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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第81話

 この世界樹の迷宮は他に繋がっていない。

 行き止まりの広い円形の構造となっている。

 数ある内の世界樹の迷宮への入口の中でも、こうして行き止まりの構造を持つものはフレイヤ様でもここしか知らないそうだ。


 世界樹の迷宮の構造で全て同じなのは、巨大な樹の根の中ということ。

 その樹の根の中を探っていく。

 今の俺なら分かるはずだ……というか、探ったら樹の根の中は『それ』でびっしりだった。

 秘密のルーン文字だ。


 すごいなこれ。

 どこもかしこも秘密のルーン文字で刻まれているのか。

 ここまでしないとユグドラシルの支配権を完全に掌握はできないわけか。

 これは何百年、いやもしかしたら何千年もかかるわけだ。


 樹の根を魔法でえぐり取ってみる。

 ほんの数cmえぐり取るだけでも、とんでもない魔力を注いで鍵の魔具に魔法を使ってもらわないとえぐれなかった。

 最上級の王家の迷宮にいる魔物を瞬殺できるほどの魔法の10倍ぐらいの魔力量で、1cmえぐれるといった具合だ。

 何とか5cmほどえぐったところで見えた。

 上下左右の幅は3cmほど。

 3cmの幅に5文字ほどの秘密のルーン文字が刻まれていた。


「ディア、これ見て」

「ん? なんだこれ? 何かの文字か?」

「そうだね。これが何か分かる必要はないんだけど……これ消せる?」

「え?」

「絶でさ。1文字だけでもいいんだけど、消せるかなって」

「ふ~ん……とりあえずやってみるよ」


 ディアの絶がえぐり取った穴の中に放たれる。

 全力では無さそうだな。

 さて……だめか。


「消えてないね」

「だめか……なら全力でいってみる」

「お願い」


 ディアが絶を構えると、体内の魔力を込めていく。

 絶は制御が難しい。

 最初の頃は絶そのものを撃つことさえ出来なかったっけ。

 今ではこんなにも多くの魔力を込めた絶を放てるように成長してくれた。


「あ、失敗」


 あ……まぁ、そういう時もあるよね。


「もう一回」


 再び絶を構えるディア。

 今度は最大限の魔力を込めた絶が上手く放たれる。

 えぐり取った穴の中に絶が入った。


「う~ん……だめか」

「消えなかったか?」

「うん。消えてないね」


 残念ながら秘密のルーン文字を消すことは出来なかった。

 絶対に消えないものなのか。

 それともディアの絶の力が足りてないのか。

 分からないけど、現時点で出来ないということが分かったのは収穫だ。


「……これを消したいのか?」

「消せるかどうか分からなかったけど、試しにやってみただけだよ。消せないなら、消せないで仕方ないよ」

「つまり、消せるものなんだな?」

「いや、それも分からない」


 秘密のルーン文字は俺も分かるけど、これをユグドラシルに精霊力を使って刻んでいる術式はスキールニルが独自に作り出したものだ。

 それがどんなものなのかは分からない。

 でも消せないってことはないだろうな。


「分かった」

「ん?」

「出発の日まで俺はここに残って、絶でそれを必ず1文字でも消してやる」

「あ、いや。消せるかどうか分からないんだよ」

「やれやれ。ゴシュジンサマは曖昧で頼りないからな。……だから俺が絶対に消してやるよ」


 素直じゃないところは変わってないな。


「ディア! 私も手伝う! 再生かけてディアが不眠不休で頑張れるように! それに私も再生をもっと上手く使えるように不眠不休で頑張る!」

「え? いや、ティア待って。俺は別に……」

「さすがねディア。そしてティアも。双子で力を合わせてご主人様の期待に応えるのよ」

「はい! ナルル様!」

「あ、いやナルル様? 俺、不眠不休するつもりは……」


 ティアとナルルも変わらないな。

 仲の良い双子姉妹とその姉って感じで。


「さてご主人様」

「ん?」

「検証は終わりですか?」

「そうだね。ここで試したいことは終わったかな」

「では今夜はここに泊って、明日はスヴァルトの町でしたね」

「うん」

「ディアとティアはここに残って、絶と再生の完成のために頑張るそうです。つきましては……ディアには魔力を、ティアには精霊力を今夜与えて欲しいのですが」

「あ~そうだね」


 絶と再生の制御を高めるためには魔力と精霊力が必要だ。

 精霊力もフレイヤ様が集めて下さった精霊石がある。

 俺の取り分で補えるか。

 フレイヤ様とミラさんが集めた精霊石はかなりの量だったからな。


 今日の残りの基礎魔力分は全部ディアに与えよう。

 そして補充した精霊力は全部ティアに与えよう。

 それで二人には絶と再生の制御を高めてもらう。

 どこまで高められるか分からないけど、上手くいけば……スキールニルに対する切り札になり得るかもしれない。


 世界樹の迷宮から戻ると、フレイヤ様が用意してくれた部屋へと案内される。

 その日の夕食はフレイヤ様とミラさんと一緒に取った。

 精霊王国の様子をあれこれ聞かせてもらった。

 それに明日向かうスヴァルトの町のことも。

 かなり発展しているらしく、明日久しぶりにみんなに会うのが楽しみだ。


 夕食後に部屋に戻ると、そこから鍵の空間の中に入る。

 せっかく部屋を用意してもらっても、結局この中が一番落ち着くんだよね。

 絶対に安全だし。


「え~! やだよ!」

「いいからいいから。似合っていますよ」

「ディア可愛い!」


 お風呂から上がってベッドで横になっていると、向こうからティア達の声が聞こえてきた。

