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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第二章
56/89

第56話

 用か? と言われたら、特に用があって俺はここに来たわけではない。

 忘れたけど、気づいたら俺はここにいただけだ。

 でもばれている以上は出ていくしかないな。


「どうも」

「ふむ……ん? お前のことは知らないな」


 はい、俺も貴方のこと知りません。

 頭だけの知り合いとかいないし。

 それにしても大きな頭だな。

 俺より大きいんじゃないか?


「えっと……ここってどこです?」

「なんだ? ここがどこかも知らずに来たのか?」

「気づいたらここにいたというか」

「ほ~……迷い人か。しかも相当に珍しい。ここはミーミルの泉だ。そして私はこの泉を守るミーミルだ」

「ミーミルの泉……ミーミル……ん? あれ? 確か……ああっ!!!!」

「なんだ、煩いの」


 思い出した!

 俺は最上級迷宮で迷宮主を倒した後に、あの黒い渦の中に吸い込まれたんだ!

 そうだよ……俺の名前はアルマ。

 アーネス様達は!


「なんかいろいろ思い出しました。えっと、僕はアルマです」

「アルマか。良い名だな」

「ありがとうございます」

「それで、何を思い出したのだ?」

「えっとですね……」


 俺は思いつく限りのことを、頭だけのミーミルに話した。






「実に興味深く面白い話であった」

「そうですか……それで、トールが言っていたミーミルとは貴方様のことでしょうか?」

「そうだろうな。だが今の私ではないだろう」

「今の私?」

「アルマの話からして、アルマは遥か未来から来たのだ」

「ということは、ここは僕達の時代で『古代の神々の時代』と言われていた頃ということですか?」

「そうだ。全ては予言通りラグナロクが起きて世界は一度終わるのだろう。アルマが生きていた時代は、その後に再生した世界だな」

「はぁ……どうして僕はここに来てしまったのでしょう?」

「私に会うためにだろうな」

「はぁ……会ってどうなるのでしょう?」


 遥か昔にタイムスリップしてしまった。

 でもだからどうなるの?

 俺は元の世界に戻りたいんだけど。


「アルマの時代にスキールニルが生きている。奴が何をしているのかは分からぬときた。ユグドラシルに刻まれたトールの魂がアルマにそれを探れと言ったのは、奴の勘が何かを感じたのだろう。スキールニルに捕らわれたフレイヤの魂も危険を伝えていたしの。これはちと監視せねばならん」


 監視?


「このミーミルの泉にはユグドラシルから日々、この世のあらゆる知識と知恵が流れ込んでくる。私はそれを得てこの世で最も賢い賢者の神と言われている。とはいえ、知恵と知識があるから運命を変えられるわけではないのだがな。まったくオーディンの奴はそれが分かっておらぬ」


 ずいぶんオーディンの評価が低いですね。

 一応最高神様だけど……確かにさっき見た姿は情けない感じを受けた。


「ラグナロクによって世界は終わるが、3つの泉は守られる。ユグドラシルの栄養となるウルズの泉。ユグドラシルに還る罪を清めるフヴェルゲルミルの泉。そしてユグドラシルが得る知恵と知識を蓄えるミーミルの泉。私はこのミーミルの泉でアルマを待とう。この先の知恵と知識を蓄えて。スキールニルが何を成そうとしているのか、未来のアルマに伝えよう」


 待つと言われても、俺はどうしたらいいんだ?


「だが、スキールニルが何かしてくるかもしれん。そこで保険をかけておきたい」

「保険?」

「未来で私がアルマに会えるように。アルマの片目と涙を泉に捧げよ」


 え? 片目と涙を?


「えっと……どうして片目と涙が?」

「アルマと必ず会うためにだ」

「それ以外に方法は?」

「ない」

「そ、そうですか」


 ないと言われても、俺は元の世界に戻れるのか?


