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戀詩つづり  作者: 四色美美
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思いがけない結婚

美紀の挙式の後、淳一がプロポーズします。

 詩織は物陰から美紀と正樹を見つめていた。

卒業式後に挙式すると淳一が教えてくれたからだ。



血の繋がりのない父娘が愛し合っている。

それは詩織には驚きだった。



それでも感動していた。

入学式の翌日に美紀と話したせいではない。

亡き養母の夢を追い掛けている美紀を応援していたからだ。



美紀の叔母にあたる沙耶の口から、美紀の育ての母が憑依していることを聞いた。

そのせいで育ての父親を愛したのかとも思った。

でも違っているように感じた。



美紀は元々父親を愛していたのだろう。

そうでなければ、いくら母親に憑依されたからと言ってもあそこまで愛せないだろうと思ったのだ。

詩織は美紀の愛を本物だと感じ取ったのだ。



そして華燭の典を挙げている二人を見ているうちに、淳一と結ばれたいと強く思った。

自分も美紀のように幸せになりたいと願ったのだ。





 「美紀さんの産みのお母様は大阪の資産家の娘だったらしいの。だから身代金目当てで誘拐されたみたい。その事実をお父様が導き出したそうよ」



「そう言えば、職員室でも話題になっていたな」



「でもね、その方は双子で……だから間違ったって思ったみたいで、東京駅のコインロッカーに遺棄されたらしいの」



「遺棄!?」



「先生も私と同じ驚き方をするね。あのね、コインロッカーって気密性が高くて中に閉じ込められたら間違いなく死ぬらしいの。だから美紀さんは『私が此処に居るのは奇跡なのかも知れないわね』と言っていたわ」


あの日。衝撃的な過去を明るく話す美紀に詩織は感銘を受けていた。

だから正樹と美紀の恋を応援したくてこのチャペルにいるのだと思った。





 「私もあんな風に愛されたいな」


つい本音を言う詩織の手を取り淳一は跪いた。



「今すぐこの教会で結婚しよう。実は予約しておいたんだ」


あまりにも唐突で驚きを隠せない詩織。



「校長先生に許可はもらった。絶対にバレないようにすることが条件だ。どうか、この俺と結婚してください」


その瞬間、詩織の瞼から大粒の涙が零れ落ちた。



でも驚いたのはそれだけじゃない。

教会の扉の向こうには淳一の父と詩織の母が待っていたのだった。



淳一もう一度は跪いた。



「俺は親父に問いただした。結論は兄妹ではないそうだ。その時俺達の結婚を承諾させた。それが今此処にいられる訳だ」

淳一は一瞬遠い目をしたが、説得するかのように詩織を見つめた。





 「長尾父娘の結婚式を端から見ていて感動した。自分もあんな風に詩織を愛していきたい。そう思った。だからじゃない。俺は元々この日を選らんでいたのだから」



淳一はおもむろに立ち上がり、説得するかのように詩織をバグした。



「詩織の父親はやはり入学式に出席していた人だったよ。つまり二人は俺達は兄妹ではなかったんだ。それを知った時、頬に温かい物が流れた。それは詩織に対する愛その物の証しだと思ったんだ」


淳一はそう言うと今度は詩織を強く抱き締めた。



(俺はやはり詩織を愛してる。この気持ちは妹に対する物じゃない。俺の純真無垢の心だ)


