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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
65/89

第65話

 ドワーフ達の洞窟はイアールンヴィズの森から西に小一時間ほど行った先にあった。

 アーネス様とディアがいないから探すのに苦労するかと思ったけど、洞窟を探していったら割とすぐに見つかった。

 内界にもドワーフは住んでいる。

 ただ数はかなり少なくて、国というものはない。

 ドワーフは明かりを嫌うため、こうして洞窟の中でひっそりと暮らしているのだ。


 ただドワーフが持つ製造技術はとても高い。

 それは武器でも建築物でも、そして今回の目的のお酒でも。

 なんでも造るということに関してドワーフはとても長けているのだ。


 見た目は髭もじゃで小汚い。

 背は小さく子供ぐらいの背丈しかなくても大人のドワーフである。


「今は日が高くて明るいから洞窟の中だね」


 日が落ちてドワーフ達が洞窟から出てくるのを待つことにした。




 日が落ち始める。

 夕暮れ時になると、洞窟の中からドワーフ達が姿を見せ始めた。

 ここで鍵の魔具に魔力を流して幻影の魔法を発動してもらう。

 子供の巨人の姿を幻としてドワーフ達に見せたのだ。


『おい』


 声色も真似てある。


「ぎゃー! 巨人だ! 巨人だ! 馬鹿な巨人がまた来たぞ!」

「なんだなんだ! 満月の夜に酒と肉は持っていくぞ! もう用はないだろう! 馬鹿な巨人め!」

「帰れ帰れ! 馬鹿な巨人に用はない!」


 なんて口の悪いドワーフ達なんだ。

 確かにあの巨人の子供は馬鹿っぽかったけど、面と向かって馬鹿な巨人ということもないだろうに。


『満月の夜の宴には酒をたくさん持ってこい。今までよりずっとたくさんだ』


「なんだと! そんなにたくさんのお酒なんてあるものか!」

「酒かめが薄れたら、それこそ酒が造れなくなるんだぞ!」

「馬鹿な巨人め! これだから馬鹿な巨人は困る!」


 酒かめが薄れたら酒が造れなくなるのか?

 どうやって造っているのか分からないけど、こっちもお酒が必要なもんで。


『酒かめが薄れないぐらいまで酒を持ってこい』


「あそこに用意してある酒樽が見えるだろう?! あれで全部だ! あれ以上はない!」


 ドワーフの洞窟の中には酒樽が5個用意されていた。

 あれで全部?

 酒樽といってもドワーフサイズだ。

 小さい。

 巨人の大きさからしたら、5個あっても1杯ぐらいじゃないか。


『本当にないのか?』


「ないと言ったらない! 帰れ帰れ!」

「帰れ! 帰れ!」


 次々と洞窟の中からドワーフ達が出てきては、巨人の幻影に向かって帰れと叫び始める。

 どうやら巨人の幻影での話しではこれ以上の酒樽は出てきそうもない。

 マリアナ様とモニカとティアに合図する。

 支援魔法をかけられた3人は、洞窟の上の壁から滑り込むように中に入っていく。

 巨人の幻影に気を取られていたドワーフ達はまったく気づいていない。


『どうすれば酒の元を増やせるのだ?』


 とりあえず話をしてドワーフ達の注意を引き付けておく。


「お前みたいな馬鹿な巨人ではだめだ! 賢い巨人でないとだめだ!」

「そうだそうだ! 馬鹿な巨人はだめだ! 賢い巨人が必要だ!」


 何のことか分からないが、今は時間を引き延ばすだけだ。


『俺は賢い巨人だぞ』

「嘘だ! お前は馬鹿な巨人だ!」

『本当だ。俺は賢い巨人だ。試してみるがいい』

「なら質問に答えてみろ。この世界を支えているものはなんだ?」


 クイズが始まったぞ。


『世界樹ユグドラシル』

「かつて世界を終わらせた神々の戦争は何という?」

『ラグナロク』

「お前馬鹿じゃなかったのか」

『俺は賢い巨人だと言ったろ』


 これで賢いと思われるなら楽なものだ……と思っていたら、ドワーフ達の中から二人のドワーフが前に出てきた。


「質問を続けよう。天と地は始めにどこからきた?」


 天と地がどこからきたって?

 そんなの知るわけ……あれ?


『ユミルの頭蓋骨から天が、肉から大地が創られた。血から海が、骨から岩が創られた』

「太陽と月はどこからきた?」

『太陽と月の父の名はムンディルフェーリ。時の計算のために毎日天を廻っている』


 あれ? なんで俺こんなこと知ってるんだ?


