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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第二章
47/89

第47話

 現れたのは巨大なエルフ。

 実体のあるエルフではないな。

 精霊力のよって形作られた黄金に輝く巨大な女性のエルフだ。


「なんだこいつは!」


 アーネス様が聖属性で斬りかかるも、跳ね返された。

 こいつは実体があるわけじゃない。

 ただの精霊力の塊? 何なんだ。


 巨大なエルフが右手を振り上げる。

 すると、フレイヤが人形を呼び出したのと同じように、そこには一人の男が立っていた。

 あれは……猪?

 顔が猪のような獣人族に見えるが……。

 ものすごい筋肉で魔物のミノタウロスに似ているな。

 モニカと同じ斧を持っている。


「まずいっしょ!」


 その猪人間が動き出すと同時にモニカは動いていた。

 こいつの狙いは俺だった。

 気づいた時には俺の目の前に斧が振り下ろされていて、モニカがそれを防いでくれた。

 横からマリアナ様の鞭が唸る。


「くっ! 硬い!」

「貴様ぁぁ!!!」


 アーネス様が上空から猪人間の頭目掛けて降りてくる。

 その剣先を猪人間は紙一重でかわした。


「は、はは、はははっ! こ、これが古代の女神フレイヤの力! す、素晴らしい! 素晴らしいわ! あの御方の言ったことは本当だったのね! ならあの戦士はオッタル! はははっ! これでお前達は終わりだ!」


 古代の女神フレイヤ? オッタル?

 さっきの黄金に輝く首飾りは何だったんだ? 精霊具ではない?


「結界!」


 ティアが結界を展開してくれた。

 でもこのオッタルという奴の攻撃を防げるとは思えない。

 属性付与されたアーネス様とモニカ、それに戦具を得たマリアナ様の3人を同時に相手して、一歩も引けを取らない。


 正直とんでもなく予想外だ。

 自惚れていた。

 進化と属性付与という常人では到達しえない力を得たアーネス様達がいれば、どんな状況でも最終的には大丈夫という余裕があった。

 まさかこんな隠し玉があったとは。

 

 黄金に輝く巨大な女性エルフ。

 古代の女神フレイヤなのか。

 女神フレイヤは左手を振り上げた。

 すると今度は無数の天使? が現れて……。

 これは……まるでアーネス様の戦乙女ヴァルキリーじゃないか。


「くっ! こいつらはっ!」


 アーネス様は上空に飛ぶと、無数の戦乙女ヴァルキリーのような者達と戦い始める。

 こいつらも強い。

 聖属性全開のアーネス様でも倒せないか。

 数の違いから押されてしまうだろう。


 ナルルとディアも、戦乙女ヴァルキリーのような者と戦っている。

 あきらかに防戦一方だ。


「結界!」


 アーネス様が抜けてマリアナ様とモニカ二人の相手となったオッタルが、俺に向けて斧を振り下ろしてくる。

 ティアの結界が一瞬防いでくれるも、そのまま結界を壊して斧が振られる。


「私も覚醒を!」


 マリアナ様が進化ではなく覚醒を使おうとした。


「くぅぅぅ、い、言うことを聞きなさい!」


 なんだ? 覚醒が上手くいかない?

 まずいぞ……どうする。


「はぁはぁ……さっきからうるさいっしょ!」


 今度はモニカが叫んだ。

 うるさい?

 オッタルは叫び声も何も上げてないぞ。


「いまそれどころじゃないっしょ!」


 モニカ何を言ってる?


「ご主人様に聞いてくれっしょ!」


 え?


『小僧』

「えっ!?」


 だ、誰?


『お前が小娘の主か』

「は、はい。えっと、モニカのことで?」


 低く迫力のある声が頭に響く。


『我がせっかく力を貸そうというのに、その小娘が聞かんのでな』

「え、えっとどちら様で?」

『我が名はトール。雷神トールである! ユグドラシルに刻まれた我が魂の一部の力を貸してやろう』


 トール。

 モニカの戦具解放にあった名だ。

 雷神トール。

 古代の神様なのか?