恋した人が妹とだと解り苦悩した昨日までの自分。

揺れ動いた葛藤。



何度も諦めようと思い、封印しようとした。

でも駄目だった。

恋の炎は益々燃え広がったのだ。



そんな苦悶した日々が脳裏に浮かぶ。

その瞬間、淳一は又焼かれた。

そして……

一生涯詩織を愛していこうと思ったのだ。





 淳一は詩織から離れ、もう一度跪いた。



「詩織はまだ十六歳だ。未成年でも女性は結婚出来る歳だ。だから事前にお義母さんには承諾をいただいた。だから……俺と結婚してください」


詩織の手を取り、手の甲に口付けをする淳一。

それは何時か、映画で見たようなワンシーン。

何故だかウキウキしていた自分を思い出した。

それはきっと……

此処へと繋がっている。

そう思った。





 淳一はチャペルの前で新妻となる詩織を待っていた。

やはりケジメは着けなくてはいけないと思っていたのだ。

だから二親に詩織を託したのだった。



でも、それは企てた時から考えていたことだった。

詩織に贈る初めてのサプライズだったのだ。



詩織は淳一の用意したウェディングドレスを抱き締めながら控え室に向かったのだ。



詩織の母には着替えを、淳一の父にはエスコートしてもらうつもりだったのだ。

でもそのまま、戻って来なかったのだ。

いくら待っても戻って来なかったのだ。





 今か今かと気をもんで待っていた淳一は痺れをきたしていた。

でも一向にドアは開かなかった。



(何遣ってるんだ)

淳一はもう、居ても立ってもいられなくなった。



扉の向こうの様子が気になり、そっと近付いてみた。

ドアの向こうでは何かの音がしていたのだ。



(詩織に何かがあったのかも知れない)


淳一は急いでドアまで走り寄った。





 外では淳一の父親が詩織の手を取り予行練習をしていた。



「親父何をしてる!?」


堪らずに淳一は声を掛けた。



淳一はさっきからずっとイライラしながら詩織の到着するのを待っていた。

だから業を煮やしていたのだった。



淳一は詩織の側に近付き、唇を奪っていた。

もうこれ以上待てなかったのだ。



「こら、はしたない。式も済まないうちから」


淳一の父親は苦笑していた。



「親父が詩織を離さないから悪いんだ」



「詩織さん、ふしだらな息子でごめんな」



「親父が其処はふつつかだろう?」



「お前のような奴はふしだらでも勿体ない」



父親の言葉に詩織は思わず吹き出した。

でもすぐ涙に変わった。



「全くお前って奴は、こんな出来損ないですいません」



「いいえ、それだけ娘を愛してくれている証拠だと思いますから……」


その声に驚いて淳一はそっと顔を上げた。



目の前にいた人物に見覚えがあった。

それは入学式の時に詩織の傍にいた、本当の父親だったのだ。

淳一は慌てふためいた。



「まさか……。親父ったら人が悪いよ。一世一代の結婚式の時にこん失態をさせるなんて」



「お前は肝心なことが抜けている。詩織さんには御両親が居るんだ。それだけではない。詩織さんは十六歳なんだぞ。親の許可も無くて結婚出来ると思っていたのか? このバカタレが」

