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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第73話

 ディアの闇鷹が戻っている間に、まずこの偽アーネス様をどうするべきか。

 そもそもこの偽アーネス様は何なのか?


「氷の中に様々な生き物が……」

「はい。見たこともない魔獣のようなものから人まで。その中にアーネス様そっくりのこの人が氷の中にいて、氷を溶かしたところこうして動き出しました」

「いま確認したが息をしていないな。心臓も動いていない。そもそも心臓があるのかどうか」

「人では無いか」

「とはいえ、アーネス様そっくりですからね。攻撃するのは気が引けます」

「うふふ、旦那様にそう思って頂けて嬉しいです」

「ではどうする?」

「もう一度氷の中に入ってもらいましょうか」


 鍵の魔具に魔力を流して氷魔法を発動する。

 偽アーネス様を再び氷の中に閉じ込めていった。

 俺の氷魔法と、最初にいた氷の塊が同じとは思えないけど、これで動きは止まって氷の中にいてくれることに変わりはない。




「早いな。ディアの闇鷹が戻ってきました」

「道は繋がっていたのかな」

「闇鷹が動きませんから、大丈夫でしょう。もし繋がっていなければ他の道を探すはずです」

「ディアとは視界共有だけじゃなくて、ある程度の位置も把握できたよね?」

「出来るはずです。すでにこちらに向かってきていたのかもしれません」


 マリアナ様達がこの道から現れるまでしばらく待つことに。

 すると1時間もしないうちにマリアナ様達が道から現れた。


「旦那様!」


 マリアナ様が飛びついてきた。

 豊かな胸が真正面から当たってきてなかなかの威力だけど、柔らかくて気持ち良いです。

 離れていたのは数時間だけど、再会できて本当に良かった。

 いつでも会える状態で離れているのと、いつ会えるか分からない状態で離れているのはまったく違うからね。


「みんなも無事でよかった。あとはモニカだけだね」

「闇鷹が見た道の方角からして、あっちの方角だと思うぞ」

「ありがとう。疲れていると思うけど、また闇鷹を飛ばしてもらっていいかな」

「もちろん」


 ディアが闇鷹をモニカがいそうな方角へと飛ばす。

 一度鍵の空間の中に入って休憩したいところだけど、出来ればモニカを探してからにしたい。


「アーネスお姉様がいる!」

「それは違うぞ」

「こっちにもいる!」

「よく見ろ。その氷の中の私は戦具を持っていないだろ」

「あ、本当だ」

「実はですね……」


 みんなにも氷の中に閉じ込められた生き物について話す。

 偽アーネス様がいたんだから、偽マリアナ様達がいてもおかしくないわけだ。

 氷の中にいるから、氷を溶かさなければ動くことはないだろうけど。


「まるで生物の保管庫ですね」


 ナルルの言葉だ。

 氷の中に閉じ込められた生物達。

 確かに保管されているとも言える。


「でもどうしてアーネス様そっくりの人が?」

「想像に過ぎませんが……このニブルヘイムにはユグドラシルの3本の根の1つがフヴェルゲルミルの泉へと伸びているのですから、ユグドラシルの影響を大きく受ける場所だと推測できます」

「そうですね」

「ユグドラシルは世界から得た知恵と知識をミーミルの泉に、罪をフヴェルゲルミルの泉に流すことで溜め過ぎないようにしている。ユグドラシルが他にも何かを得ていたとしたら、それを流す場所が必要なのでは」

「他にも得ているもの」

「例えば……それが生命の魂とか、記憶とか」


 あくまでナルルの想像だけど、何となく納得できるような。

 この世界に生きていた生命の全てが、この氷の世界ニブルヘイムに保管されている。

 聞くとロマンチックな話に思えるな。

 ただ保管されている凶悪な魔獣の姿を見たら、そうは思えないけど。


「いた」


 想像を巡らせているとディアがモニカを見つけたようだ。

 ありがたい。

 闇鷹と共有する視界は暗い中でもよく見える暗視状態のため、こうして偵察には本当に重宝する。


「これは面白い」

「ん?」

「早く行こう。面白いものが見れるぞ」


 何やらニヤニヤしているディア。

 とにかく急いでモニカのいる場所へと向かった。




「ご主人様! もうすぐっしょ! 頑張るっしょ!」


 ディアの先導でなぜか氷の壁に隠れて覗いた先に、モニカがいた。

 モニカは氷の塊の前で必死に何かをしている。


「もう少し! もう少しっしょ!」


 氷を戦具の斧で削っている。

 なんて器用な。

 そしてその氷の塊の中にいるのは……俺だ。


「あれ、俺だね」

「旦那様のそっくりもいましたか」

「服は賢者学院の頃の制服だね。アーネス様のそっくりも学院の頃の鎧を着ていましたけど、どうして学院の頃なのでしょうか」

「ナルルの仮説からいくと、ユグドラシルが私達生命の魂や記憶をこのニブルヘイムに流すのに時間差があるとか。長い年月をかけて氷の中にその生命の魂や記憶を流すのであれば、まだ私や旦那様は学院の頃のまでの記憶や魂までしか流れていないとか」

「それも何となく納得できちゃいますね。だとすると、もうすでに亡くなっている古い人や魔獣は完璧な状態で氷の中にいるのかな」

「かもしれません」


 落下の時に見えた古代の神フレイ様は、その全ての記憶と魂があの中に入っているのだろうか。


「いけたっしょ! ご主人様! ご主人様!」


 モニカは氷の中にいる俺が本物の俺だと思って必死に助けている。

 制服を見て気づかないか。


「ご主人様! 目を開けるっしょ! あっ」

「あ、う、う」

「ご主人様! モニカ! モニカっしょ!」

「も、も、も、もにか」


 偽の俺の右手に氷が収束していくのが見えた。

 あれは氷の鍵?

