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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第二章
58/89

第58話

 戦車を猫が引く。

 あんな可愛らしいのに、いったいどこにそんな力があるのか。

 2匹の猫が戦車を引いて、俺とフレイヤを運んでくれる。

 隣には猪車が走っている。

 フレイとゲルズを乗せて。


「ヴァナヘイムまで半日もかからないわ。海辺についたら、フレイの船スキーズブラズニルで回遊しましょう」

「え? あ、その……」

「あら、いいじゃない、少しぐらい。私と一緒では嫌かしら?」

「そんなことありません! で、でもちょっと探さないといけないものがありまして」

「何を探すの?」

「その……ミーミルの体です」

「ミーミルの体?」

「はい。ミーミルの体を探したくて」

「ミーミルに頼まれたの? でももうとっくに腐ってしまっていると思うけど」

「頼まれたわけではないのですが……」


 フレイヤが豊満な胸を俺に押し付けながら耳元で囁いてくる。

 なにこの馬鹿ップル状態は。

 隣を走る猪車の人達に負けていないほど馬鹿ップルに見えるんですけど。


「あら、トールだわ」

「え?」


 フレイヤ様が指さした方角には、一人の大男が豪快に笑いながら歩いていた。

 手に持っているのはミョルニル! 間違いない!

 あれがトール。


「がっはっはっは!」

「機嫌がいいわね。また巨人を倒してきたのかしら」


 2匹の猫が引く戦車の中でフレイヤにあれこれ触られながら半日経つと、海が見えてきた。

 海だよ、海。

 オーディン王国には……というか、元の世界には海が存在しなかった。

 川か泉だけ。

 でもこうして海があるってことは、元の世界でも海はあるわけだ。

 外界に行けばあるのかもしれない。


「よし、ここからはスキーズブラズニルで行こう!」


 そう言うとフレイはポケットから小さな船のようなものを取り出した。

 え? おもちゃ?


「よっと」


 フレイが小さなおもちゃのような船を海に投げると、途端にその船は大きくなって巨大な船へと変わってしまった。

 4人で乗るには大きすぎるぐらいだ。


「さぁ! 行こう!」


 フレイを先頭に船に乗っていく。

 とても広い船だ。

 俺はフレイヤに船の一室に連れ込まれそうになったけど、外を見ていたいからといって甲板に出た。

 ミーミルの体を探さないと。


「では父上のところに!」

「待ってフレイ。アルマはミーミルの体を探しているらしいの。スキーズブラズニルにミーミルの体の場所を指示してあげて」

「ミーミルの体を? 変なものを探すんだね。まぁいいや。スキーズブラズニル! ミーミルの体まで行っておくれ!」


 フレイが声を出すと船は勝手に動き出した。

 船員は誰もいない。

 誰もこの船を動かしていないのに、船はゆっくりと走り出したのだ。


「うふふ、スキーズブラズニルは目的地まで自動で行ってくれるのよ」

「すごいですね」

「でしょ? だから別にここでアルマが探さなくてもいいの。さぁ、こちらへ」

「え? ああ……」


 こうして結局、船の一室に俺は連れ込まれたのであった。



 2時間後。

 フレイが俺を呼ぶ声が聞こえた。

 隣ですやすやと寝るフレイヤを起こさないように、急いで服を着て船の上に出ていった。


「アルマ! 見えたよ!」

「え? ……あっ! あれですね!」

「うん! 君はこのことを知っていたのかい? もしかして君は予言者?」

「ち、違いますよ。でもこれは……」


 ヴァナヘイムの海辺に捨てられて腐っていたはずのミーミルの体。

 それが海辺を歩いていた。

 首から上のない体だけの巨人だ。

 まさに王家の迷宮最上級の迷宮主と同じだ。


「ミーミルの体に悪い霊が憑りついているのかな」

「そうかもしれません。でもあれを倒さないといけないんです! 僕降ります!」


 スキーズブラズニルから飛び降りると海辺をのろのろと歩くミーミルの体に近づいていく。

 大きい。

 さすがは巨人の体だ。

 鍵の魔具を出して、ファイアボールを放った。


「くそっ! ダメージ与えられているのか?!」


 魔力を増幅してくれない俺の鍵の魔具。

 膨大な基礎魔力にものを言わせて、これでもかと魔力を込めて攻撃魔法を放っていく。

 いろんな属性の攻撃魔法を放つも、ミーミルの体は止まることはない。

 ダメージはまったく無いわけではなさそうだけど……。


「ねぇねぇアルマ。君はどうしてそんな魔法の使い方をするんだい?」


 いつの間にかフレイが後ろにいた。

 よく見るとゲルズも、そしてフレイヤも後ろにいる。

 フレイヤとゲルズは浜辺で遊んでいた。


「どうしてと言われても……僕の魔法はこうなので」

「そんな素晴らしい魔導具を持っているのに、どうして使わないのさ?」

「魔導具? ああ、この鍵の魔具のことですか。これは……僕の魔力を増幅してくれないんですよ」

「魔力を増幅? それはよく分からないけど」


 知らないのかよ。

 まぁこの時代の神が知っているわけもないか。


「その魔導具に魔法を使わせた方がずっと強いと思うよ?」


 ん?