「あの。僕は元の世界に戻れるのでしょうか?」

「知らん」

「え!?」

「私が知るのは今の世のことだ。未来のアルマのことなど知るはずもない」

「それはそうですけど……でも泉に片目と涙を捧げても、僕が未来の元の世界に戻れなかったら意味がないのでは」

「それはそうだろう。だが私は知らん。そして無理強いもしない。嫌ならどこかへ行けばいい。当てがあるならな」


 ごもっとも。

 何の当てもありません。


「僕には何の当てもありません」

「どうする?」


 どうするもこうするも、やるしかない。


「僕の片目と涙をミーミルの泉に捧げます」

「うむ」


 泉に近づく。

 澄んだ綺麗な泉。

 片目を……えぐり取るのか。


「あ~待て」

「え?」

「いま片目をえぐり取るつもりだったな?」

「はい。だって片目を捧げるって」

「片目は私の魔術で頂く。アルマがその場でえぐり取っても、ただ損するだけじゃぞ」


 あぶな! そういうこと早く言ってよ!

 めっちゃ覚悟決めてたのに!


「右目と左目はどっちにする?」

「えっと左目で」

「では行くぞ」


 ミーミルが何かを呟いた。

 それは俺には理解できない言葉だった。

 左目が温かくなる。

 優しい温かさだ。

 自然と涙が溢れて流れ落ちる。

 そして次の瞬間、俺の左目の感覚が突然無くなった。


「終わったぞ」

「は、はい……あ、本当だ」

「アルマの左目と涙。確かにミーミルの泉が預かった」


 左目を触るとそこには何もなかった。

 ぽっかりと空洞が広がっている。


「アルマよ。お前はミーミルの泉を飲む資格を得た。この場で飲んでいくといい」

「え? 泉を?」

「そうだ。この泉の水を飲めば、アルマは大いなる知恵と知識を手に入れるだろう。その担保も受け取った。飲んでいけ。アルマの力になるであろう」

「では遠慮なく」


 ミーミルの泉の水を手ですくい飲んだ。

 あれ? 上手く飲めないぞ。

 なんだこの水は?


「む……ギャラルホルンで無ければ上手く飲めないか」

「少しだけ飲めたような?」

「ふむ……かなり中途半端な知恵と知識を授けてしまったようだな」

「ええ!?」

「しかし飲んだことに代わりはない。残念だったの。はっはっは」


 騙された!?

 というわけではないだろうけど……でも別に知恵と知識が増えたように思えないぞ?

 ん? そうでもないか? ……なんかいろいろ分かったような気もするぞ?

 本当にものすごく曖昧な知恵と知識を授かってしまったようだ。


「では未来で会えるのを楽しみにしているぞ」

「はぁ……あ、あの1つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「ミーミル様って頭だけですよね?」

「うむ。私はかつてアース神族とヴァン神族との戦争が終わった時に、アース神族からの人質としてヘーニルと共にヴァナヘイムに送られての。ヴァン神族はヘーニルを王として迎え入れたのじゃが……あの怠け者はしっかり働かなくての。美しいヴァン神族の女にうつつを抜かすばかりじゃった。怒ったヴァン神族が私の首を切断して、アース神族に送りつけたのだ」

「なんかひどい話ですね」

「神族なんてみんなそんなものじゃ。私の頭を見つけたオーディンが腐敗することのない薬草を擦り込んで私をミーミルの泉に置いたのだ」

「ミーミル様の肉体はどうなったのですか?」

「ヴァナヘイムの海辺に捨てられたぞ」


 それだ。

 王家の迷宮最上級の迷宮主。

 あれはミーミル様の肉体もしくはそれに類する魔物だったのでは?

