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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第二章
59/89

第59話

「旦那様!」


 アーネス様の叫び声が聞こえた。


「はい」

『え?』


 黒い渦から俺は出てきた。

 それを見て全員が素っ頓狂な声を上げている。


「ただいまです」

「お、おかえりなさいませ? えっと……」


 全員大混乱です。

 王家の迷宮最上級の迷宮主を倒したら黒い渦が現れた。

 俺の鍵の魔具で開けたところ、俺はその黒い渦に吸い込まれていった。

 でも次の瞬間、黒い渦の反対側から俺は出てきたそうだ。

 なんと片目に眼帯をして!

 そりゃ~大混乱するよね。

 どうやらこちらでは1秒も時間が経っていなかったらしい。


「まぁ、いろいろありまして……でも大丈夫です」

「大丈夫といっても、旦那様の片目が」

「私の再生で!」

「あ、いや無理だからそれはしなくて」


 俺の言葉を待たずにティアは再生を俺にかけた。

 でも俺の片目が再生されるはずはない。

 なぜならこの片目はミーミルの泉に預けているから。

 失われたわけではないのだ。


 王家の迷宮最上級の攻略は終わった。

 本来は迷宮主を倒した後に、ここで30日ほどは探索する予定だったんだけど、このまま帰還することにした。

 まだ混乱しているみんなを一度落ち着かせるために鍵の空間に移動して休憩を取った。

 そこでアーネス様達に何があったか話した。




「古代の神々の時代に……」

「ほえ~」

「さすがはご主人様っしょ」

「あれが現実なのか夢なのか僕も疑いたくなるけど、でもこうして僕の片目は無くなり女神フレイヤ様からもらった眼帯もある。それに……ここが迷宮の中だから分かり難いけど、ミーミルの泉に預けた片目がこの世界のどこかにあるのを感じられるよ」

「旦那様が感じる方に向かえば、そこにミーミルの泉があるのですね」

「ミーミル様はラグナロクを生き延びていらっしゃるのでしょうか?」

「ラグナロクの後にも3つの泉は残ると言っていたからそれは大丈夫だと思う。ただ、スキールニルが何かしていなければ……」


 それだけが気掛かりだ。

 なるべく早く迷宮から戻って、ミーミルの泉を探しに行きたい。


「マリアナ、モニカ。子作りは少し先に延ばすぞ」

「はい」

「承知」

「ごめんね。ミーミルの泉を見つけたら……スキールニルのしていることが世界の平和のためだと分かれば、それ以上何かすることもないだろうから。そしたら子作りしようね」

「旦那様が気になさることではありません。スキールニルが平和のためではなく、何か悪いことのために動いている可能性もあるのですから」

「そうですわ。私と旦那様の子供が安心して暮らせる平和な世界ならいいですけど、そうでないならまずは悪者を倒さないと!」

「終わった後に子供たくさん産むっしょ。10人ぐらい欲しいっしょ」

「あはは。僕も頑張るよ」


 鍵の空間から出ると迷宮の出口に向かう。

 最上級の王家の迷宮の中はアーネス様が俺を抱えて飛んでいくには危険すぎる。

 みんなで来た時と同じように陣形を組んで進むんだけど……これだけ強力な魔物がいる最上級の迷宮なんだ。

 俺もちょっと試してみたい。


「あっちでちょっと面白いことを覚えてね。次の魔物にちょっと攻撃魔法を撃つね」

「了解しました」


 やがて見えたのは屈強なオーガ系の魔物だ。

 力、素早さ、体力、どれも高い能力を持つ魔物である。

 鍵の魔具に純粋な魔力だけを流す。

 どんな攻撃魔法がいいんだ?

 伝わってきたのは……雷属性だ。

 かなり難しい属性で魔力から変換するには効率も悪い。

 とりあえず魔力100を込めて、鍵の魔具に雷魔法を撃ってもらった。


『え?』


 次の瞬間、オーガは黒焦げ……どころか、一瞬だけ黒焦げになったのが見えて、そのまま塵となって消えてしまった。

 あれ? 魔石も残ってないんですけど?


