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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第一章
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第6話

 賢者学院6年生になった。

 俺も16歳の青年だ。

 騎士候補生達との顔合わせから3年が経っている。

 この間に、俺はもっぱらアーネス様、マリアナ様、そしてモニカさんと親交を深めていた。

 他の騎士候補生とも交流を持っているけど、この3人とは多くの交流を持っている。

 特にマリアナ様と交流を持っている賢者候補生は俺だけらしく、マリアナ様はいつも俺とお話出来るのを楽しみにしているとか。

 お茶会に呼ばれたりもするのだが、いまだにお茶会はちょっと慣れないな。


 俺と同期でまだ学院に残っているのは6人だ。

 10人いた同期のうち、すでに8人は魔具の卵を孵化させている。

 そのうち4人は魔力増幅効果が2倍未満で、賢者の資格を失って強制卒業となった。

 まだ魔具の卵が孵化していないのは、俺とモードル君だけとなっている。


 この6年間で俺の基礎魔力は15から20に増えた。

 100年以上前に存在した基礎魔力24という記録は更新できなかった。

 この先も更新できないだろう。

 なぜならこの1年間まったく基礎魔力が増加していないから。

 どうやら成長は止まってしまったようである。


 魔法に関しては満遍なく習得した。

 攻撃魔法、支援魔法、治癒魔法とどの魔法も苦手なものはなく、一通り全て扱えるようになっている。

 魔法は魔力を様々な属性に変換させて放つことだ。

 魔力を火に、水に、土に、風に変換して飛ばすのが基本の攻撃魔法となる。

 さらに魔力で身体能力を高めたり、全身に薄い結界を張ったりするのが支援魔法だ。

 魔物は戦具や魔法に対して特殊な抵抗力を持っているとされ、その抵抗力を落とす属性に魔力を変換させて放つことも支援魔法とされている。

 また治癒魔法は魔力で傷を一瞬で癒したり、病気を治すことも可能だ。

 体力を回復させることもできる。

 ただし治癒魔法はかなり魔力を消費するので、俺の基礎魔力20を全部使っても、かすり傷を癒せる程度しか効果を発揮してくれない。

 魔具で魔力を増幅できればもう少し高い効果を発揮してくれるだろうけど。

 治癒魔法は魔力消費が馬鹿みたいに多いので、騎士が傷ついてもそれを治癒魔法で癒す賢者はいない。

 命にかかわる重傷となれば、それを癒すための魔力もまた膨大になる。


 このことを聞かされた時、でも騎士が死んでしまったらそれまで与えた魔力も無駄になってしまうのに? と疑問に思った。

 その疑問の答えを知った時、いったいどれだけ賢者の地位が高いのかと、逆に呆れたぐらいである。


 賢者は騎士に魔力を与える。

 ただ大抵は戦具の卵を孵化させるだけだそうだ。

 その先の性能維持のための魔力を与えてもらえるだけ幸せ。

 覚醒のための魔力なんて必要とされる事態にならない限り、与えてもらえることはない。


 覚醒が必要となる事態とは何か?

 例えば戦争。

 この世界にはいくつもの国が存在する。

 そして人種もだ。

 オーディン王国は人族の中でも最大の王国で、人族代表の国とされている。

 その他には獣人族の王国や、精霊族の王国など、いろんな国が存在している。


 幸いにも戦争は早々起こらないそうだ。

 でも絶対ではない。

 何らかの利害が衝突して戦争に発展した時には、騎士の戦具の覚醒が必要となる。

 最大の戦力なのだから。


 戦争以外では災害級の魔獣や悪魔の出現がある。

 魔獣は魔物ではない。

 魔物は迷宮の中だけにいる。

 魔獣は迷宮ではなく、森の中などに生息している強力な獣だ。

 その心臓はやはり魔石。

 迷宮の中にいるか外にいるかで、魔物と魔獣は区別されている。


 また悪魔と呼ばれる存在もいる。

 数百年に一度目撃されるそうだ。

 人以上に高い知能を有していて、恐ろしく強いらしい。

 詳しい生態は分かっていない。

 文献では過去に1つの国を滅ぼしたこともあるとか。

 危険な存在として位置づけられている。


 学院に入学してから実に充実した時間を過ごしてきた。

 毎日努力して頑張ってきた自分を褒めてやりたい。

 至り尽くせりな環境に綺麗で可愛い女の子との交流と、まさにリア充ともいうべき生活だ。

 ただ1つだけ、最近ちょっと不安なことがありまして。

 それは魔具の卵の孵化である。


 魔力操作の鍛錬も魔法の習得も終わり、最近は基礎魔力の全てを魔具の卵に与えている。

 でもまだ俺の卵は孵化しない。

 本当にこれ孵化するよね?

