プロローグ
とてつもなく広い魔王城。
その一角、廊下に倒れ込んでいる一人の女性。
その女性に向かって魔王はゆっくりと手を伸ばす。
しかし、その手が届くことは無かった。
「ふわぁー」
マンションの一室で天坂透は盛大なあくびをもらした。暇なのだ。
というのも天坂は今のこの生活、いや人生に飽きてしまったのだ。
ドラマや漫画のように何かあるわけでもなく、毎日が同じ行動の繰り返し。この日本が平和な証拠でもある。贅沢な悩みなのかもしれない。
それでも、暇なものは暇なのだ。
しかし、天坂は別に暇だからといってなにか特別なことが起こってほしいわけでもなかった。自分の生活が脅かされることが嫌だったのだ。全てがめんどくさいと思っていたのだ。
何もすることが無く暇だが、何をするにもめんどくさいと思ってしまう。
つまり、人生に飽きたのだ。
そんなわけで天坂は仕事がない今日、一日中ごろごろと過ごす。なにか見るわけでもなくなにかするわけでもなくただただ時が過ぎるのをボーッとして待つ。休日はいつもこんな感じだ。
だが、天坂はそれでもいいと思っていた。そんな人生でもそれなりに生活できればいいと。
他の人もきっとそう思ってるに違いない。天坂という存在は生きていれさえすればいいのだ。そう思っていた。たった1人、天坂を産まれてから今日まで見守ってきた1人を除いては・・・
突然、時空が歪んだ。
「・・・は?」
その瞬間視界に広がったのはだだっ広い1面真っ白な部屋。部屋というよりかは空間的な場所だ。ここが既に自分のマンションの一室ではないことだけは理解した。後は・・・頭の情報処理が追いつかず何も分からない。まぁ、情報処理が追いついたところでなにも分からないのだが。
「どこだ、ここ?」
口からでたのはそんな典型的な一言。
警察に電話しようか否か迷っていると
『やぁ、天坂透君』
そんな若い男の声が聞こえた。
「誰だ?どこにいる?」
その声への返答はこれまた典型的な一言。
『どこにいるかって?ふふ、目の前だよ』
辺りをキョロキョロ見ていた俺は再び前を向くと確かに1人の男がその場に立っていた。体型は小柄で、どう見積もっても10代ぐらいの俺より年下のガキにしか見えない。しかし、服装はなんともよく分からない動けば色が変わるという超高級そうな服だ。
「で、お前は誰なんだ?目的はなんだ?」
『初対面でお前呼ばわりなんて酷いんじゃないかなー、礼儀正しくしなさいって教わらなかったの?』
目の前の若い男改めガキはなにがそんなに嬉楽しいのか笑いながら俺をからかうような口調でそんなことを言った。
「いきなり拉致してきたやつに礼儀もくそもあったもんじゃねーよ。どうやって拉致られたのかもわかんねーし、俺をなんの得があって拉致ったのかも分かんねーけど早く家に帰らせろ。」
本音のままに出た言葉だ。
実際、拉致された方法も分からなければ、俺を拉致ったところで得は1つもないはずだ。両親は既に他界、俺も金持ちなわけではない・・・と、なると本当に理由が分からない。
その言葉を聞いたガキはまた嬉しそうに笑った。
『拉致?そうか、まだ理解できてないんだね』
「いや、理解もなにもまだなにも説明してもらってないんだが?」
『勘のいい君ならすぐ分かると思ってたんだけどなー』
「なぜそんなことがわかる?」
『だってずっと見てきたからね』
「?」
確かに俺はなにかと勘が鋭い。例えば雨が降ると予測して傘を持っていくと天気予報では晴れと言われていても必ず雨が降る。
だが、それは口に出して言ったわけではないので誰にもバレるはずがないし、ずっと見てきたってなに?もしかして俺を?100歩譲って女なら分かる。でも、俺を?男である俺を?もしかしてそっち系?何この子、怖っ!