 なら、この時代のミーミル様の肉体を見つければ……元の世界に戻る手掛かりはそれしかない。


「ありがとうございます」

「私の肉体を探すのか? もう腐ってしまっているだろう」

「それでもです。手掛かりがそれしかありませんので」

「私の肉体が?」

「はい」


 未来でミーミル様の肉体と思われる魔物をサンドバック状態で倒したとは言えない。


「ヴァナヘイムにはどうやって行けばいいのでしょうか?」

「ちと遠いの。ここからだと……誰かに送ってもらえればいいのだが……お? ちょうどいいところに来たな」

「え?」


 振り返ると、そこには美男美女がいた。


「やぁミーミル。君に僕の妻を紹介しておきたくてね」

「知っておる。ゲルズだな」

「お初にお目にかかりますミーミル様。この度、フレイ様の妻となりましたゲルズです」


 この人が本物のフレイ!?

 めっちゃ美男なんですけど!

 それと……めっちゃ股間が盛り上がってるんですけど!

 どんだけ大きいんだ!!


「仲睦まじいことは良いことだ。毎晩フレイと激しく愛し合っているようだな」

「まぁ恥ずかしい」

「はっはっは。ゲルズ、恥ずかしがっても仕方ないよ。ミーミルはこの世のあらゆる知恵と知識を得るんだから。僕達が毎晩どれだけ熱く愛し合っているか、全てお見通しさ」

「もうフレイ様ったら本当に激しいですもの。私の体はもうフレイ様無しでは生きていけませんわ」


 そしてまたとんでもなく美女の奥さんだ。

 ゲルズさんというのか。

 めっちゃ恥ずかしそうに顔を赤らめているけど、言ってることは生々しいぞ。


「フレイ様のあそこの大きさときたら」


 あ、その先はアウトになってしまうので!!



「ところでミーミル。この人は誰だい? 見るに人族のようだけど」

「私の古い知り合いでな。アルマという」

「アルマです」


 古い知り合い? ということにするのか。


「へぇ~。ミーミルの古い知り合いだなんて珍しいね」

「うむ。旧交を温めておったのだ。それでフレイよ。ちと頼みたいことがあるのだが。アルマはヴァナヘイムに行きたいそうなのだが、あいにく足が無い。お主のグリンブルスティとスキーズブラズニルでアルマをヴァナヘイムの海辺に連れていってやってくれないか? お主も父のニョルズにゲルズを会わせに行ってはどうだ?」

「それはすごく良い考えだね! ゲルズ、父上もきっと君と会いたいだろう。美しい君を見たら父上はきっと君を口説くだろうけど、僕が守るから心配ないよ」

「ああフレイ様! 私の体はフレイ様だけのもの! 誰も指一本触れさせたくありません」

「もちろんさ! さぁすぐに行こう!」


 フレイが指を鳴らすと、そこに黄金の輝く猪の車が現れた。

 馬車ならぬ猪車だ。


「ミーミルありがとう! 君は本当に賢いね!」

「ミーミル様! またお会いしましょう!」

「うむ。アルマよ。乗り遅れるな。フレイは勝手に行ってしまうぞ」

「は、はい!」

「達者でな。また会おう」


 もう俺のことなんて気にしなくなったフレイの猪車に飛び乗る。

 しかし猪車は発車しない。


「あれ? スキールニル? どうして発車しないんだい? あ、そっか……いまスキールニルはいないんだっけ。仕方ないな」


 フレイは自ら手綱を手に取ると、猪車を発車させた。

 手綱を引いた途端、黄金に輝く猪車はものすごい速度で走り出した。


「うわあああ!」

「あれ? 君は誰だい? どうして僕のグリンブルスティに乗ってるの?」

「フレイ様。この御方はアルマ様ですよ。ミーミル様の古い知り合いという」

「ああ、そうだった。君をヴァナヘイムの海辺に連れていくんだったね! ははっ!」


 フレイは……馬鹿なのか?


「フレイ様。せっかく御父上にご挨拶に行くなら、妹君のフレイヤ様もご一緒の方がよろしいのでは?」

「そうだね! ゲルズは本当に美しくて賢いな~!」


 馬鹿ップルのラブラブ会話を聞きながら、猪車はどこかへと走っていく。

 まぁ俺も……アーネス様達とは夜に馬鹿ップルしていたから、あまり言えないけど。

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