせる植物だ。その実を食う事で体が人から魔族へ変質し、絶大な力を得るそうである。


『ラディッツ達は、もう王都各地に散らばってるんだよな?』

「そうだ、作戦を振り返るぞ。まずラディッツ達が各地で暴れ、巡回している兵達の目を引き付ける。その間に我々は王城へ潜入。私は城内の兵達をかく乱しつつ、セフィロトに囚われた残党軍を解放する。そしてグリーンは」

『ポインターを一点突破する……あいつの相手は、俺じゃなきゃダメだ』


 友達として、必ずポインターを止める。それがグリーンの決めた事。


「残党軍の体力を考えれば、制限時間は短い。迅速、かつ急いで勝負を決めるぞ」

『分かってる。待ってろよ、ポインター!』


 作戦時間が近づき、二人は屋根に上った。ラディッツ達が暴れ始めたら、作戦開始だ。


「カウントダウン行くぞ。3、2、1……」

『ゼロ!』


 と言った途端、王城が突然爆破した。

 王城を突き破り、天まで届く大樹が生えてくる。薄緑に輝く大樹を見上げ、グリーンとエクセルは息を呑んだ。


『あれって……まさかセフィロトって奴か!?』

「それ以外に説明できる物がないだろう! ポインター、偽りの英雄とは言え、やはり人間の王なのは間違いない。我々の存在に気付いていたようだな!」


 セフィロトの根が、王都のあちこちから生えてくる。グリーンとエクセルは根を破壊し、進撃を防いだ。


「ラディッツ、ラディッツ聞こえるか! 作戦変更だ、王都から住民を避難させろ! 我々はセフィロトを止めに行く!」

『わ、分かりました! 魔王様、ご武運を!』


 後事を部下に任せ、グリーンとエクセルは王城へ走り出した。

 セフィロトの根から、蟻のような魔物が飛び出してくる。自分に害成す者と見なされたのだろう、エクセルとグリーンに襲い掛かってきた。


『邪魔を、するな!』


 ワイヤーを駆使し、グリーンは高機動攻撃で蟻を殲滅し、ファイアボールで焼き払う。エクセルも魔法と魔剣コーディネイターを駆使して援護してくれる。


『こうなればまどろっこしい作戦はなしだ、ポインターの居る場所まで一気に駆け抜ける! あいつは今、セフィロトの頂上に居るはずだ!』


 嗅いだ覚えのある臭いが、頂上から漂ってくる。かつての友、ポインターの臭いだ。


『ポインターを止めれば、全部の片が付く! 行くぞエクセル!』

「ああ!」


 二人はセフィロトの幹を駆けあがった。道中襲ってくる魔物をぶった切り、やっとの思いで樹木の頂上へ到着する。


『ポインター!』

「ほぉ、早いな。流石、犬になっただけの事はある。グリーン」


 グリーンは低く唸り、ポインターを睨む。

 木の天辺で王都を眺める彼の手には、毒々しい果実が握られていた。

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