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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第80話

 行きが下りなら、戻りは上りだ。

 通常なら上り坂を延々と上がるのは苦労するだろう。

 でも、道が分かっているなら話は違う。

 アーネス様に飛んでもらえればいいのだから。


 ニブルヘイムで一度死んだ俺はヘルによって蘇生されたらしい。

 その辺の記憶はかなり曖昧だ。

 俺が死んでいたとされる9日の間に、俺は夢を見ていた。

 そこで誰かと会っていたはずなんだけど、まったく思い出せない。

 確か女性だったはず。


 まったく思い出せないこともあれば、思い出せることもある。

 思い出せるというか、知識として俺の中にあるというか。

 この知識が俺の中にあるのは、会っていた誰かのおかげのはずなんだけどな。


 とりあえず今は知識を得られたことが大事だ。

 これはスキールニルとの最後の戦いにとても重要な意味を持つ。

 なぜならスキールニルも得ている知識だから。


 秘密のルーン文字。


 俺の知識の中にこれがある。

 そしてスキールニルは、オーディンが2つの目のグレイプニルを手に入れようとした時に対価として秘密のルーン文字を求めた。

 この秘密のルーン文字をユグドラシルに刻み続けている。


 ユグドラシルは天地創造の際に、この世の理を定めた。

 その理を、秘密のルーン文字を刻むことで歪ませているんだ。

 ユグドラシルが本来の力を持っていれば、スキールニルは秘密のルーン文字を刻むことは出来なかっただろう。

 だからスキールニルはユグドラシルを弱らせるために、3つの泉を奪った。

 結果、本来の力を失っていったユグドラシルはその身に秘密のルーン文字を刻まれてしまうことになる。


 フヴェルゲルミルの泉にニーズヘッグが戻った。

 この変化はスキールニルに伝わっていることだろう。

 ユグドラシルが力を取り戻し始めているのだから、分からないはずがない。


 スキールニルの計画がどこまで進んでいるのか。

 ユグドラシルを弱らせてルーン文字を刻んでいるが、奴の望む世界へとユグドラシルの理が歪められた時には、ユグドラシルが弱ったままではいけない。

 まして枯れて世界を支えられなくなっては、奴の望むヴァナヘイムの世界も滅んでしまう。

 だからエルフ族を使って集めている精霊力を、どこかに隠して溜めているはずだ。

 奴の望む世界が成った後に、その精霊力を使ってユグドラシルの力を戻すために。

 フヴェルゲルミルの泉によってユグドラシルが力を取り戻し始めたとしても、すでにスキールニルの計画に支障がないのかもしれない。


 いろいろ考えても仕方ない。

 俺達がするべきことはウルズの泉の奪還だ。

 それ以外にない。


 ニブルヘイムから上へとアーネス様に飛んでもらうこと3日。

 地上へと戻った。

 行きは8日間もみんなで下っていた道のりだったけど、外に出るために上へと飛んでいくだけなら3日間だった。

 ここからさらに5日間ほど北に向かって飛んでいけばオーディン王国だ。




 オーディン王国の国境が見えてきた。

 鍵の空間の中は安全とはいえ、やっぱりオーディン王国に帰ってくるとほっとする。

 オーディン王国の最南端の熱帯雨林には、様々な部族が暮らしている。

 その中にはモニカの故郷のアマゾネスの部族の里もある。


 そういえばモニカとは正式に結婚していないから、アマゾネスの里に挨拶に行ったこともないな。

 あまりモニカの口から故郷のことを聞いたこともないし。

 ただ俺との間に子供が出来たら必ず女の子のはずだから、アマゾネスとして育てるのを許して欲しいみたいな話は一番最初に聞いたっけ。

 最後の戦いの前に、モニカと一緒に一度挨拶に行ってもいいかもしれないな。


「アースガルズへ向かう前に……一度いろんな人に挨拶するのもいいかもしれませんね」

「挨拶ですか……勝って戻ってきた後でもよろしいのでは?」

「それはもちろん挨拶に行くけど……何となくね」

「何となくですか」


 不吉かな?

