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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第70話

 俺が新たなミーミルの泉の番人。

 それって頭だけにならないとだめですか?


「新たなミーミルの泉の番人になるには、ミーミルの泉を飲んだ者でなければならない」

「えっと……僕も頭だけになっちゃいます?」

「頭だけになる必要はない。私が頭だけになったのは別の理由だったろ」

「確かに。僕がミーミルの泉の番人になると、僕も人ではなくなります?」

「水の神となり人ではなくなるな」

「番人って何をするんですか?」

「ミーミルの泉を守り、ユグドラシルから知恵と知識を得ていくのだ」

「基本的に……泉にずっといるだけですよね?」

「うむ。ミーミルの泉から出ることは出来ないな」


 なんとも退屈な役割だな。


「ニーズヘッグをフヴェルゲルミルの泉へ連れていき、ウルズの泉を取り返し新たなノルン3姉妹を誕生させるのだ。スキールニルを倒すことが出来れば最善だが、それが無理ならアルマだけでもここに戻ってこい。アルマを新たな番人にするための最後の力をここに残しておこう。3つの泉が戻れば、ユグドラシルも力を取り戻し、何百年かはスキールニルに抵抗できるだろうからな」

「……分かりました」


 嫌とは言えない。

 やらなければ、世界は滅んでしまうのだから。


「新たなユグドラシルの種があれば良いのだが……スキールニルが定めた理からはほぼ入手不可能だろうからな」

「新たなユグドラシルの種?」

「そうだ。奴はフレイの民であったエルフ族を使い精霊力を集めておる。その精霊力を使ってユグドラシルに秘密のルーン文字を刻んでおるのだ。そして弱らせたユグドラシルの支配権を完全に得た後は、溜めているであろう膨大な精霊力でユグドラシルを復活させるつもりだ。アルマが3つの泉を取り返せば、ユグドラシルの弱体化は止まり力を取り戻すだろうが、刻まれてしまった秘密のルーン文字までは消えない」

「どうにか現状維持を保つだけというわけですね」

「そうだ。だが、新たなユグドラシルの種があれば、新たなユグドラシルによって刻まれた秘密のルーン文字そのものを消すことができる」

「その種は入手不可能なんですよね?」

「不可能ではない。理を定めるためには不可能では無理なのだ。よって可能性は残されておる」

「どうすれば入手できるのですか?」

「スキールニルはエルフを光のエルフと闇のエルフに分けた。光のエルフには精霊力を、闇のエルフには魔力を与えた。光のエルフが魔力を得た時に、その者に祝福として新たなユグドラシルの種が与えられると定められた」

「え?」

「光のエルフが魔力を得ることはない。その光のエルフが魔力を得るとなると……可能性はたった一つだ」

「それは?」

「その光のエルフが闇のエルフと双子として産まれてきた場合のみだ。受精の瞬間に一瞬だけ光のエルフは魔力を得るであろう。だがそもそもエルフは子を宿す可能性が低い。さらに双子となればなお低い。そしてそこに闇のエルフが産まれてくる低い可能性まで加わるのだから、ほぼ不可能と言ったのじゃ」

「なるほど……」


 確かにものすごく低い確率なのだろう。

 でもその確率で産まれてきた双子を知っている。

 というか後ろにいる。


「ミーミル様。その双子なら後ろにいます。ティア、ディア」


 後ろを振り返る。

 あれ? みんなどうしたんだ? 止まっている?


「時間の流れを歪ませておるから、後ろの者達には私達の会話は何も聞こえておらん。その後ろにいる光のエルフがそうなのか?」


 時間の流れを歪ませている?

 あれ? でもニーズヘッグは普通に動いているぞ。

 こっち睨むな。


「は、はい。顔すごく似ているでしょ? ティアとディアで双子のエルフです」

「何と……その光のエルフは種を授からなかったか?」

「種? 種……ああ!!!」


 授かったよ。

 あったじゃん。

 ティアに精霊力を与えていったら『種』を得たよ。

 あれってどうしたっけ?

 確か……オーディン王国の王城の庭に植えたような。


「種……得ました」

「その種はどうした?」

「え、えっと……庭に植えた?」

「馬鹿者が。その種は庭に植えても育つことなどないわ。だが、まさか新たなユグドラシルの種まで揃っているとは。その種をウルズの泉の中に入れるのだ」

「それで新しいユグドラシルが誕生するのですね」

「そうだ。今のユグドラシルを吸収する形で新たなユグドラシルが誕生する。これで世界は元に戻るだろう」

「全てが上手くいけば」

「スキールニルは強力だ。奴はフレイの宝剣を持っている。それにユグドラシルに刻まれた記憶と魂を使って擬似神器を創り出しておる」

「結局はスキールニルを倒さないと、結果は変わらないんですよね?」

「そうだ。上手く3つの泉を取り返し、新たなユグドラシルを誕生させたとしても、スキールニルが生きていれば、また奴は3つの泉を奪いユグドラシルを弱らせ、秘密のルーン文字を刻み始めるだろう。例え何百年、何千年かかろうとな」


 スキールニルを倒さないと、時間稼ぎにしかならない。

 でも……。


「僕はスキールニルを倒せるでしょうか……正直自信ないです」

「その鍵の魔具の使い方はフレイが教えてくれただろ。私はこれをアルマに返そう」


 ミーミルの泉の底から何かが浮かんできた。

 それは俺の左目だった。


「左目を?」

「そうだ。アルマの左目はミーミルの泉であらゆる知恵と知識を得ておる。これで中途半端なアルマの知恵と知識を補完してくれるだろう」


 泉から浮かんできた左目は温かい光りと共に俺の左目として戻ってきた。

 痛みはない。

 目を閉じて開ければ、左目は普通に見えている。


「ありがとうございます」

「うむ。スキールニルに付け入る隙はある。アルマにとって倒すべきはスキールニルだけだが、奴にとっての敵はアルマだけではない。現にいまこの瞬間も、奴は9つの世界全てを見張り、さらにユグドラシルに秘密のルーン文字を刻み制御しているのだから。私はここに最後の力を残してアルマを待っておる。新たなミーミルの泉の番人となるため必ず帰ってこい」

「はい……え?」


 俺の横にあの謎の女性がいつの間にか立っていた。

 あれ? ミーミル様が時間の流れを歪ませているのに?