 偽の俺は右手を上げると、鍵をモニカに向かって振り下ろした。


「ご主人様!?」

「ご、ご、ご、ごしゅじんさま」


 偽アーネス様よりもさらに緩慢な動きの俺だ。

 モニカは余裕で避けている。


「ご主人様! 目を覚ますっしょ!」

「ご、ご、ご、ごしゅじんさま」

「馬鹿なこと言ってないで目を覚ますっしょ! ご主人様が馬鹿になるのはベッドの上だけっしょ!」


 おい、俺はベッドの上で馬鹿なのか?

 そんなことないだろ。

 ベッドの上でも知的で紳士なナイスガイ……あれ? みんなの目が同意しているような。

 そんなことないよね?


「はっ! ま、まさか……これがアーネスっちの言ってた赤ちゃんプレイ!?」


 え? 赤ちゃんプレイ?

 アーネス様が言ってた?

 全員がアーネス様を見る。


「ご、ごほん。巷で流行っていると聞いたもので」

「どこの巷ですかそれは」

「旦那様に常に新鮮な刺激を与えるために、情報収集は欠かせません」

「僕の趣味ではないのでしないでくださいね」


 恐ろしい情報収集能力だ。

 でも次期女王様がいったい何の情報を収集しているんだ!

 あ~でも……たまに新しいことで楽しんでいたのは、この情報収集のおかげなのか。


「アーネスっちは難易度があまりに高すぎるから無理かもしれないって言っていたけど……まさかすでにご主人様とやっていたっしょ!」

「やってないから」

「ほえ?」


 これ以上は見ていられないのでモニカに声をかけた。

 氷の中の俺を必死に助けようとしてくれたモニカの姿に感動していたのに、赤ちゃんプレイの下りでその感動は薄れてしまった。

 モニカの愛情を疑ったことなんてないけど。


「それは俺のそっくりさんだから。本物はこっちだよ」

「え……ご主人様! モニカは最初から分かっていたっしょ!」

「いや、そこは誤魔化さなくていいから。氷の中に俺と同じ顔をした人がいればそう思うだろうし。さっきまで、僕はアーネス様のそっくりさんと一緒にいたからね」

「ご主人様!」


 モニカもマリアナ様と同じく飛びついてきた。

 マリアナ様に負けない豊かな胸がまた真正面からぶつかってくる。

 柔らかくて弾力あって気持ち良いです。


「よしよし」

「でへへ」

「あ~モニカずるい!」


 これで全員揃った。

 一時はどうなるかと思ったけど、結果的に半日もしないで合流できたのは本当に良かった。

 鍵の空間を開けて、みんなで中に入って休憩を取ることにした。


 お風呂で身体を温める。

 結界を張っていたとはいえ、氷の世界の寒さで身体は冷えていた。

 特にモニカは結界無しで何時間も過ごしたから、お風呂に入るととても幸せそうな顔をしている。

 いま鍵の空間の中にあるお風呂はとても大きなお風呂で、全員で入ることができるほどだ。

 お風呂の中でモニカにあの氷のことを話した。


「ナルルっちは面白い考えをするっしょ」

「あくまで想像に過ぎません」

「でも案外当たっているかもよ。マーナさんと一緒に落下していたときに見た多くの生物は、知らない生き物ばかりだった。あれが古代の魔獣だと言われたらそう思えるしね」

「人だけではなく、生命そのものの歴史の保管庫」

「知恵と知識はミーミルの泉に流れるから、ここに保管されているのは肉体だけなのかもしれない。だから氷から出てきた時にまるで赤ちゃんのような言葉使いで、動きも遅かったのかも」

「なるほど。ならばこの氷の世界に保管されている肉体に、ミーミルの泉が持つその生命体の知恵と知識を流せることができれば、ある意味死者の蘇生が可能になるのかもしれませんね」

「死者の蘇生なんて古代の神でも不可能なことだね。可能ならラグナロクで死んだ神達は自分を蘇生させているだろうから」


 温かいお風呂から出たら、今度は温かい食事だ。

 食事の当番は主にマリアナ様とナルルが担当している。

 二人とも料理がとても上手なのだ。

 他のメンバーは二人の調理のお手伝いである。


 みんなで温かいご飯を囲んでの食事。

 ああ、なんて幸せなのだろう。

 人は幸せが当たり前の時は、そのありがたみを忘れがちだ。

 その幸せが失われるかもしれないと感じた時に、それがどれだけありがたいことか再認識するんだよね。


 食事が終わると、食後の紅茶を楽しみながら、みんなで他愛もない話をして過ごす。

 ティアがアーネス様に熱心に何かを聞いていたのが気になるけど、まぁいいか。

 今日はみんなでゆっくり寝よう。

 うん、そうしよう。




 寝るまでにちょっとした運動会があったけど、みんなほどよく疲れてぐっすり眠れました。


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