「おっさんが使った雷みたいっしょ」


 トールね、おっさんじゃなくて。

 そういえばトールが精霊体みたいな女神フレイヤとの戦闘で、雷を落としたことがあったっけ。

 確かにあの雷に似ていたな。


 鍵の魔具そのものが魔法を使う時は、魔力増幅してくれているはずだ。

 今までのことから10倍だと思っていた。

 でも今の威力って……魔力100を込めて10倍なら1000だよな。

 魔力1000はかなり高い魔力だけど、でもこの最上級迷宮の魔物を一発で塵にできるか?


「う~ん、ちょっと次の魔物も僕がやるね」


 いつもは後ろにいる俺がモニカの後ろまで前に出て、現れる魔物に攻撃魔法を次々と放っていく。

 その全てが一撃だ。

 しかも魔石すら残らない塵となって。


 込める魔力は下げている。

 魔力90→80→70→60→50と。

 でも一撃です。

 魔力20まで下げたところで、一撃ではなく瀕死状態となった。

 モニカが倒すと魔石も無事に残った。


 戦具の情報とは違ってどれだけ魔力が増幅されているのか分からない。

 魔力の増幅ではなく、鍵の魔具が使う魔法そのものが強力という考えもある。


 俺が魔法を使うのではなく、鍵の魔具に魔法を使わせる。

 魔力を流すのは俺だ。

 属性に変換せずに、純粋な魔力を流せばいい。

 その純粋な魔力を増幅して鍵の魔具が魔法を選定する。

 どんな魔法が選ばれたか、俺には何となく分かる。

 俺が魔法を選ぶことも出来るんだけど、鍵の魔具が拒絶することがある。

 たぶん相手にとってこちらが有利な魔法を選定してくれているんだ。

 逆にこちらに不利な魔法を俺が選ぼうとすると、拒絶してくる。


 ただ魔法の撃つのは俺の指示が必要だ。

 鍵の魔具が勝手に魔法を使ってくれるわけではない……ん?

 あれ?

 お前って勝手に使えたりする?

 鍵の魔具に話しかけるように魔力を流してみると、肯定的な感じが伝わってきた。

 へえ~使えちゃうんだ。

 え? どういう風に使っていいか指示しろ?

 そうだな……まず俺を守るために必要な魔法は使っていいぞ。

 攻撃魔法に関しては俺が敵として認識した奴だな。

 その辺って分かる? あ、分かるのね。

 あとさっきから塵になるぐらいの魔法になっちゃってるけど、倒すのにちょうど良い魔法とかにできる?

 あ、やってみると。

 そうそう、別に流した魔力全部使わなくていいから。

 君が適当だと思う魔力分だけ使ってね。

 余った魔力はそのまま君が持っていられる? いられると。

 つまり、鍵の魔具に純粋な魔力を流して持たせておいたらいいと。


「なんかいろいろ出来そうだな」


 鍵の魔具に魔力1000を込めた。

 これだけあればけっこうな魔法使えるだろう。


「デスナイトの群れだ」


 ディアの闇鷹がデスナイトの群れを発見した。

 前方に6匹の群れでこちらに向かってきている。


「やれるか?」


 問題ない、と鍵から伝わってくる。

 デスナイトの群れが見えてきた。


「うお!」


 俺に何かの支援魔法がかかった。

 なんだこれ? ブレスとかじゃない。

 もっと強力な支援魔法だ。

 めちゃめちゃ早く動けるんですけど。

 まるでアーネス様達のような身体能力……いや、それ以上だろ。


「おお!」


 次には目の前に光の玉? のようなものが6個。

 なんか雷みたいなのが渦巻いているぞ。

 プラズマ? なんだこれ?


 6個の光の玉はそれぞれ円を描くように宙を舞う。

 そしてデスナイトを射程圏内に捉えると……一気に向かっていく。

 一直線の動きではない。

 不規則な動きで射線を惑わせて、デスナイトの鎧の中に入った?