 戦う前に最後の挨拶みたいな感じで。

 でもアーネス様、モニカ、マリアナ様は、ウルズの泉を取り返したら運命の女神ノルン3姉妹になってしまう。

 女神様になっても戻ってこられるだろうけど、その前に挨拶ぐらいしておいても。


「世界樹の迷宮からアースガルズへ向かうのに、事前にフレイヤ様に話を通しておく必要がありますね。その時に、ティアとディア、ナルルと一緒にスヴァルトの町にも行ってみようかな」

「承知しました」


 マーナさんのガルム一族の里はかなり遠いから、挨拶に行くのはちょっと無理かな。





 無事にオーディン王国の王城へと戻った。

 王都では特に変わったことはないようだ。

 賢者の弟子システムも順調に進んでいるようで、ほとんどの賢者は弟子を取ってくれている。

 オーディン王国を盟主とする人族の世界は、特に戦争も無く平和な時代を築き上げている。

 進化騎士の数が圧倒的に違い過ぎて、今現在ではオーディン王国と戦争しても誰も勝てないからだけど。

 しばらく人族の世界は平和が続くだろう。

 世界そのものが無くならない限りは。


「モニカ」

「うっす」

「フレイヤ王国から戻ってきたら、一度モニカの故郷のアマゾネスの里に行ってみようかなと思うんだけど」

「ほぇ? アマゾネスの里? 何もないところっしょ」

「何もないってモニカの家族いるんでしょ?」

「いるっしょ。お母さんとお姉さん」

「モニカとは結婚という形を取っていないから、特に今まで挨拶とか行かなかったけど、一度ぐらいは挨拶しておいた方がいいんじゃないかと思って」

「いらないっしょ」

「ええ?」

「行っても、うざがられるだけっしょ。それか早く子供産めって言われて終わりっしょ」

「う~ん。でもお母さんやお姉さんはモニカに会えたら喜ぶと思うんだけどな」


 何となく行きたがってない?


「……本当はご主人様を見せたくないっしょ」

「え?」

「ご主人様は強くて素敵な人だから、ご主人様を連れていったらみんなに襲われる可能性があるっしょ」

「ええ!?」

「まぁでも、誰かがご主人様を襲ったら、モニカがそいつをぶっ飛ばすから大丈夫っしょ」

「そ、そうなの」

「ご主人様が行きたいなら構わないっしょ」

「う、うん。分かった。考えておくよ」


 アマゾネスは強い男が好きなんだっけ?

