第5話
オーディン王国第二王女マリアナ・オーディン。
会場の中に入ってきたマリアナ様はアーネス様に似てとても美人な王女様だった。
ただアーネス様が美人系なのに対して、マリアナ様はどちらかといえば可愛い系に見えた。
アーネス様と同じ透き通るような白い肌に青い瞳の王女様。
違いは髪の毛がアーネス様は金髪ボブだけど、マリアナ様は髪の毛は栗色ロングだった。
実に可愛らしい。
俺達と同い年で13歳だけど、マリアナ様の胸はすでに発育が始まっているのか膨らんでいた。
これは将来期待できる。
そして胸が大きいということは、やはり戦具の卵も大きいのだろう。
「マリアナ・オーディンです。本日は私の我儘のために貴重なお時間を頂いてしまい誠に申し訳ございません」
来て早々、マリアナ様は頭を下げて謝罪から入ってきた。
いやいや、王女様がそう簡単に謝らないでください。
こっちがびっくりしますから。
いや、びっくりするだろ? モードル君びっくりしろよ。
その当たり前だ、みたいな態度はよくないぞ。
「それで、なんで俺とこいつだけ残って挨拶を受けるんだ?」
こいつ呼ばわりしてきたぞ。
まぁ、モードル君にとって俺は目の上のたんこぶだからな。
「それは……」
マリアナ様は何やら言い難そうにして、黙ってしまった。
そんなマリアナ様を見て溜息をついたアーネス様が助け舟を出す。
「アルマ殿とモードル殿に残って頂いたのは、お二人の魔具の卵が大きいからです。ご存知の通り、魔具の卵が大きければそれだけ魔力増幅効果の高い魔具が現れる可能性が高いとされています」
「まぁな」
モードルは自分のことが誇らしいと言わんばかりの態度だ。
「……マリアナの戦具の卵は過去に例がないほど巨大です。こちらもご存知の通り、戦具の卵は大きければ大きいほど性能は高いとされています。ですが……必要とされる魔力も多くなっていきます」
「はは~ん。それで将来有望な俺にだけ挨拶ってわけか?」
いやモードル君だけじゃなくて俺もいるけどね。
「マリアナ」
「は、はい……」
アーネス様に促されると、マリアナ様は意を決して戦具の卵を出した。
「「なっ!」」
実に不本意であるが、モードル君とハモってしまった。
でも仕方ないか。
これはさすがに驚くよ。
「これが私の……戦具の卵です」
アーネス様が過去に例がないほど巨大と事前に言ってくれたけど、これは完全に予想を超える巨大さだ。
これ何メートルあるんだ?
目視でマリアナ様が4人ぐらい重なったぐらいの大きさに見えるけど。
5メートルじゃ足りないだろうな。
6メートルか、下手したら7メートルぐらいあるぞ。
とにかく巨大な卵だ。
さすがにモードル君も驚きのあまり声を失っているようだ。
俺も同じだけど。
これだけ巨大な戦具の卵となれば、孵化させるだけでもどれだけ魔力が必要か。
そしてその性能維持のための魔力、さらには覚醒のための魔力となるととんでもないことになりそうだ。
「マリアナはこの巨大な戦具の卵を出すのが恥ずかしく、このように別枠での挨拶の時間を頂きました。どうかお許しください」
「も、申し訳ありませんでした」
マリアナ様は今にも泣きだしそうな声でまた謝ってきた。
「は、はは。あ、挨拶は受けたからもういいのか?」
モードル君はこの巨大な戦具の卵を前にして、さすがにこれは無理だと判断したようだ。
いくらマリアナ様が美少女で将来間違いなく可愛い美女になると分かっていても、これを見せられたらマリアナ様の騎士にしようとは思えないだろう。
「貴重なお時間をありがとうございました。どうぞお戻りになって下さいませ」
この国の第一王女様が頭を下げてモードル君に言った。
モードル君はそそくさと会場を後にして出ていってしまった。
「アルマ殿も貴重なお時間ありがとうございます。どうぞお戻りになって下さいませ」
「あ、こちらこそ……ありがとうございます……あの、少し質問してもいいですか?」
「はい。何なりと」
「マリアナ様の戦具はどんな武具だと感じていらっしゃるのでしょうか?」
俺がこの巨大な卵を見て一番に考えたのは、これだけ巨大な器を持つ武具とは何だろう? であった。
単純に興味があったのだ。
卵の中にある戦具がどのような武具なのか、本人は分かるようなので聞いてみたかった。
「そ、それは……」
「マリアナ。大丈夫だ」
「は、はい! ……私の戦具は『鞭』です」
「鞭? 鞭とはバシバシと振って叩く鞭ですか?」
「は、はい。その鞭です」
鞭ね……え? こんな巨大な器の戦具が鞭?
