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君が静かに眠るので。

 静かな孤島。

 たまに吹く風が多くの木々を揺らし、鳥たちは自由に空を飛ぶ。


 暖かく、雨もほとんど降らない、そんな孤島に、ボクは住んでいた。


 かつては「人殺し」と恐れられたボクだけど、今はただ静かに一人、暮らしている。


 毎日ただ空を見たり、海で泳ぐ魚を見つめたりしているだけ。退屈だけど、どうしようもなかった。この孤島には誰もいないし、人のいる島に近づけば石を投げられてしまうから。


 ずっと一人でいるものだから、寂しさなんてとっくに忘れてしまった。それでも、やっぱり誰かと話したいなと感じずにはいられない。





 ある、天気の良い日だった。


 ボクが魚でも捕まえようと海へ行くと、いつもならないものがそこにあった。


 人だ。


 小さな人間の女の子が、横たわっている。


 どうしてこんなところに?

 そう思った。きっと、難破したんだろう。海にいくつか小さな木の板が浮かんでいる。


 ボクは少しずつ女の子に近づいて、傷つけないようにそっと女の子に触れた。


 温かい。

 久しぶりに触れたその温かさに、ボクは少しヘンな気になった。心がドキドキするというか、血が騒ぐというか。


 ボクがその子をじっと見ていると、女の子は小さなうめき声を上げて、大きな目を開けた。


「あ、あれ……、ここは」


 小さな、妖精のような、可愛い声。その子の目がボクを捉えると、「わっ」と声を上げて起き上がった。


「あ、あの、えっと……」


 少し体が震えていた。もしかして、寒いからかな。それなら温めてあげないと。

 ボクがそっと手を伸ばすと、その子はとても怯えた目をした。


 ボクは驚いて、手を引っ込めてしまう。

 そんな目で見ないで。

 確かにボクの爪は伸びていて、鋭いけれど、君を傷つけるつもりなんてさらさらないのに。


 ボクは、どうすることもできなかった。

 女の子も、ピクリとも動かない。ただボクをじっと見ているだけだ。


 そうだ、魚を捕まえないと。ボクはそのためにここに来たんだった。


 ボクは海に入り、サササッと何匹かの魚を捕らえた。

 もう慣れっこだから、すぐに魚なんて捕まえられる。

 その様子をただ女の子は恐怖の目で見ていた。


 たくさんの魚を捕まえて、炎で軽く焼いてから食べ始めた。いつもと同じ味。ボクは女の子に気をかけつつ食べていた。

 女の子は羨ましそうに魚を見ているけれど、その感情を見透かされないようにと振舞っているのがバレバレだ。


 ボクが少し大きめの魚を炎でこんがりと焼いて、女の子に差し出した。


「……くれるの?」


 ボクがコクリと頷くと、彼女は嬉しそうに受け取った。よかった、さっきまでの恐怖の眼差しも今は無くなっている。


 彼女は「アチチ」と言いながら、美味しそうに食べ始めた。その魚をすぐに食べ終えたので、ボクがもう一匹差し出すと、「ありがとう」と言ってまた食べた。


 もう一匹差し出したけれど、「お腹、いっぱいなの」と言って受け取らなかった。


 ボクが残りの魚を食べ終えると、彼女はボクのことをじっと見ながら、口を開いた。


「私ね、ソフィア。一昨日くらいかな、海で離れ小島まで行こうとしたんだけど、嵐のせいで迷っちゃって。気づいたらここにいたの。……えっと、助けてくれてありがとう」


 にっこり微笑むソフィアに、ボクはとっても嬉しくなった。久しぶりに人間と関わって、しかも喜んでくれてる。懐かしい。


「えっと……。船作って、帰らないと。ママとパパが待ってるわ」


 彼女がキョロキョロと周りを見渡して、近くから木の板を集め始めた。


 ボクも一緒になって探し、彼女に木の板を手渡すと、また嬉しそうに微笑んだ。


「手伝ってくれるの? 優しいわね」


 にっこり微笑む彼女のように、ボクもにっこり笑った。上手く笑えてないかもしれないけれど、それでも彼女はボクの微笑む顔を見て、もっとにっこり笑った。


 何枚も板を見つけたが、まだ彼女は不満気だった。ボクが心配そうに彼女の顔を覗くと、彼女はさっきよりもお堅い笑顔を作った。


「うーん、船の作り方なんて分かんないわ! ただの板だけじゃあ島につけないだろうし……。あーあ、せっかく貴方にも手伝ってもらったのに……。申し訳ないわ」


 はぁぁぁと長いため息を漏らして、彼女はペタンと座り込んだ。

 ボクは慌てて彼女を笑わそうとした。目を吊り上げたり、舌をベェっと出したり、奇妙な踊りをしたり。


 彼女にはただ笑ってほしい。ボクはニッコリと笑う、あの顔がとても好きだから。


 ボクのおかしな行動のおかげで、彼女はクスクス笑い出した。

 ボクは、これを求めたんだ!