 俺って見た目的には強そうじゃないんだけどな。

 まあ考えておこう。




 オーディン王国で2日ほど休んだ。

 次期女王としての公務もいろいろ忙しいアーネス様だけど、フレイヤ王国に向かうのに飛んで連れていってもらった。

 飛べば1日もかからないから。

 フレイヤ王国の王都で降ろしてもらう。

 今日はフレイヤ様と話した後に、ここフレイヤ王国の王都で一泊。

 明日はスヴァルトの町へと行き、そこで一泊。

 アーネス様には明後日、迎いに来てもらうことになっている。


「お久しぶりです」

「久しいのアルマ」


 フレイヤ様はあいかわらず危険な美の香りを漂わせている。

 すでに制約は解かれているから、精霊力は俺から与えられているんだけど。


「どうしたのじゃ?」

「はい。大事な話がありまして」


 フレイヤ様には世界樹の迷宮の奥に進む必要があると伝える。

 そして、俺達が迷宮の中に入った後に、出来ればウルズの泉の使用を禁止して欲しいことも。

 それも精霊王国の全てのウルズの泉だ。


「ふむ。全てはちと難しいの」

「フレイ王国ですか?」

「うむ。新たにフレイ王となったものも野心の強い男でな。私の言うことを素直に聞くとは思えん」

「それはそれで仕方ないです。出来る範囲で構いません」

「分かった。アルマが迷宮に入った後、アルマが戻るまでウルズの泉の使用は禁止する。他の精霊王国にもお願いとして通知を出そう」

「ありがとうございます」


 今さら止めても焼け石に水だけど、少しでもスキールニルに捧げられてしまう精霊力は無くしておきたい。


「あの時の世界樹の迷宮に入りたいとな?」

「はい。あそこで構いません」


 フレイヤ様がかつて俺達を襲ってくるのに使った世界樹の迷宮の1つ。

 他の世界樹の迷宮とは繋がっておらず行き止まりの構造になっていたものだ。

 あそこで確認したいことがある。




「何か懐かしいですね」


 ここでスキールニルが作った擬似神器ブリーシンガメンによって古代の女神フレイヤ様の霊体と戦ったっけ。

 モニカの戦具の解放で古代の神トールの力を借りて倒すことが出来た。


「さてとティア」

「はい」


 ティアが可愛らしい笑顔で俺に呼び掛けに応える。


「ここでちょっと試してみたいことがあるんだ」

「はい、何でしょう?」

「これ」


 鍵の空間の倉庫から取り出してきた『種』。

 ティアの祝福の1つとして授かった種だけど、これは『ユグドラシルの種』である。

 新たなユグドラシルと成る可能性を秘めた種だ。


「種ですか?」

「うん。この種に、ティアの再生をかけてみてもらえないかな」

「再生を……」


 ティアの精霊術『再生』は強力な魔法だ。

 俺の鍵の魔具でも同じ効果の魔法は発動できない。

 脳と心臓さえ無事なら、おそらくどんな重体な状態でもティアの再生で元に戻すことができる。


「あまり多くの精霊力は込めないで、少しずつ再生をかけてもらっていいかな?」

「はい!」


 ティアの精霊具『白雪杖』から再生の精霊術が発動されて種に注がれていく。

 見た目には何の変化もない。


「何か変わったのか?」


 ディアが興味深そうに見ている。


「まだだね」

「これで何か起こるのか?」

「かもしれない」

「かもしれないって……まったくゴシュジンサマは曖昧だな」

「ディア静かにしなさい」


 ナルルに怒られてしゅんとなるディア。

 ディアにも後で試してもらいたいことがあるから、ちょっと待っててね。


「もう少し精霊力を高めてもらっていいですか?」

「はい!」


 徐々に注ぐ精霊力を高めていく。

 何の変化も見られなかった種に少しの変化が見えたのは、ティアが込められる最大の精霊力を込めた頃だった。


「動いた」

「え?」

「はぁはぁ……」

「ティア、もう少しだけ頑張って」

「はぁはぁ、はい!」


 種に変化が見えてきた。

 震えている。

 これは……間違いなく発芽へと向かっている。

 やはりティアの再生は種に効いたか。


「ティアありがとう。もういいよ」

「はぁはぁ、はぁはぁ」


 ティアが再生をかけるのをやめるとすぐに、種の変化は無くなった。

 たぶん再生をかける前の最初の状態まで戻ってしまっているだろう。


「何が分かったんだ?」

「ティアの再生は僕の鍵の魔具でも再現できない強力な魔法なんだ。その再生を種にかければ……種の成長に繋がるかもしれないと思ってね」

「それで種は成長したのか?」

「一瞬だけどね」

「じゃ~ティアが種に再生をかけ続ければ、ウルズの泉を取り返さなくても、スキールニルの野郎の計画を台無しに出来るんじゃねぇの?」

「それは無理だね。ティアが込められる最大限の精霊力を込めてようやく少しだけ成長するぐらいだから。それにこの種を新たなユグドラシルとするとなれば、どれだけの精霊力を必要とするか。現実的ではないね」

「じゃ~なんでわざわざ検証したんだ?」


 ディアもなかなか考えるようになったな。


「なんだよ? 俺の顔に何かついてるのか?」

「いや。あのディアがいろいろ考えるようになったんだなって思ってさ。僕から精霊力を盗もうとしていたディアがこんなにも成長したかと思うと感慨深くて」

「ぶっ! む、昔の話だろ! それは!」

「あはは。ディアは短気でしたからね」

「笑ってるけどティアも同罪だろ! あれは一緒にやったことじゃねぇか!」

「え~? そうだっけ?」

「これだから良い子ちゃんは! 良い子ちゃんは!」

「はいはい」


 双子姉妹のじゃれ合いは後にしてもらってと。


「次はディアの番だから」

「え? 俺?」

「そう。ディアにも試してもらいたいことがあってね」


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