 この魔導具……魔具に魔法を使わせる?

 どういう意味なんだ?


「えっと。それってどういう意味ですか?」

「どういう意味も何もそのままさ。アルマが魔法を使うんじゃなくて、その魔導具に魔法を使わせるんだよ」

「いや、だからその意味が分からないんですけど。魔導具に魔法を使わせる?」

「僕は口下手だから。ちょっと貸してごらん」

「あ」


 フレイは俺の手から鍵の魔具を取った。

 でもこの鍵の魔具は俺しか使えない。

 フレイでは使えないのだ。


「ほら、こうやって」

「え!?」


 フレイが鍵をミーミルの体に向かって一振りすると、そこから巨大な炎の玉が放たれた。

 ミーミルの体に直撃すると、爆発と轟音が鳴り響く。

 なんて威力だよ……。


「ど、どうやって?」

「だからこの魔導具に魔法を使ってもらったんだよ」

「勝手に使ってくれるんですか?」

「え? それは指示すればいいんじゃない?」

「指示……ですか」


 フレイから鍵の魔具を返してもらう。

 鍵の魔具に魔法を使ってもらう。

 俺が魔法を使うんじゃない。

 その魔法の魔力は俺の魔力なんだよな?

 でも俺は魔法を使わない。

 魔法を使わないなら、鍵の魔具には純粋な魔力だけを流す。

 いつものように何かの属性に変換させることなく、ただただ純粋な魔力を流す。


 魔法を使ってくれるのか?

 俺ではなく魔具が。

 すると、あの鍵を挿し込む感触が手に伝わってくる。

 純粋な魔力を流しながら、その鍵を開けた。


 ガチャリと鍵の開く音と共に、鍵の魔具から膨大な魔力が高まって、それが炎の玉となっていくのが分かった。

 フレイが放った炎の玉の直撃でよろけているミーミルの体に向かって、俺は鍵の流れに逆らわず、この巨大な炎の玉を投げつけた。


「出来るじゃないか。それにしてもすごい魔力だね!」


 フレイの炎の玉より、3倍? いや4倍は大きな炎の玉がミーミルの体に直撃する。

 首のない巨体はひざをつき、今にも倒れそうだ。

 さっきと同じように純粋な魔力を鍵に流していく。

 今度は炎ではなく水属性とかどうかな? と鍵に話しかけるように念じてみると、なんと鍵から拒絶の反応のようなものが返ってきた。

 水属性はまずいのか?

 なら風は? と念じると『まぁいいだろう』的な反応が返ってきた。

 再び鍵の中で膨大な魔力が高まり、それは風の玉となってミーミルの体に放たれた。


「おやおや? あれはなんだい?」


 巨大な風の玉を喰らって、ついに地面に倒れたミーミルの体。

 その巨体のちょうどおへその部分に、黒い渦のようなものが現れた。

 あれか!?


「あ、アルマ待ってよ!」


 黒い渦に向かって一直線に駆ける。

 今にも消えるんじゃないかと不安でたまらない。

 黒い渦は消えることなく、俺の到着を待ってくれた。

 黒い渦に触ってみる。

 この感じ、鍵で開けるのか?


「アルマ~! どうしたんだい? それは何なんだい?」

「フレイ様、ゲルズ様、フレイヤ様。本当にお世話になりました」

「ん? まるでお別れの挨拶みたいじゃないか」

「たぶんお別れです」

「あらそうなの。寂しいわ。もうちょっとアルマと遊んでいたかったわ」


 フレイヤと遊んでいたら自堕落になりそうだ。

 あまりに凄すぎるから。

 抜け出せなくなりそうで怖いよ。


「アルマ元気でね」

「はい……遥か先の時で頑張ります」


 黒い渦に鍵を挿し込む。

 ガチャリと鍵が開いた。

 あの時と同じように、俺は黒い渦の中に吸い込まれていった。


「達者でな~!」


 後ろからフレイの大きな声が聞こえた。


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