父親は呆れ果てたように言い放った。



「もしかしたらなかなか中に入って来なかった理由は?」



「多分私のせいです。卒業式から帰る車で道が渋滞していまして……」


詩織の父親は申し訳なさそうに言った。



「とんだ無様な姿をお見せ致しまして申し訳ございません」

淳一は頭を掻いていた。





 詩織には美紀と正樹の結婚式を見に行こうと誘った。

でも本当はその後に結婚式を予約していたのだ。



詩織に自分への思いを聞いた訳ではない。

だけど肌で感じていた。



『二人でいる時は詩織の方がいい』

あの言葉にグサッとやられた。

思わず抱き締めたくなった。

どんどん沸き上がる詩織に対する愛。

でもそれは封印させなくてはいけなかった。

本当の兄妹かも知れないと思っていたからだ。

だから淳一は自分でバリアを張ったのだ。



だから尚更愛しいのだ。

だから一刻でも早く結婚したかったのだ。

美紀と結婚した正樹のように、全身全霊で詩織を愛したいがために……





 改めて、詩織と並んだ父親は涙を流していた。

結婚式と言う、思いもよらないない場での娘との再会に動揺していたのだ。



突然の報告を元妻の旦那から告げられた。

それはまさに寝耳に水だった。

まだまだ子供だと思っていた詩織の縁談に思わずカーッとなった。



それも、今でも愛している元妻をねとった男の息子だと聞いて更にムカついた。

本当はこんな場所には来たくもなかったのだ。

それでもどんな奴がかっ拐っていくのか急に見てみたくなって式に出席することにした。

だから渋滞に嵌まってしまったのだ。



其処で目の当たりにした淳一の人となり。

待ちきれずに唇を奪った淳一に、自分の昔が重なった。



アナウンサーの妻を陰で支えたのは、偽りのない愛だった。

それが何故破局したのか自分自身でさえ解らない。



だからあれこれ考えたのだった。



気持ちを違えた原因の全てを妻のせいにしていた。

何故解ってもらえないのかと恨んだりしていた。

それらの何もかもが自分の我が儘だったのではないのだろうかと思い始められたのだ。



愛する妻を傍に置いておきたくて嫌がらせもした。



ワザと熱を出して仕事も休ませようとした。

テレビ画面に仲良く写る他のアナウンサーに嫉妬もした。



それが妻の気持ちが離れた原因だと知っている。

それでも離婚を受け入れられなかったのだ。

全てを愛だと思い込んでいたからだ。



自分の取った行動を正当化させていたからだった。



愛してさえいれば許されるものではない。

今ならそう言える。

父親はやっと妻を諦めることが出来たのだった。





 詩織は何も聞かされていなかった。

結婚式も父親との再会も……

だから本当に嬉しくて仕方ないのだ。



「実は、詩織に報告しなければいけないことがあるの」



「君のママから聞いた。あの人は今の相沢隼の出演を止めさせたいと。あれは取り止めになった。勿論、カルフォルニアの代理母の取材は番組として流すけどね」


それは嬉しい報告だった。

これで引っ越すことは無くなっただろう。

詩織の瞼には直美の喜ぶ顔が浮かんでいた。





 祭壇の前で愛を誓う。

いよいよ待ちに待った時だ。

淳一は自分の思いの丈を唇に乗せて、詩織の唇と重ねた。



その時、淳一は詩織の頬に涙が流れるのを見た。



(もう悲しみの涙はこんりんざい流させない)

淳一は改めて詩織を幸せにすることを誓った。





 淳一は詩織との愛を確かめたかったのだ。

これから始まる秘密の関係。

生徒と教師の夫婦生活。



同好会からクラブに昇格する俳句部のキャプテンと顧問の極秘事項。

そう……

淳一は俳句部としてもらえるように高校に交渉して認められていたのだった。



果たして淳一は校長との約束を守っていけるのだろうか?

又、部員達の自分への猛烈アタックを交わせることが出来るのだろうか?



でも淳一はまだ気付いていなかった。

俳句同好会のメンバーの大半が淳一に恋をしていることを……



詩織との挙式している最中にも、草いきれと詠んだ生徒をはじめとする三年生達の猛攻撃も開始されようとしていたのだ。

卒業式の後、皆淳一を探していたのだ。



会場となったのは詩織が直美や淳一と出逢った松宮高校の体育館だった。

生徒達は自分の想いを綴った手紙を淳一に託そうとしていたのだ。



あわよくば自分からプロポーズするつもりでいたのだった。



卒業生達の中には教師に詰め寄る輩もいた。

でも皆、淳一の居所を知らなかったのだ。

だから、校長もタジタジになっていたのだった。





 それでも校長は淳一のいる場所は決して明かさなかったのだ。



校長は正樹と美紀の婚姻をライバル達にうっかり漏らしてしまったからナーバスになっていたのだった。

だからその後に挙式を控えた二人を死守したのだ。



父娘の結婚は卒業後だから問題はない。

でも淳一と詩織の場合は違う。

教師と生徒。

それもこれから部に昇格する同好会の顧問と会長だったからだ。



正樹と美紀の内緒事を淳一に聞かれて浮き足立っていた。

だから思わず内緒にすることを条件に淳一と詩織の婚姻を許してしまったのだった。

校長は自分の立場も守ろうとしていたのだ。





 淳一は詩織と高校へ行き、無事に挙式したことを校長先生に報告した。



「いいか。絶対に内緒だからな」


校長先生の叱咤激励が飛ぶ。


二人は頭を深く下げた。



「あっ、言っておく。明日から同好会は部にすることにした。だから余計慎重にな」


それはいきなりの宣言だった。



「えっ!?」

詩織は思わず声を上げた。



「旦那には言っておいたぞ」



「旦那って、校長こそ失言ですよ。皆の前でそれをやられたら、立つ瀬がありません」


淳一は照れ臭そうに笑った。



「知っていたの? あん、ズルいよ」



「イチャイチャは他所でやってくれ」


校長先生の鋭い突っ込みが入った。






同好会は俳句部となりました。

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