『心外だなー、そんなこと思われるなんて、僕は別にストーカーでもなんでもないよ』
「まるで俺の心を見透かしたような言葉だな」
『うん、そうだよ』
「・・・はい?」
『だから、僕君の思っていること全部分かるよ』
「なんでだよ、てかマジで誰なんだよ」
『知りたい?』
「いや、家に返してくれればそれでいい」
『もー、つれないなー』
頬を膨らませているが、男なので可愛くない。
『あ、女にもなれるよ!』
また心を読まれた。
しかも、言葉通りこのガキ女になりやがった。
『へへーん、どお?』
意外と可愛い。じゃなくて!
「そんなことどうでもいいから早く俺を家に返してくれ」
『あ、そのことなんだけどね』
「なんだ、どうした?」
このガキなんか良からぬことを言い出しそうで怖い。
『君はもう・・・』
うん、絶対言うな。
『・・・地球上のどこにも存在してないよ』
ほらな・・・って
「はぁぁぁぁぁ!?」
予想外すぎる。
『やったね!』
「お前俺になにしたんだよ!?てか、やったねってなんだよ!」
『だって、君の表情がここに来て初めて変わったからね!それに・・・あんなつまらない世界から脱出できて君も嬉しいはずだよ?』
さっきまでの笑顔から一変、不敵な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「・・・なにを言ってるんだ?」
『君はあの人生に飽きていた、違う?』
「違・・・わないけど、俺は別になにも起こってほしくなかったんだが」
『それだと僕がつまらないんだよねー』
「・・・お前本当に何者だ?」
『ふふ、僕はねー、君を見てきた神様だよ』
「・・・今なんて?」
『だ・か・ら、君専用の神様だよー』
さきほどまでの不敵な笑みでは既になくなり、なんとも嬉しそうに言ってくる。そして、なぜか近寄ってくる。まだ女の姿だからか少しドキドキするような・・・いやそんなことはない!断じて!俺がこんなガキにドキドキするわけがない!・・・ないよね?そんなどうでもいい自問自答を繰り返す。
とそんなことはさておき・・・
「お前が神様?」
『そうだよ!しかも君専用のね!』
「その言い方はやめろ、どうせそれみんなに言ってるんだろ」
『やだなー、そんなわけないでしょ?』
「いやいや、神様って1人とかいたとしても少人数だろ?」
『何言ってるの?神様でもないくせに』
「た、確かに・・・」
ごもっともである。
『そもそも神様って1人1人についてるんだよ?』
「そうなのか!?」
『そうだよ、えーっと守護神とかいうやつかな』
なるほど、確かに守護神って1人1人にいるって聞くな。
このガキ再度改めて神様が誰かは分かった。だがしかし・・・
「で、なんで俺専用の神様が俺をこんなとこに連れてきたんですかね」
話は振り出しに戻る。
そう、これだけ話しておいてまだ肝心なことが聞けてないのだ。
『んー?それは僕が君の人生に飽きたからだよ』
「は?」
『君が君自身の人生に飽きたように僕も君の人生に飽きたんだよ』
「ちょっと待て、俺はそんな理不尽な理由でお前に殺されたのか?」
『だって僕の仕事は君を見守り続けること、でも君はいつも毎日毎日同じことの繰り返しだ、しかも別に新しいことを始めようとも思わないだろ?見てるこっちが暇すぎて死にそうなんだよねー』
神様って暇っていう理由だけで人1人殺せるんですか?今までの人生はなんだったの?てか守護神なのに?矛盾してませんかね?
「おい、その理由だとこの世の日本人ほぼ全員がお前ら守護神によって殺されてもおかしくないぞ?」
『みんなすごいよねー、よく飽きないね』
あれ?これもしかして俺の守護神がイカれてるだけじゃ・・・
『てなわけで、君には新しい世界に行ってもらうよ!えいっ!』
「!!」
いきなり真正面からタックルされた俺は、バランスを崩し後ろに倒れ込む。
「なにすんだ・・・!!?」
地面がない。そこだけぽっかりと穴が空いている。俺はその穴の中に頭から突っ込んでいった。
『じゃ、頑張ってねー!』
「おい!待て!」
穴を除いて笑顔で手を振ってくる殺人神様に俺は叫び手を伸ばすが俺の体は着々と落ちていく。
「くそ!覚えてろよー!」
俺はそんな捨て台詞を吐くとだんだんと意識を失っていった。
プロローグを読んで頂きありがとうございます!
今ある転生ものとは少し違った角度から攻めていく作品となっております。楽しく読んでいただければ幸いです。