「昼と夜はどこからきた?」

『昼の父はデリング、夜の母はネル。神々が人間達に時を与えるために満月とかけた月を創った』

「寒い冬と暑い夏はどこからきた?」

『冬の父はヴィンドスヴァル、夏の父はスヴァースズだ』


 巨人の幻影の答えに驚くドワーフ達。

 俺も自分に驚いているけどね。

 洞窟の壁の上でモニカが両手で丸を作っている。

 やはり洞窟の中に酒は大量にあったようだ。

 本当に少量しかないなら、奪うことはしなかったけど。


「最後の質問だ! 我らの先祖が巨人に脅された時、どのようにして助かったか?」


 俺は幻影の巨人だけをその場に残して、洞窟に向かっていた。

 最後の問いに対する答えだけ残した。


『お前達の先祖のことなど誰が知るものか!』

「死ね!! 賢い巨人よ!」


 最後の質問に対して答えた巨人の幻影に向かって、ドワーフ達が襲い掛かっていく。

 いったい何なんだ?

 酒の元を増やすには賢い巨人が必要とか言っていたくせに、いきなり死ねとか叫んで襲い掛かるとか。

 まったくドワーフの考えることは分からない。


 洞窟の中で大量の酒の桶を見つけていたマリアナ様達。

 すぐにその酒を鍵の空間の中に移していく。

 これだけあれば、あの巨人に子供を酔わすのに十分だろう。

 酒を頂いたらすぐに洞窟の外に出た。


「殺せ! 殺せ!」

「こいつ当たらないぞ! どうなってるんだ!」


 外に出たら巨人の幻影に向かってまだ攻撃を続けていた。

 それ幻影だから。

 魔力が切れたら消えるけど、それまではドワーフ達の気を引いてもらおうか。


「あれは何ですの?」

「さぁ? 僕にもよく分かりません。質問に答えていったら、突然巨人を襲い始めたんですよ」

「ドワーフ達があれほど暴力的な姿を見せるなんて」

「ドワーフってもともと暴力的っしょ?」

「え? そうなの?」

「アマゾネスの里では常識っしょ」

「へぇ~それは知らなった。どちらかといえば大人しいと思っていたよ」


 幻影の巨人に向かって汚い言葉と暴力を振るうドワーフ達の姿を見れば、モニカの言葉もなるほどと納得できる。

 賢い巨人を殺して何がしたかったのか分からないけど、しばらくは幻影の巨人を相手にどうぞ。

 幻影が消えた後に酒が盗まれていることに気づけば、あれが本物の巨人ではないことにも気づくだろうな。




 ガルム一族の里に戻った。

 予定通り巨人を酔わす酒は確保できた。

 後はアーネス様達が迷宮核を見つけられているか。

 満月の夜は3日後だ。

 スリュムヘイムにいって迷宮核の探索を手伝うことにした。

 またモニカに抱えてもらって全速力で走ってもらう。



 スリュムヘイムでハティさんの部屋に向かうと、アーネス様達は迷宮核を探しに出ているところだった。


「ドワーフ達から酒は確保できました。あとは迷宮核が探せれば」

「アーネス様達が必死に探していらっしゃいましたが……何分巨大な建物でしかも広大です。アーネス様達の身体の大きさで探すには大変かと」

「確かに。建物の中を探索するだけでも一苦労ですもんね」


 このスリュムヘイムの建物に迷宮核が必ず存在するとは限らない。

 それでもここにある可能性が一番高いのだから、まずはここを探索するべきだ。


「旦那様」


 アーネス様達も戻ってきた。

 ここからは一緒に迷宮核を探していく。

 迷宮核の判定する魔道具は2個しかない。

 1個はアーネス様が、もう1個は俺が持って探索を開始する。

 俺とアーネス様以外は迷宮核らしきものを探すことになる。

 少しでも変わった気配や魔力を持つ物を探すのだ。


 巨人サイズの広大な建物。

 この中を探すのは本当に苦労する。

 アーネス様達もまだ建物全体の半分も回れてないらしい。

 巨人がたまにうろうろしているので、それにも気を付けないといけない。


 建物の中には巨人の親子以外はハティさんしかいないようだ。

 召使いの巨人とか存在しないらしい。

 そのため、巨人の親子は食事の準備など全て自分達でしているとか。

 ハティさんも自分の食事は自分で作っているそうな。




「見つからないね」

「これだけ大きく広大だからね。それにここにあるとは限らないわけだし」


 丸二日探し回ったけど、迷宮核は見つからなかった。

 明日は満月の夜だ。

 今日にはガルム一族の里に戻っておきたい。


「仕方ない。迷宮核の問題は後にしよう。ハティさん、僕達はこれで里に戻ります。明日の夜、巨人の子供を酔わせて眠らせることができるか分かりませんが、マーナさんと一緒に必ず戻ってきます。その時に巨人の親子を僕達で倒してハティさんを救いますから」

「お待ちしております。ご武運を」


 迷宮核を探せないまま、俺達はガルム一族の里に戻った。

 迷宮核を壊すことが巨人の呪いを解くことになるのか分からない。

 今はまず鍵を手に入れること。

 そしてハティさんを救うことを優先しよう。

 巨人の親子を倒したらそれで巨人の呪いが解けるかもしれないんだ。

 そうでない時は、その時だ。

 迷宮核をまたみんなで探せばいい。


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