 卵の中で腐って死んでましたとかないよね?


 そんな不安の中、今日も卵に魔力を与えていると、部屋をノックする音が聞こえた。

 たぶんリチャードだ。


「どうぞ」

「失礼~」


 やっぱりリチャードだった。

 彼は同期ですでに魔具を得ている。

 本の魔具で魔力増幅効果は3倍とまぁまぁ優秀な賢者とされた。

 王都の商人の次男坊で、これで俺も一生安泰だな、なんて言っていたっけ。

 すでに懇意にしていた騎士候補生と主従関係を結び、騎士として迎え入れている。

 その人とは恋仲らしく、リチャードは自分の騎士は彼女一人だけで、俺は仲良く幸せに暮らすんだと言っていた。

 実に羨ましい限りだ。


「お、今日も頑張ってるね」

「まぁね。早く卵から孵化してくれないかな」

「あはは。その大きさの卵からの魔具だから、アルマはすごい賢者になること確定だしね」

「まだ分からないよ。卵の大きさと魔具の性能は絶対に比例するわけじゃないんだから」

「大丈夫だと思うぜ。なんせ……モードルの奴は優秀だったからな」

「え? もしかしてモードル君」

「ああ、モードルの魔具の卵が孵化した。大きな杖だったよ。すぐに魔力増幅効果を測定しに行った」

「へぇ~。結果は良かったんだ」

「ああ、6倍だ」

「6倍! それはすごい」


 モードル君の魔具の性能はリチャードの2倍にもなる6倍だった。

 オーディン王国で最も魔力増幅効果の高い魔具は10倍だ。

 この魔具の持ち主こそ第1級賢者の方である。

 その下の第2級賢者の魔具が確か8倍。

 第3級と第4級賢者の魔具が7倍。

 第5級から第8級までが6倍だったはず。

 第9級は5倍以下なので、モードル君はオーディン王国で10傑の賢者に入れる可能性があるわけだ。


「モードル君喜んでいただろうね」

「ああ、凄かったぞ。俺は第1級賢者になる! とか叫んでいたらしい」

「あはは。目標が高いね」

「まぁ、可能性がゼロってわけではないからな。賢者も年老いていくわけで」

「確かに」


 賢者も年老いていく。

 賢者は不死身ではない。

 普通に年老いて、普通に死んでいく。

 上がいなくなれば、モードル君がいつの日か第1級賢者になれる可能性はある。


 賢者の老いと死、騎士の老いと死についても学んだ。


 まず騎士の老いと死について。

 騎士は老いて魔物が倒せなくなれば引退となる。

 戦具を授かった女性の身体能力は高く、魔力吸収が可能な魔石を持つ魔物がまったく狩れなくなるのは65歳~70歳ぐらいと言われている。

 本当に人生の最後まで騎士として活動することになるのだ。

 引退して寿命を迎える騎士もいれば、魔物との戦闘で命を落とすこともある。

 いずれにしても騎士の死は、人が一人亡くなるという事実でしかない。


 しかし賢者はそうはいかない。

 賢者の老いと死には大きな問題がある。

 そこに騎士も絡んでくることになる。


 まず賢者と騎士との年齢だ。

 基本的に賢者と騎士は近しい年齢となる。

 俺達が顔合わせした騎士候補生は2つ上から2つ下までの同年代だ。

 この年代の中で騎士を探すようにされている。


 賢者がものすごく年上の騎士を迎え入れることはそもそもない。

 老いの引退が近い人をわざわざ騎士に迎え入れることなどないからだ。

 逆に、賢者にとって自分よりも年下の騎士はありがたい。

 老いの引退がまだまだ先となる。


 しかし国にとっては事情が違う。

 10も20も年上の賢者の騎士となってしまった者が優秀であればあるほど、賢者が死んだ後にその者は魔力を得られずに活動しなくてはいけない期間が長くなってしまうのだ。

 そもそも賢者が死んだ時点で、生きていた騎士は騎士の資格を失うことになる。

 そのため国は賢者に同年代の騎士を選ばせている。


 次に賢者の死に際。

 騎士とは違い死に際の賢者といえども、魔力を与えることはできる。

 そして死んでしまうと、溜めていた魔石魔力は全て失われてしまう。

 ならば、最後に溜めていた魔石魔力を全て誰かの騎士に与えて欲しいと願うのは、当然の流れだ。

 ここで例外が発生する。

 騎士となる芽がなかった戦士達は魔力を与えてもらえるチャンスが生じる。

 この場合年齢差は関係ない。

 むしろ推奨される。

 もちろん騎士の資格を失った戦士限定ではあるが、その者の戦具の卵を孵化させてもらい、戦具を手に入れることが出来るのは実に喜ばしい。

