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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第89話

 アーネス様に飛んでもらい世界樹の迷宮の頂上を目指す。

 魔物の強さが最上級迷宮並みになってきたところで飛ぶのをやめて、みんなに鍵の空間から出てきてもらい一緒に歩いていく。

 最上級迷宮並みの魔物でも、今の俺達にとっては問題ない相手だ。

 俺も魔法の鍛錬を兼ねて倒しているぐらいだから。


「何か……ゴシュジンサマの魔法すごくなってないか?」

「うん、私もそう思う」

「同じく。何というか……質が上がったというか」

「ちょっといろいろあってね」


 アーネス様達は戦具を使うけど魔法を使うわけじゃない。

 逆にディアとティア、それにナルルは魔法を使っているわけで、この辺の感覚は彼女達の方が鋭く分かるだろうな。


「これでもあの人に比べたら全然なんだよな」

「あの人?」

「炎の黒い巨人と戦った時に現れた氷魔法の使い手の人」

「ああ、あのものすごい冷気の」

「ちょっとその人から教わる機会があったね」


 言葉は通じなかったけど、魔法を通じての会話。

 俺の限界なんて何の限界でもなかったということを、彼女は見せてくれた。


「なるほど。でも目の前で見せられてすぐに出来るのはゴシュジンサマの実力があってだろうな」

「私やディアには無理だよね~」

「そうかな?」

「旦那様は自己評価が低いところがありますからね」

「比べる相手もみんな古代の神クラスですしね」


 倒さなくちゃいけない相手がその古代の神だからね。


「魔物の質が変わってきたっしょ」


 先頭を歩くモニカからだ。

 それまで遭遇していた魔物とは違う魔物が現れ始めた。

 最上級の上……神級とでも言おうか。

 この先はまさに神のみが存在しえた場所だしね。


 魔物の姿もどこか神々しい。

 白い姿の聖属性を纏った魔物なんて初めて見た。

 植物系の魔物が多いけど、どれも邪気ではなく神聖な感じを受ける。

 それでも襲ってくることに違いはないので、倒して上へと進んでいった。


「時折、精霊力が流れていきますね」

「フレイヤ王国のウルズの泉は使われていないでしょうけど、その他の精霊王国の全ての泉が使用禁止になっているわけではないですからね」

「フレイヤ様の言葉に従って使用禁止にしているところもあるそうですが、フレイ王国はまったく聞く耳持たずだったみたいです」


 世界樹の迷宮……ユグドラシルの木の根を駆け上るような光りは精霊力がスキールニルの元に送られている現象だ。

 スキールニルはこうして長い年月をかけて精霊力を集めて、秘密のルーン文字をユグドラシルに刻み、そしてユグドラシルの復活のための精霊力をどこかに溜めている。




 神級となった世界樹の迷宮をさらに上ること数日。

 ついに終わりが見えてきた。


「壁?」

「どうやらここが世界樹の迷宮の終着点のようですね」

「この先にはどうやっていくのですか?」

「これを破らないといけません」

『その通りだ』


 世界樹の迷宮の終わりへと辿り着いた時、頭上から聞き慣れない声が聞こえてきた。

 見上げると、そこには大きなリスが一匹いた。

 でかい。


「あ! あの時のリスちゃん!」

『いよ~。久しぶりだな。元気していたか?』

「おかげさまで。あの時はありがとうございました」

『いいってことよ。無事にあんたの主人も生き返ったわけだし。ニーズヘッグが言う通りに面白いことになりそうだぜ!』


 マリアナ様達が言っていたニーズヘッグをフヴェルゲルミルの泉に連れていった時に現れて食糧と水と炎をくれたというリスか。

 リスというにはちょっと大きすぎるけど。


「初めまして、アルマです。先日はみんなを助けて頂いたようでありがとうございます」

『いいってことよ。ニーズヘッグが言う通りにお前が面白いものを見せてくれることを願っているからな』

「ええ、必ず面白いものを見せてあげますから」

『ははっ! 言うじゃねぇか! 期待してるぜ! おっといけねぇ。ニーズヘッグからの伝言だ』

「ニーちゃんからの!?」

『これをくれてやるから上手く使え。だとよ。そんで、これがそれ』


 大きなリスは口を膨らませると、口の中から何かを吐き出した。

 無数の尖った木の枝だ。

 手に取るとリスの唾液がついているわけでもなく完全に乾いている。

 口の中から吐き出したように見えたけど、これは違うな。

 もしかして俺の鍵の空間と同じように、この大きなリスの口の中は別の空間に繋がっているのでは?


「これは?」

『フヴェルゲルミルの泉で罪を浄化したユグドラシルの樹の根から生えた枝だとよ。お前9日間トネリコの木に吊るされて、しかも心臓をグングニルに刺されたんだろ? なら……お前なら使えるだろうってさ』

「なるほど……」


 蛇め……粋なことをしてくれる。

 まさか媒介がこういう形で手に入るとは。

 アースガルズで適した媒介があればと思っていたけど、これは本当にありがたい。


 ただのユグドラシルの枝じゃない。

 ニーズヘッグが戻り罪を浄化したフヴェルゲルミルの泉に伸びているユグドラシルの樹の根から生えた枝だ。

 これ以上の媒介はないだろう。


「ありがたく受け取らせてもらいます。ニーズヘッグにはありがとうと伝えてください」

『ああ、伝えておくぜ。お前達が勝てたらな』

「僕達が勝ったら?」

『ああ。お前ならこの壁を、それを使って壊せるだろ? 俺はこの先にいる鷲野郎にちょっと用があるんだよ。お前達が勝ってくれないと、鷲野郎のところからニーズヘッグの元まで帰るのは無理だろうだからな。たぶん、スキールニルに見つかって殺されちまうよ』

