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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第84話

 オーディン王国の次期王はアーネス様だ。

 そして現王はアーネス様のお父様である。

 その現王に最後の戦いに向かうことを報告している。

 詳細な部分はぼかして、世界に危険が迫っているので、世界を救うための戦いに行ってきますという感じだ。

 アーネス様とマリアナ様が運命に女神になることも伏せてある。


「お前達が世界を救う戦いに……私は誇りに思う。国のことは私に任せて、お前達はお前達にしか出来ないことをしてきてくれ」

「はっ!」

「この戦いが終わったら、孫の顔を見せてくれよ?」


 何だかんだでアーネス様とマリアナ様との子作りは延期になりっぱなしだ。

 義父様に孫の顔を見せてあげたいけど……運命の女神となったアーネス様、マリアナ様と、ミーミルの泉の番人となった俺の間に子供って出来るのかな?

 まぁ多分出来るよね。


 王への報告を終えて部屋に戻る。

 フレイヤ王国への出発は三日後だ。

 ティアとディアの特訓は順調だという報告をマーナが知らせてくれた。

 マーナもティアとディアが特訓しているという知らせを受けて、世界樹の迷宮で特訓を始めていたのだ。


「失礼します」


 部屋で最後の戦いのことをあれこれ考えていると、アーネス様が部屋にやってきた。

 普段は動きやすい服装を好むアーネス様が、今日は夜会にでも行かれるような綺麗なドレスを着ている。

 でもやっぱりどこか動きやすそうなドレスだけど。


「アーネス様、とても似合っていらっしゃいます。美しい」

「うふふ、ありがとうございます。旦那様に褒めて頂けるのが何よりも嬉しいです。でも私への呼び方は結局変わらずでしたね」

「あはは。次期女王様ですからね。それに昔からの癖で」


 アーネス様とマリアナ様とは結婚したけど、どうして呼び方と話し方は昔からの癖で変わらなかった。

 これはこれでいいかと勝手に納得してしまったんだけどね。


「いよいよですね」

「うん。世界樹の迷宮からアースガルズを目指したら、スキールニルとの戦いが始まります。もう後戻りは出来ないですね」

「まさに世界を賭けた戦いですね。腕が鳴ります。私達の世界をスキールニルが勝手に消すなど許しません」

「はい。絶対に止めましょう。勝って、世界を救って、戻ってきましょう」


 俺達の中で単体での戦力として見た時に、アーネス様は間違いなく最も強い。

 スキールニルとの戦いにおいて、アーネス様にはあの神器を防いでもらうことになるだろう。

 フレイ様の宝剣だ。

 古代の神フレイ様が持っていた神器で、剣が自ら宙に浮いて戦ってくる。

 その動きは古代の神の中でも達人と呼ぶに相応しい強さ。


 神獣フェンリルを倒した後に、アーネス様はこのフレイ様の宝剣と斬り合った。

 あの時はフレイ様の宝剣の攻撃を防ぐのに精一杯で、手も足も出なかったとか。

 あれからアーネス様は剣の腕を磨くことに必死に努力されていた。

 すでに国内では、というよりも人族の中では右に出る者がいないほどの剣の使い手のアーネス様が、満足することなく努力を重ねる姿は多くの騎士達に影響を与えただろう。

 本人にとってはフレイ様の宝剣という高い目標があったわけだけど。


「運命の女神となっても、オーディン王国の女王に即位することは可能なのですよね?」

「たぶん大丈夫ですよ。運命の女神といっても、かつての神話の時代のように主神オーディンに仕えるわけではありませんから。ユグドラシルが枯れないようにウルズの泉でのお務めはありますが、それはマリアナ様とモニカがいます。アーネス様が女王として即位すること自体は問題ありません。ただ、ずっと女王のままでは問題でしょうから、次代の王に引き継いだ後は、ウルズの泉に戻った方がいいでしょう」

「よかった。でも今の話はスキールニルを倒せた時の話ですよね」

「そうです。スキールニルを倒すことが出来なかった時は、奴がウルズの泉を取り返しに来るのを防がなくてはいけません。この場合は、アーネス様がオーディン王国に戻ることは難しいでしょう」