 この人いったい。


「ん? そなたは……」


 女性はミーミル様に話しかけている。

 俺には理解できない言葉だ。

 ミーミル様は分かるのか?


「そうか。だが、ここはそなたの世界とは次元が異なる」


 次元が異なる?


「元の世界に戻る術を私は知らぬな。その手に持つ原初の木の導きに従うしかあるまい。すまぬが私にはもう時間がない」


 女性はぺこりと頭を下げると、去っていった。


「ミーミル様、あの人はいったい」

「アルマの敵とはならぬであろう。理の違う異なる次元の者だ。放っておくがいい」

「……分かりました」

「では待っておるぞ」

「はい」


 時間の歪みが元に戻っていく。

 ミーミル様の頭も泉の底へと消えていった。


「旦那様?」

「終わったよ」

「終わった?」

「ミーミル様に会えた。ほら、左目を返してもらったんだ」


 みんなはミーミル様との会話が聞こえていなかった。

 俺が説明しないと。


「ミーミル様と話していろいろ分かったことがあるんだ。みんなにも説明したいけど、まずはガルム一族の里に戻ろう。マーナさん達が無事か気になるからね」

「了解しました」

「あれ? あの女の人がいない?」

「ああ……あの人は去っていったよ。……たぶんもう会えないんじゃないかな。僕達の敵ではないみたい」

「そうですか……」





 ガルム一族の里に戻った。

 すると驚いたことに男の狼人族の人達がいたのだ。

 どうやら巨人の呪いは消え去ったようだ。


「アルマ様!」

「アルマ!」


 ハティさんとマーナさんがすぐに迎えに来てくれた。


「呪いは解けたんですね」

「はい。森の外に自由に行けます。見てください。男の狼人族も森の中に入ってこれたんです」


 何が迷宮核だったのか。

 スルト?

 分からないけど、呪いが解けたという事実が大事だ。


「ミーミル様という方には会えたのか?」

「はい。会えました。今からみんなとこれからのことを話し合う予定です」

「そうか……私も参加していいか?」

「マーナさんも?」

「だめか?」

「いえ、だめというわけではないのですが」

「アルマ様。マーナを話し合いに参加させて頂けませんか。ガルム一族として巨人の呪いから解放してくださった恩返しをしたく存じます」

「分かりました」


 鍵の空間の中にマーナさんを連れていく。

 みんな揃ったところで話し合いを始めた。


 まずはスキールニルの目的について話した。

 このままスキールニルを放っておけば、僕達の世界は滅んでしまうと。


「決まりですね。スキールニルを倒すしかありません」

「そうです!」

「やるっしょ」


 まずはフヴェルゲルミルの泉にニーズヘッグを連れていくこと。

 ニーズヘッグの役割を伝えた。


「ニーちゃんとってもすごい竜なんだね! 偉い!」

「この蛇が……いて!」


 ディアが軽く噛まれた。


「氷の国ニブルヘイムの場所は僕が分かります。この外界から地下世界へと向かうことになります。一度オーディン王国に戻って補給を済ましてから行きましょう。オーディン王国で回収しておきたいものもありますから」

「回収?」

「ティアが得たあの種です」


 ティアの種は新たなユグドラシルの種だった。

 フヴェルゲルミルの泉の後に、アースガルズにあるウルズの泉を取り返し、そこにこの種を入れることになる。

 そして新たなノルン3姉妹のことを話した。


「私達が」

「新しい」

「運命の女神に!?」

「はい……僕が最初に魔力を与えた3人の女性が運命の女神となるよう、以前のノルン3姉妹という運命の女神様達が定めていたようです」


 人ではなくなってしまう。

 僕が魔力を与えてしまったばかりに。

 すごく申し訳ない。


「なんて素敵な!」

「モニカ女神になるっしょ!」

「早くニーちゃんをフヴェルゲルミルの泉に連れていきましょう! 私も神の使いの資格が欲しいです!」


 めっちゃ盛り上がってる。

 いやいや、人では無くなってしまうんですよ?


「別に構いません。女神がオーディン王国の女王というのはとても有意義なことです」


 女神様って女王になれるの?


「女神になってご主人様の子供をたくさん産むっしょ」


 女神様って子供産めるのかな? 産めそうだな。


「女神になったら永遠の若さを手に入れられるんですよね!」


 いや、それは分かりませんけど。

 でもそんなイメージではあるよね。


「ニーズヘッグをフヴェルゲルミルの泉に連れていく。その後にウルズの泉を取り返す。これでスキールニルの企みを阻止できます。でもスキールニルが生きている以上、また同じことが繰り返されてしまいます。だから、スキールニルを倒します」

『はい!』


 ミーミルの泉のことは伝えなかった。

 俺が新たな番人になると知れば、みんな動揺してしまうかもしれない。

 まぁ、ミーミルの泉から出られないだけで、別に死ぬわけではないから。


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[気になる点] 馬鹿者が。その種は庭に植えても育つことなどないわ。 そんなこと言われても、知らなったし。
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