「フフフ、慰めてくれるの? 嬉しいな。そうよね、落ち込んでたって仕方ないわね」


 彼女はボクの手に優しく触れた。温かさがボクに伝わって、僕の心臓をドキドキさせた。


「そうだ、狼煙を上げよ! 煙を焚けば、きっと島の人が気づいてくれるわ。ねぇ、枯れ葉や枝を集めてくれない?」


 ボクはにっこり頷くと、森の方へ向かった。

 森にはたくさんの木があるから、枯れ葉や枝なんかはすぐに見つかった。


 こぼしてしまうくらい持って行くと、彼女は「すごいいっぱい!」と嬉しそうにそれらを一つに集め、山を作った。


「これを燃やすの!」


 ボクは自信満々に頷いて、そっとそれに火をつけた。

 それはすぐに燃え上がり、大きな煙を上げた。


 煙はまるで太陽に届きそうなくらいの高さだ。

 彼女はそれを見ながら、地面に座っていた。


 ボクも隣にそっと座って、一緒にそれを見つめていた。




 特に会話が生まれることもなく、ただ時が過ぎるのを待っていた。


 しばらくして枯れ葉などが燃え尽きた後、彼女は小さなため息をもらした。


「やっぱり、来てくれないかなぁ」


 ボクは彼女を元気つけようと、再び奇妙な行動をしたけれど、彼女はあまり笑わなかった。


 日が沈み、ボクは再び海に入って魚を捕まえて、綺麗に焼いてから彼女に手渡した。


 彼女は小さな魚一匹を食べただけだった。


 空が暗くなって星が瞬いてからも、彼女はただ空を見上げていただけだった。


 ボクは眠くなってきたので、彼女の服を軽く引っ張って、寝床に連れて行こうとしたけれど、彼女はそれを嫌がった。


 仕方なくボクは一人で寝床としている小さな洞窟へ行って、眠りについた。




 洞窟の入り口から、暖かい光が差し込んできた。

 朝だ。


 ボクは重たい体を起こした。それから海の方へ行って、水でも飲もうとすると、すでに彼女は起きていた。目が赤くなっていた。


「あっ、おはよう……」


 元気がない。ボクはニコッと笑って、彼女を元気付けようとした。やっぱり、そう簡単には彼女は笑わない。


 ボクが魚を差し出しても、二匹くらいしか食べなかった。

 ボクは二十匹くらい食べたけどね。




 お昼頃になって、ようやく彼女は笑うようになった。


「ごめんね、煙を上げたのに、誰も来ないから、悲しくなっちゃって……。でも、もういいの。ここにはあなたがいるもの! こうなったらここで楽しく生きるわ!」


 ボクは嬉しくなって何度も頷いた。


 それからボクらは毎日毎日遊び呆けた。

 彼女はたくさんの遊びを教えてくれた。



 砂場にお絵かきをした時は、僕はペンの代わりの小枝を何度も折ってしまった。それを見て彼女はクスクス笑った。

 彼女の描くボクは、とってもかっこよかった。


 隠れんぼをした時は、ボクは何度やってもすぐに見つかってしまった。「隠れられてないよ」と彼女はニコニコ笑って言った。逆に彼女はかくれんぼが得意だった。見つけるのに何時間もかかってしまった。


 鬼ごっこはボクの方が得意だった。すぐに彼女の姿が見えなくなるくらい速く走ったから。彼女は半べそをかいていて、すごく焦った。途中で彼女は森の中から果物を見つけて、美味しそうに食べていた。なるほど、彼女はこんなものを好んで食べるんだ。



 何日も過ぎた頃、彼女は咳をし始めた。

 すぐに体が熱くなって、ボクはどうしようもなかった。ただたくさん彼女に水をあげて、果物を採ってあげたり、魚をあげることしかできなかった。


 数日過ぎた頃、彼女はほとんど話さなくなった。

 ボクが心配そうに彼女を見つめていると、彼女は震えた細い手でボクの足を撫でてくれた。


 とてもとても温かくて、優しかった。


 また数日過ぎた頃、彼女は一日中眠っていた。ボクが彼女の顔に果物を近づけても、なんの反応も示さなかった。


 何日も経ったけれど、少しも彼女は体を動かなずに眠ったままだ。

 ボクがそっと彼女に触れた時、彼女の体がとても固くなっていることに気づいた。


 ボクは悟った。彼女は、死んでしまったんだ。


 ボクは吠えた。


 ボクの大きな声が木々を揺らし、狭い洞窟内で反響する。


 ボクの大きな手で彼女を抱いて、洞窟の外に出る。


 太陽はいつものように輝いていて、彼女とボクをまぶしく照らす。


 悲しくて、悲しくて、涙が出てくる。

 ボクの涙が彼女を濡らし、ボクの大きな悲しみの声は平和に飛ぶ鳥を驚かせた。



 ボクは、背中にある大きな翼で空を飛んだ。

 そうだ、ボクはドラゴン。


 彼女を抱えたまま、遠く遠くへ飛んで行く。

 どこへ行くかなんて分からない。

 どこか遠くへ行った彼女に会いたい。


 ボクもニンゲンだったら、同じところに行けたのに。

 どうしてボクは人間じゃないんだろう。








 大きなドラゴンは、そのままどこかへ消えてしまった。

 どこへ行ったかは、誰にも分からない。



 人間たちはそれを喜んだ。ドラゴンがいなくなったおかげで、あの島にも行ける。殺される心配なんてもうなかったから。




 それから何十年も経った頃、女の子がその島にやって来た。


「ねぇ、覚えてるかな。私、覚えてるよ。だからここにやってきたのに……。あなたがいないと、意味なんてないじゃない」


 その子は洞窟にあった、ドラゴンの鱗を見つめて呟いた。

 その目はとても潤っていた。


「ねぇ、いつかここに来るわよね? ドラゴンは、不死身だもんね……?」

最後のドタバタ感が否めません……。

前作もそうだったので気をつけないとなぁと思います。


読んでいただき、ありがとうございました。


また次回作もよろしくお願いしますm(_ _)m

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