「これは何があってもスキールニルを倒すしかありませんね」

「絶対に倒しましょう」


 ノルン3姉妹はオーディンに仕えていた。

 でもアーネス様達はオーディンに仕えるわけではない。

 ウルズの泉を維持さえ出来れば、後は割と自由なんだと思う。

 ミーミルの泉の番人となる俺とは違って。


「これが最後の戦いですね」


 アーネス様が夜空を見ながら言った。

 最後の戦いか……。


「最後かどうかは分かりませんよ」

「え?」

「僕達は勝ちます。絶対勝ちます。だからこそ、世界は続きます。世界が続く以上、新たな戦いが待っているかもしれません」

「なるほど……確かにそうですね」

「ええ。この世界の行く末を……僕達は見守っていくのですから」


 俺はミーミルの泉の番人として。

 賢者の神、水の神として生きていくことになる。

 泉から出られないってことが欠点なんだよな。


「旦那様」

「ん?」


 アーネス様が隣にぴったりと密着してくる。


「何か隠しごとをしていますね?」

「え?」

「この戦いの中で、旦那様だけが知っている、もしくは関係してくる何かがあるのですか? 何となくそんな気がして」

「あ~……」

「言えないのでしたら無理に仰らなくて大丈夫です。私は、私達は旦那様を心から信頼していますから」

「ん~……」


 別に隠しておくことでもないんだけど。

 ただ……スキールニルを倒せなかった時は、お別れの可能性が高い。

 アーネス様達はウルズの泉を守るために。

 俺はミーミルの泉を守るために。

 それぞれ動けなくなるだろうから。


「スキールニルに勝てば……そんなに問題ではありません。むしろ良いことかも? まぁちょっと退屈かもしれませんが」

「退屈?」

「ユグドラシルのために3つの泉が必要です。ユグドラシルの栄養そのもののウルズの泉。ユグドラシルに集まってしまう罪の浄化のためのフヴェルゲルミルの泉。そして最後に……ユグドラシルに集まる知恵と知識を溜めるためのミーミルの泉。フヴェルゲルミルの泉にはすでにニーズヘッグが戻って復活しています。そしてウルズの泉もこれから取り返して、アーネス様達が新たなノルン3姉妹となることで復活します」

「はい」


 ウルズの泉を復活させた後にスキールニルを倒しにいく。

 ここで倒せれば問題ないんだけどね。


「最後のミーミルの泉。この復活には番人が必要なんです。でもミーミル様はすでにスキールニルに殺されてしまっています。あの時会えたミーミル様は霊体の存在でした。だから、新たな番人が必要です」

「それが……旦那様なのですね」

「はい。ミーミル様は最後の力を泉に残してくれています。僕が泉に戻れば、僕は新たな番人となります。賢者の神、水の神として生まれ変わります。つまり、僕もアーネス様達と同じで人では無くなってしまうのです」

「つまり私達と一緒に永遠の時間を過ごせるのですね!」

「そうなりますね。ただ僕は泉から出られないんですよ。だから退屈だなって」

「私達が会いにいけばいいではありませんか。毎日交代で、旦那様のもとに会いに行きます!」

「そうしてもらえると、僕もすごく嬉しいです。ただ……全てはスキールニルを倒せたらですけどね。ウルズの泉を取り返した後に、スキールニルを倒すことが不可能だと判断した場合、僕はミーミルの泉に単独で戻って番人になります。3つの泉が復活さえすれば、今後何百年かはスキールニルに対抗できるそうです。でも、そうなったらアーネス様達が会いにくるのは難しいでしょう。ウルズの泉を守らないといけないので」

「あ……なるほど。やはり全ての元凶はスキールニルですね。何があっても絶対に奴だけは倒します」


 俺がミーミルの泉の番人になることを知ったアーネス様は、改めて打倒スキールニルの決意を固めている。

 俺も同じだ。

 スキールニルを倒すことさえ出来れば、後は何とかなるんだから。


「スキールニルは待っているでしょうね。僕達が来るのを」

「世界樹の迷宮……いえユグドラシルですか。ユグドラシルこそ奴の居城。多くの罠を張って待っているのでしょう」

「間違いなく。スキールニルにとっての敵は僕達だけではないですが、それでも僕達のことは相当警戒しているはずです。フヴェルゲルミルの泉が復活したことも分かっているでしょうし」


 弱ったユグドラシルはスキールニルに秘密のルーン文字を刻まれてしまっている。

 それによって歪められた理で、ユグドラシルはスキールニルを守るために動いてしまうかもしれない。

 どんな隠し玉があるのか……またあの炎の巨人スルト並みの戦力を投下してくるのか。

 でもユグドラシルでスルト並みの戦力を投下したら、ユグドラシルそのものが傷ついてしまいそうだな。

 スキールニルにとってはユグドラシルが弱まることは良いことなのか?


「アーネス様」

「はい」

「僕は意外と……いえ、かなり欲張りなんだなって今さら思います」

「旦那様がですか?」

「はい。僕は全て……全て手に入れたい欲張りなんだなって。大好きな人と永遠に愛し合っていたいですし、大好きな世界で幸せに暮らしていたいです。そして大好きな人達が幸せに暮らせる世界が欲しいです。つまり欲張りってことです」

「うふふ、とても素晴らしい欲張りですね。そんな欲張りさんは大歓迎です」


 何もかも手に入れたい。

 それが本音だ。

 願わなければ叶うことはない。

 願った中で叶うことがある。

 なら、全てを願おう。


「旦那様、私も欲張りなんですよ。今日は旦那様をとことん独り占めですから」

「ええ、僕もアーネス様を独り占めです」

「私はいつだって旦那様だけのものです」


 スキールニルとの戦いはもう目前だ。

 僕達は互いの愛情を貪りながら、安らかな眠りに落ちていった。


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