「必ず勝ちます。伝言よろしくお願いします」

『おぅ! 任せておけ!』


 この先は言わばスキールニルの領域だ。

 一瞬も気を抜くことはできない。

 この先に神の助けはもうない。

 今から俺達は神を殺しにいくのだから。


「壁を壊します。この先は神の領域。僕達は今から神を殺しにいきます」

「悪魔の方の神ですね」

「時にこの世に現れる悪魔と呼ばれていた存在は、スキールニルだったのかもしれませんね。いや、奴なのでしょう」

「世界を自分のものにするために、邪魔な国や人を殺していたのか」

「許さないっしょ」

「スヴァルトの、みんなの世界を滅ぼすなんて許せません」

「狼人族がやっと掴んだ幸せを壊させはしない!」


 ニーズヘッグが送ってくれたユグドラシルの尖った枝。

 枝に秘密のルーン文字を刻んでいく。

 炎の爆発、そして不可能を可能にするティールの文字。

 さすがは罪を浄化したユグドラシルの枝だ。

 高密度の魔力を流すと秘密のルーン文字が綺麗に刻んでいく。

 秘密のルーン文字は刻むだけでも難しいのに、こんなにもすんなり刻めるのは媒介となるこのユグドラシルの枝のおかげだな。

 マジで感謝です……ニーズヘッグ。


 秘密のルーン文字を刻んだユグドラシルの枝。

 今度は枝そのものに魔力を流していく。

 刻まれた秘密のルーン文字が俺の魔力に反応して光り輝く。


「いけぇ!!」


 ユグドラシルの枝はまっすぐに壁に向かっていくと、壁に当たると同時に巨大な爆発と共に壁をぶち破いていった。

 壁までそれなりに距離があった俺達のところまで届きそうなほどの爆風と爆炎。

 煙がゆっくりと消えていくと目の前には……どでかい穴が空いて向こう側が見えていた。

 空だ。

 雲一つない青い空。

 そして巨大な樹の幹と枝が空にまで届くように高く伸びている。


『門は開かれた。お前達の幸運を祈る』

「ありがとう」

『また会おう』


 大きなリスは真っ先に壁の先へと走っていった。

 その姿はあっという間に見えなくなる。

 あの大きさであの速さとは……。


 振り返ってみんなを見る。

 後戻りなんてできない。

 前に進むだけ。


「行きましょう」

『はい!』


 俺達も壁の向こう側へと足を踏み入れる。

 神の領域。

 まずはアースガルズを探す。

 ウルズの泉を取り戻すぞ。





~ユグドラシル頂上付近~


 1匹のリスが頂上を目指して駆け上る。

 アルマによって壁が壊されてどれほど時間が経っているだろうか。

 ラタトスクにも分からない。

 それほど必死に走っていた。

 ラタトスクの人生の中でこれほど焦って走ったことはない。


『はぁはぁ、はぁはぁ、見えてきた!』


 かつて何度も通った道。

 あの頃はこの道を上へと登っていき、そしてまた下へと降りていく。

 その繰り返しであったが、どうしようもないくらい楽しい日々だった。

 どんな言葉でからかってやろうか。

 今まで話せなかったことはたくさんある。

 ニーズヘッグのことを一番に伝えたい。

 フヴェルゲルミルの泉にニーズヘッグは戻った。

 アルマがスキールニルに勝てば、またあの楽しい日々が続いていく。


『おい! 鷲野郎!!!』


 ユグドラシルの頂上。

 そこに鷲はいた。

 ユグドラシルが世界を支えたその時から、鷲はずっとここにいるのだ。

 動くことはない。

 それが鷲の役目だから。

 ユグドラシルの頂上にある穴……天穴。

 鷲はこの天穴を塞ぐ役目を天地創造の時に授かった。

 鷲が天穴を塞がなければ、ユグドラシルが世界から吸収する知恵、知識、罪、そして魔力が全てこの天穴から溢れて消えてしまうから。

 ユグドラシルがユグドラシルとして維持されるために鷲の存在は絶対に必要だった。


『……おい……おい……なんでだ……よ』


 ラタトスクの目の前には首を落とされた鷲が倒れていた。

 その身体はもう天穴を塞いでいない。


『天穴は……なっ! これはっ!?』


 ユグドラシルの頂上にあるはずの天穴。

 それは何かで塞がれていた。

 天穴を塞ぐものが何でもいいわけではない。

 鷲は天穴を塞ぎ、知恵と知識はミーミルの泉へ、罪はフヴェルゲルミルの泉へ、そして魔力は世界へと送り出していた。

 いま天穴を塞いでいるこれはなにか?

 そして本来送られるはずのそれらはどこに送られているのか?


『まずいぞこれは……もう時間がない!!』


 最後の時が動き出す。


第三章はこれで終わりとなります。


第四章の再開は11月中を予定しています。

11月1日から再開できるかは未定です。


「異世界で賢者になる」は第四章で完結となります。

再開をお待ちください。

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