 戦士も庶民の生活を支える魔道具のエネルギー源となる小さな魔石を集めるという大切な仕事がある。

 戦具を持てれば戦士の戦闘力は上がり、魔石も集めやすくなる。


 ただ賢者の多くは死ぬまで自分の魔力を使わずに死ぬ者も多い。

 特に10傑に入るような大賢者達はそうである。

 誰も強制はできない。

 賢者が魔力を与えようとしなければ、無理なのだから。


 大昔に死に際の賢者が魔石魔力を使って、戦士の戦具の卵を孵化させまくった……という話は伝説の話として語り継がれている。


「いま10傑にいる大賢者達はだいたい30歳から40歳だ。50歳を過ぎて引退が見えてきた時に、モードルが第1級賢者になる可能性はゼロじゃない」

「そうだね」


 死に際の賢者の扱いの問題もあるが、さらに慎重に扱わなければならないのは賢者が年老いていく過程において引退となる時だ。

 10傑にいるような大賢者はこの引退の際に大きく揉める。


 賢者の引退とは何か。

 賢者と騎士の関係性は一生である。

 騎士は一生賢者に忠誠を誓い仕えることになる。

 そのため騎士が得てくる魔石は賢者のものだ。


 だが国から供給される魔石は違う。

 オーディン王国では冒険者や賢者から魔石を買い取っている。

 魔石を売る賢者もいるのだ。

 誰もが10傑に入るような大賢者となるわけではない。

 リチャードのように一人だけの騎士を愛して過ごすなら、いずれ魔石は余ってくるのだ。

 賢者に必要な魔力は騎士の戦具の卵を孵化させ、その性能を維持し、さらには覚醒分の魔力を溜めておくことである。

 これをクリアしているなら、それ以上の魔石魔力は不要とも言える。

 そういった賢者は魔石を国に売る。

 国は賢者から買い取った魔石を、10傑の大賢者や将来有望な賢者に供給しているのだ。

 この魔石の供給を止められると引退と言われてしまう。


 このため10傑に名を連ねる大賢者はなかなか引退を受け入れない。

 自分を引退させたら他国に亡命すると脅してくる者もいる。

 過去には自国であるオーディン王国の王家に対して反乱を起こそうとした者すらいたとか。


 国や王家も馬鹿ではない。

 この辺は上手く制御しているようだ。

 新たな優秀な賢者を育てるのは、年老いていく賢者に対する牽制だ。

 一人の大賢者に頼り切ってしまっているようでは、その者の言うことを何でも聞かなくてはいけないが、下に優秀な賢者が何人もいればそうはならない。


 引退した賢者に気を付けなくてはいけないことがある。

 若く有望な騎士候補生に手を出すことがあるのだ。


 賢者は死ぬまで己の魔力、つまり魔石魔力を高めることを望む。

 それが賢者にとって唯一といってもいいほどのステータスだから。

 どんなすごい魔法が使えるとか、ぶっちゃけ関係ない。

 賢者学院で学んだ魔法を死ぬまで使わない賢者なんていくらでもいる。


 引退した賢者は己の騎士が持ってくる魔石だけ得られることになる

 しかし騎士も老いていく。

 老いた騎士が倒せる魔物は徐々に少なくなっていく。

 強い魔物は倒せなくなり、上質な魔石は手に入らなくなる。


 そこで若く有望な騎士候補生に手を出そうとするのだ。

 騎士候補生の中でも魔力を与えてもらえるという誘惑に負けて、年老いていく賢者の騎士となってしまう者もいる。


 引退した賢者に戦士を近づけて上手く戦具の卵を孵化させてもらった後に逃げる……なんてことを考えたけど、それをやったら最初は上手くいってもいずれ噂になってだめだろう。

 それに戦具の卵を孵化させてもらって騎士になった人は、賢者に絶対の忠誠を誓うというのはこの世界において相当に強い道徳観からなる常識となっている。

 賢者と騎士の間には、強制的な何かがあるわけじゃない。

 例えば魔法契約を交わして、自分の意思とは関係なく賢者に従うとか、そんなことはないのだ。

 魔法契約そのものは存在するが、賢者と騎士の間で交わされることはまずない。 

 だから騎士がその気になれば主である賢者を殺すことだってできる。

 単純な戦闘力は騎士の方がずっと上だから、その気になればすぐ殺せる。

 でもそれは絶対にない。

 それだけ騎士が賢者に忠誠を誓うことは当たり前で絶対的なことなのだ。


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