 同時に鎧の中で爆発が起きる。


「なんて……魔法だ」


 みんなも唖然としている。

 いやお前が使ったんだろ、と言いたくなるよね。

 確かに俺が使ったんだけど、魔法は鍵の魔具がやってくれてるんだよね。


 その後も、現れる魔物を俺が一瞬で倒していく。

 最上級迷宮の魔物をだ。

 アーネス様やモニカですら、一撃で倒すことなんてできない。

 そんな強力な魔物を俺の魔法は一撃で倒してしまう。


 鍵が俺にかけてくれた支援魔法を、みんなにもかけてもらった。

 みんなさらに身体能力が上がってすごいことになっていました。

 やっぱりブレスとは比較にならないほど強力な支援魔法だ。


 残念なのは魔法の名前が分からないことか。

 鍵の魔具は魔法を選んでくれるけど、それがどんな名前の魔法なのかは分からない。

 そもそも名前のある魔法なのか分からないけど。


 数日であっさり最上級迷宮から上級迷宮に戻った。

 ここからはアーネス様に抱えてもらって飛んでいった方が早い。

 上級迷宮の出口までアーネス様に飛んでもらった。


 上級迷宮の出口付近の魔物でちょっと試したいことがあった。

 わざと魔物に俺を攻撃させてみたんだ。

 すると、一瞬で結界が展開されて魔物の攻撃を防いでくれた。

 この結界もとびきり強力だった。

 ティアがちょっとショックを受けていた。


 王城に戻り王に無事に最上級迷宮の迷宮主を倒し攻略したことを報告した。

 王も俺の片目が無くなったことに驚いて心配してくれた。

 理由を説明して、これからミーミルの泉を探しに行くことを伝えた。

 そのためアーネス様達との子作りは先送りで、孫の顔はもうしばらくお待ちくださいとお願いしたのであった。







 ひさしぶりの王城の自分の部屋。

 窓から見上げる空には満天の星空が広がっている。

 お月様は……うん、いつも通り輝いている。

 狼に追われてはいないようだ。


「旦那様」


 アーネス様が起きて俺の側までやってきた。

 マリアナ様は寝ているかな。

 モニカはベッドの上で起きているっぽいな。


「感じるよ。僕の片目の存在を」

「はい」

「外界にある。だからユミルの壁の先に行かないといけない」

「私達はどこまでも旦那様についていきます。永遠に」

「ありがとう」


 外界。

 この世界は大きな壁に覆われている。

 それはユミルの壁と呼ばれていて、この壁の内側は内界と呼ばれ、ここに人族やエルフ族は住んでいる。

 壁の外側は外界と呼ばれ、獣人族が住んでいる。

 エルフ族と仲の悪い獣人族だ。

 一説には、獣人族はかつて世界樹の森に住んでいたが、エルフ族がこれを奪って獣人族を外界に追いやった、と言われている。

 本当かどうか分からない。


 獣人族は仲の悪いエルフ族とは交易もしていない。

 でも人族とは交易をしている。

 オーディン王国の商人も外界の珍しい物を求めて、交易をしている。

 ただその場所はかなり限定されている。

 ユミルの壁を通れる門の先にある交易町ロキにしか入れない。

 その他の外界の場所に人族が入ることは獣人族が許していないのだ。


 でもミーミルの泉は交易町ロキにはない。

 だから越えていかなくてはいけない。

 あのユミルの壁を。


「ユミルの壁の上空には恐ろしい魔獣が飛んでいるそうです」

「私が旦那様をお守りします……と言いたいところですが、今の旦那様には正直言って勝てる気がしませんが」

「すごいのは僕じゃなくて鍵の魔具なんだよね」

「いつも旦那様はそうおっしゃいますが、鍵の魔具は旦那様のものです。私も旦那様が授けて下さった戦具が無ければ、ただの兵士と一緒です」


 アーネス様は戦具がなくても兵士よりずっと強いと思うけど。


「また危険なことがあるかもしれない。でも……ミーミルに会わないといけない。スキールニルが何をしようとしているのか……」

「はい」


 そしてその先に……スキールニルを俺が止めないといけないなら……この鍵の魔具で俺が奴と戦わなくてはいけない。


 アーネス様は優しく俺の手を握りしめてくれた。

 お互い微笑みながら腕を組んでベッドに向かう。

 マリアナ様は幸せそうな寝顔だ。

 モニカはマリアナ様を抱き枕にしていた。

 俺とアーネス様もベッドに入って、4人で眠りについたのであった。


第二章はこれで終わりです。

第三章の再開までしばらくお待ちください。

詳細は活動報告で。

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