戦具の卵も、魔具の卵と同じく孵化すると卵の大きさとは関係ない戦具が現れる。
だからこれほど巨大な卵から鞭の戦具が現れてもおかしくないのだが。
「ではきっとすごい鞭なんでしょうね」
「……」
「どんな鞭か……見てみたいですね」
「えっ」
マリアナ様に笑顔を向けて言った。
純粋にそう思った。
俺の魔具がどれほどの魔具か分からないけど、もし魔力増幅効果の高い魔具なら、この巨大な戦具の卵を孵化させてみたいと思えたんだ。
将来のことは分からないけど。
「あ、ありがとうございます。そう言って頂けるだけで私とても嬉しいです」
「え?」
見るとマリアナ様の可愛らしい目から涙が零れ落ちていた。
泣き出すマリアナ様を見て俺もオロオロしてしまう。
「マリアナ落ち着くんだ。アルマ殿の前だぞ」
「は、はい……ぐすっ」
「アルマ殿申し訳ありません。マリアナはこの巨大な戦具の卵を授かってからいろいろありまして……アルマ殿のように優しい言葉をかけて頂いたことがなくて、驚いてしまったのでしょう」
「そ、そうでしたか……」
俺のように優しい言葉をかけてもらったことがない?
待てよ。
今日の顔合わせには騎士学院の1年生の女の子もいた。
ということは、俺と同学年のマリアナ様はすでに去年も一昨年も、この顔合わせで賢者候補生と会っているということではないのか?
その時に今日と同じように別枠での挨拶だったのか、みんなと一緒に挨拶だったのか分からないが、たぶん賢者候補生から酷いことを言われたのかもしれない。
それに騎士学院の中でも何て言われているか。
さすがに王女様に向かって面と向かって悪口を言うことはないだろうけど、カースト上位陣が嫌がらせのように陰で悪口を言っているのかもしれない。
戦具の卵を授かった以上、王女様とて騎士候補生だ。
賢者に選ばれて騎士になれなければ、その存在価値は無いに等しい。
王の権力で選びたくもない王女様を騎士に選ばせて魔力を与えるなんてことも出来ないだろう。
そんなことをすればその賢者は他国に亡命しかねないし、他の騎士から反発が起こるだろうし。
「アルマ殿」
「は、はい」
「王女といえども賢者候補生であるアルマ殿に言っていいことではないのですが、どうか無礼を承知で言わせてください。マリアナのこと……どうかアルマ殿の頭の片隅に覚えておいてくださいませ」
「そ、そんな無礼だなんて。その……マリアナ様とも今後交流を深めていけたら嬉しいなと思っています」
「ほ、本当ですか!?」
ぽろぽろと涙が止まらないまま、マリアナ様は顔を上げて俺を見つめて言った。
「はい。本当です。こんな僕でよければ、ぜひ今後ともよろしくお願いします」
「は、はい! ありがとうございます。ありがとうございますアルマ様!」
あれ? 呼び方がアルマ様になってるけど。
いやいや、そっちは王女様なんだから、俺に様付けはまずいでしょ?
まずいですよね? とアーネス様を見たら、実に嬉しそうな笑顔をしていた。
「私からも感謝を。ありがとうございます、アルマ殿。ぜひマリアナとも仲良くしてください。そして私とも」
「は、はい」
どうやら俺を様付けで呼んだことはどうでもいいようだ。
こうしてアーネス様、そしてマリアナ様との交流が始まったのであった。