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第3章 帝国の転換点

帝国の転換点は2度あったといえるだろう。

最初は領土拡張の終了宣言である。

2度目は帝国最後の戦争「英雄たちの衝突」である。


最初の転換点は突然訪れた。帝国歴156年9月、帝国は小規模の戦争後に小国を併合し、それを最後として領土拡張の終了を宣言、150年以上続いた侵略の歴史に終止符を打った。帝国は世界に向け、戦力的にこれ以上の戦闘は難しく、地方の安定化と内政に力を入れるという理由を発表した。


この発表は大きな波紋を呼んだ。

領土を奪われた国は激怒し、隣接した国は安堵と疑惑の念を抱き、帝国から離れた国は冷静に分析しようとした。


「帝国はさらに軍備を拡張し、世界を征服しようとしている」

「宣言を利用して各国を油断させ、不意打ちをしようとしている」

「吸収した国々を安定化させたあとに、また攻めてくる」

各国では様々な憶測が飛び交った。それらの内容は釈然としないものばかりだったが、方向性は統一されていた。それは、帝国は再び侵略してくるというものだった。

理由は簡単で、ただ一つ。

「帝国は、すぐにでも世界を滅ぼせるだけの戦力を持っていることは明らかである」

これにつきたのであった。



結論からいうと、帝国は崩壊までの間に領土防衛のための戦争以外は行わなかった。

帝国崩壊の発端となった「英雄たちの衝突」までの100年の間、帝国の領土は一欠片も減ることはなかった。帝国は数百の防衛戦争に勝利し、数万の戦闘に勝利した。100年の間、侵略に用いた牙を研ぎ続け、多くの外的を屠ったのだ。


そう、ずっと負けなかったのだ。

だが、突然負けた。国が滅ぶほどに負けたのだ。

不可解に、また不気味に。



次の転換点は、領土拡張終了から100年後に発生した戦争「英雄たちの衝突」である。

帝国が消滅する原因となった戦争だが、未だ不可解なことの多い戦争だ。

過去の資料や戦闘記録の調査は、ある仮説を生み出すのに十分な事実をもたらした。

その仮説とは、帝国最後の戦争「英雄たちの衝突」のときには、陸海空軍の要塞や大型の戦闘艦艇が戦争に参加していなかったのではないか、ということだ。


ある記録を紹介しよう。

帝国最後の戦争「英雄たちの衝突」の一つ前の戦争、いわゆる帝国が最後に勝利した戦争についてだ。この戦争は、帝国歴245年5月に勃発した。戦争自体は4ヶ月ほどで終了し、帝国の連続防衛記録の更新に貢献した。。

これは、北方諸国の連合と帝国北方軍が全面衝突した戦争であり、連合軍の兵員動員数は帝国陸軍北方軍の総員とほぼ同じだった。結果は帝国の圧勝であり、連合軍は全体の6割の損害を出し、帝国領から撤退した。

このとき、帝国側の迎撃戦力で確認されたものは、、

・陸軍北方軍 移動要塞 1基

・陸軍北方軍 陸上戦艦 2隻

・陸軍北方軍 陸上巡洋艦 16隻

・陸軍北方軍 陸上駆逐艦 70隻

・陸軍北方軍 戦闘車両 多数

・陸軍北方軍 歩兵 多数

・海軍北方艦隊 第4、第5艦隊 計120隻

・海軍北方艦隊 補助艦艇 多数

・空軍北方軍 空中要塞 1基

・空軍北方軍 2000機

この戦力は、北方にある帝国軍の総戦力に近いといわれており、帝国も本気の防衛だったといわれている。

このときはまだ、帝国北方を支える巨大戦力は健在であった。


なぜこの記録を話題にしたのか。それは当然ながら、この戦争を最後に陸空北方軍の要塞や陸軍北方軍の大型艦艇が戦闘に参加していたという記録がないからだ。

「英雄たちの衝突」時に、北方戦線では要塞や大型艦艇がいなかったのだ。


4年に及ぶ戦争の戦闘記録の中に、要塞や大型艦艇との戦闘に関するものが一切なかったのだ。最初は隠蔽や偽装を疑ったが、大きな戦績になるはずの撃破記録や偵察時の観測記録すらないのは、元々参加していなかったと考えるのが妥当だろう。全ての記録を消すことなど不可能であるからだ。

しかしながら、戦闘記録に関しては不可解なことが多いのは確かだ。4年に及んだ戦争の割にはデータが少なすぎるのだ。意図的に消された様子はない。元から書かれていないのだ。

のちにこの疑問に対する答えはわかったが、ここでの記述はしない。後述の「調査で得た資料」で、他の資料と関連させながら記述を行おう。


英雄たちの衝突は、帝国史上、いや世界史上トップクラスの大きさの戦争であったことは、誰もが知る事実である。転換点といっても、国の消滅という帝国にとっては最悪の転換点ではあるが。この戦争は、非帝国国家にも大きな被害をもたらした点では、その他の多くの国の転換点ともなっただろう。

つまり何が言いたいのかというと、転換点の表の意味は帝国の消滅であるが、裏の意味は帝国の不自然な戦力減少であるということだ。



別の観点から転換点を探してみよう。

戦争後の世界についてだ。

戦争が終わり、ひとまずは不要となった兵士たちの生活はがらりと変わった。

帝国が消滅したことにより、多くの旧帝国軍人は監視付きで故郷に帰された。戦時の武勇伝を語るものは多くいたらしいが、詳しく聞こうとすると何も喋らなくなった。旧軍人は、農家や警官、漁師など体力のいる仕事につくことが多かった。

各国の帰還兵は少し違った状況だった。帰還兵は、多くの棺とともに帰ってきた。皆死んだような顔をしており、誰一人として戦時の話をしようとはしなかった。なぜ語らないのか、それすらも頑なに口を閉ざした。多くが精神を病んでいて、病院で入院しており、自殺するものも多くいたようだ。


旧帝国領は軍人の復員により、ゆっくりと復興し始めた。帝国はもともと常備軍であり、常に志願制で追加の徴兵などがなかったため、各地は人が増えた形となったからだ。

しかし、その他の各国は労働人口の中心層が徴兵によって戦争に引き抜かれ、多くが使い物にならない状態で帰ってきたため、それなりの数の国が荒廃した。戦後20年経った今でも、安定しない国家は一定数存在する。


実をいうと、この戦争で文明レベルが100年ほど後退したといわれている。先進的文明であった帝国が多くの技術とともに消滅し、その他の国々も一部社会秩序が崩壊するほど疲弊した。世界にとっての転換点となったのだ。


しかし、この戦争はなぜ起きたのだろうか。

帝国の実力は、絶頂期とさほど変わらないはずであった。

その他の国々の力を合わせても、帝国には勝てないはずであった。

各国は、帝国と小競り合いはすれど、貿易などで利益を得ており全面的な敵対などしていなかったはずであった。

そもそも、帝国は世界の中心であり、滅びて困るのはその他の国々であり、現在の惨状はそれを証明している。メリットがないことは誰もがわかっていたはずなのだ。

次はそのあたりを見ていこう。

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