 なんだ? と思っていると、ティア達が部屋の中に入ってくる。

 見たことのないメイド服姿で。

 いや、それメイド服なのか? なんかいろいろ……間違ってないか? 男としては嬉しい限りなんだけど。


「いまこの王都で流行っているメイド服でございます」

「こんなのが流行っているの?」

「はい」


 本当かよ。

 いったい誰が流行らしたんだ。

 その人に賞状を送りたい。


「ほらディア」

「ぬぐっ! ゴ、ゴシュジンサマ」


 いろいろと間違っているけど男としては大歓迎なメイド服の裾を掴んでちょこっと持ち上げながら、ディアが真っ赤な顔で挨拶してきた。

 なんとも可愛らしい。


「ご主人様! ティアも見てください!」

「私もいかがですか?」


 ティアとナルルも、色やデザインも少し違うけど、同じようにメイド服としてはいろいろ間違っているが男としては大歓迎なメイド服を着て、俺の隣にやってくる。

 言葉ではディアほど恥ずかしがってないけど、ティアもナルルも顔や耳は赤いのが分かる。

 これはさすがに恥ずかしいんだろう。


 今日はティアとディアに、精霊力と魔力を注げるだけ与えないといけない。

 これは頑張らねば。

 うむ! 頑張れば!!





 翌日。

 俺はナルルと一緒にスヴァルトの町へと向かった。

 ナルルの闇馬に乗って走ること2時間ほどで到着だ。


「ふぅ、着いたね」

「お疲れ様です」

「僕は何もしていないけどね。ナルルの闇馬に乗っていただけだし」

「昨日のお疲れが残っているのでは?」


 ナルルは楽しそうに笑って言った。


「いやいや。ティアに再生をかけてもらったから大丈夫だよ。確かに昨日はいろいろ大変だったけど」

「ご主人様に負担をおかけしてしまって申し訳ありません」

「全然負担なんて思ってないよ。最高に楽しかったし」

「そう言ってもらえて幸せです」


 ナルルと一緒にスヴァルトの町を見て回る。

 ここにいるスヴァルト達は、みんな俺が制約から解放してあげたスヴァルト達だ。

 精霊王国にいるスヴァルトのほとんどはここに集まっている。

 新たにスヴァルトが産まれたとの情報が入れば、この町のスヴァルト達が引き取りにいって保護しているのだ。


 町は立派に発展していた。

 一つの町として成り立っている。

 そしてここに住むスヴァルト達はみんな幸せそうだ。


「アルマ様! ナルル様! ご覧になって頂きたいものが」

「ん?」


 やってきたのはマルドラさんだった。

 マルドラさんの案内でとある家の中に入っていく。

 そこにいたのは、ケーラさんだった。


「ケーラ」

「ナルル様。アルマ様まで。よくお越しくださいました」

「元気そうだな。その様子だと無事に産まれたのだな」

「はい」


 産まれた?


「アルマ様。実はケーラは妊娠していました。ニブルヘイムへ行っている間に、産まれたようです」

「ええ!? 本当!?」

「はい。赤ちゃんはこちらに」


 隣の部屋には、すやすやと眠る赤ちゃんがいた。

 スヴァルトだ。

 父親の男性が赤ちゃんのすぐそばに立っている。


 スヴァルトとスヴァルトが恋をして、そして赤ちゃんが産まれた。

 エルフ族はかなり妊娠し難い種族のため、スヴァルト同士で結婚をしたという話は聞いていたけど、赤ちゃんが産まれたのはこれが初めてだろう。

 第一号はケーラさんの赤ちゃんか。


「見ても?」

「お願いします」


 まだ生後間もない赤ちゃんの肌に鍵の魔具を当てて、制約があるか確かめる。

 ない。

 そこに制約は無かった。


「ケーラさん、それにみんな。おめでとう。この子に制約は初めから無いよ」


 その言葉にケーラさんも父親も、そしてナルルさんも嬉し涙を流して喜んだ。

 制約が解除されたスヴァルト同士の子供には、制約が初めから課されない。

 スヴァルト達にとってこんなに嬉しいことはないだろう。

 これで何の不安もなく、スヴァルトは子を産めるようになるのだから。


 このことはその日のうちにスヴァルトの町中に知れ渡った。

 あまりにおめでたいことに、酒場では祝いの宴が始まっている。

 中には今日のお代は全部無料だと豪語するお店まで出ていた。

 お祭り騒ぎの町を、ナルルの家の一室から眺める。


「みんな本当に喜んでいるね」

「はい。これも全てご主人様のおかげです」

「これからたくさんのスヴァルト達の子が産まれて。またその子が子供を産んで。……そうして歴史が繋がっていくんだね」

「はい」


 その未来に繋がるためにも、スキールニルを倒して世界を救わないといけない。

 スキールニルが望む世界に、ここは無いのだから。


「ナルル。絶対に勝とう。勝ってスヴァルト達のこの町を、未来を守ろう」

「はい。私はどこまでもご主人様と共に。微力なれど、この命を賭けて」

「頼りにしているよ。何だかんだ、前線の指示はナルルに頼っているところがあるからね」

「お任せください」


 俺達の陣形ではモニカとナルルが前衛だ。

 その後ろにマリアナ様とディア。

 さらにその後ろに俺とティアがいて、アーネス様は上空にいることが多い。

 マーナさんが入ってからは、マーナさんも前衛と中衛の間ぐらいって感じかな。

 月狼化したらモニカが乗ってるし。

 そんな陣形の中で、ナルルさんはモニカやディア、それにマリアナ様に戦闘の指示を出してくれている。


「ご主人様」

「ん?」

「全ての戦いが終わり、無事に帰ってくることが出来たら……私も子供を産みたいです」

「うん」

「アーネス様達のお許しを頂いて……ご主人様の……」


 町はいつまでも賑やかな声を夜空に響かせていた。


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