「貸して頂けるならぜひとも! いま大変な状況なので!」


 頭に響いてくる声に答えながら、オッタルの斧を避けていく。


『ならば小娘に我の力を受け入れるように言え』

「モニカ! 何か聞こえてくる声の力を貸してもらえ! 受け入れるんだ!」


 状況は悪くなる一方。

 雷神トールの力で状況を変えられるなら。


『小娘。我の名を呼べ。さすれば我が神器を貸し与えよう』

「ぎゃーぎゃーうるさいっしょ! さっさと寄越しやがれっしょ! トール!!」


 鳴り響いたのは雷鳴。

 雷属性のモニカの戦具から轟音のような雷鳴が鳴り響いた。

 異変を感じたオッタルが距離を取る。

 そしてそこには……斧ではなくハンマーのような武器を持ったモニカが立っていた。


『我がハンマーのミョルニルだ。小娘では扱えないだろうから帯のメギンギョルズも貸しておいたぞ』

「なかなか良いっしょ」

『生意気な小娘だ。ユグドラシルに刻まれた我が魂の一部からとはいえ、神器は神器なのだぞ。光栄に思え』

「あざーっす。ありがたく……使わせてもらうっしょ!!!!」


 モニカがオッタルにミョルニルを打ち下ろす。

 今まで攻撃を斧で弾き返していたオッタルが、初めて回避行動に出た。

 つまりあのハンマーに当たるとやばいわけだ。


『空を飛ぶヴァルキリーもどきが厄介じゃの』


 雷神トールの声はまだ俺の頭の中に響いてくる。


「あれはヴァルキリーなのですか?」

『もどぎじゃ。そもそも、あそこにおるフレイヤも、擬似神器によって強引に世界樹から魂を引き出された精霊体だ。今は我のように意識はあるまい』

「空のヴァルキリーもどきどうにかなりませんか?」

『あそこで戦っておるのは小僧の仲間であろう? あの小娘からはブリュンヒルドの魂を感じるが』

「アーネス様の戦具にはまだ解放するだけの魔力がないんです」

『ミョルニルを持った小娘がオッタルを倒せば……と言っているうちに決着が着きそうだの』

「あ」


 モニカが押している。

 さっきまでとは攻守が逆転して、オッタルは逃げ回るばかりだ。

 ミョルニルを一撃でも喰らうまいと必死に逃げている。

 モニカが雷属性を全開にして一気に間合いを詰めた。


「おっしゃぁぁあ!!!!」


 ミョルニルの一撃でオッタルの体が消し飛んだ。

 なんて破壊力だよ。


『なかなかやるではないか。まぁあのオッタルも不完全ではあったが。小娘、ミョルニルをフレイヤの精霊体に打ち付けるのだ。ミョルニルがフレイヤの魂を清めて解放するであろう。空のヴァルキリーもどきもそれで消滅じゃ』

「了解っしょ!」


 モニカが女神フレイヤの精霊体に向かって行く。

 危険を察知したのか、女神フレイヤの右手が再び振り上げられて……。


『そうはさせん』


 女神フレイヤの右手に巨大な雷が落ちた。

 トールがやってくれたのか。


「うぉぉりゃぁあ!!!」


 モニカがミョルニルを女神フレイヤの精霊体に打ち込んだ。

 空間にひびが入ったかのように、精霊体の周りで何かが崩れて落ちていく。


『ああ……』

『古き友よ。何者かがそなたを縛っていたようだ。ユグドラシルから魂の還る場所へと向かうがよい』

『トール……気を付けて……スキールニルよ。兄からもらった神器と共に……彼はユグドラシルにルーンを刻んでいる……ああ……』

『スキールニル! まさか奴が!?』


 女神フレイヤの精霊体は霧が晴れていくかのように散って消えていった。

 同時に空を飛んでいたヴァルキリーもどきも消滅していく。


『スキールニルが……』

「スキールニルとは何者なのですか? エルフ族に制約の契約を与えていたのも、そのスキールニルです」

『奴は人族でありながら魔術とルーン文字を極めておった。呪いの魔術も得意であったからな。ラグナロクの時に姿を見なかったが……まさか生き延びておったか』

「あの、人族ってそんなに長く生きられるのですか?」

『黄金のリンゴを未だに手にしているのだろう』

「イズンのリンゴのことですか?」

『小僧のイズンのリンゴが、我の知る黄金のリンゴと一緒か分からぬが、イズンが管理していた黄金のリンゴを食べれば永遠の若さを保てるのだ』


 イズンのリンゴを食べたエルフは長命にはなるけど、不老不死ではない。

 黄金のリンゴはイズンのリンゴの上位版か。

 いや、イズンのリンゴが黄金のリンゴを元に作られた劣化版と言った方がいいか。


『小僧。我の魂は解放された。もう会うこともないであろう』

「え? もう会えないのですか?」

『我の魂もユグドラシルから還る場所へと流れるだけじゃ』


 解放って消費型でしかも1回きり?


「あのユグドラシルって何のことですか?」

『ここじゃ。世界を支える巨大な樹。それがユグドラシル』

「え? ここ?」

『もう時間がない。小僧。スキールニルはユグドラシルにルーン文字を刻み何かしておるようじゃ。それが平和のためなら良し。違うのであれば、小僧が止めろ』

「僕がですか……」

『嫌なら帰って寝るがいい。小娘、我が神器を返してもらうぞ』

「欲しいっしょ」

『だめだ。それは人の手には余る』

「ケチ」


 モニカからミョルニルと腰に巻かれていた帯のメギンギョルズが消えていく。

 あっ! 最後に聞かないと!


「あの! 神獣とは何ですか!?」

『神獣? 知らんな』

「竜なんですけど!」

『竜? ニーズヘッグのことか?』


 ニーズヘッグ?


『小僧。知恵と知識を求めるならミーミルの泉を探せ』

「ミーミルの泉?」

『最も賢い巨人。賢者の神ミーミルが小僧を助けてくれるだろう。さらばだ』

「え? いや? ちょっとそのミーミルの泉ってどこに!」


 頭の中に響いて音が消えた。

 探せって言われてもミーミルの泉なんて知らないよ。


「消えたっしょ」

「だね……」


 俺とモニカのところに、アーネス様、マリアナ様、ティアが集まる。

 ナルルとディアは……フレイヤが逃げないように入口を見張ってくれているな。

 フレイヤは逃げるどころじゃないけど。

 意識を失ったかのように呆然自失状態だ。


「アルマ様いったい何が」

「僕も分からないことだらけです。とりあえず僕達の勝ちは勝ちです。でも僕の考えが甘くみんなを危険に晒してしまいました」

「戦いはいつでも危険が伴います。アルマ様だけが気になさることではありません」

「当然っしょ」

「そうですわ。私達はアルマ様のために死ぬ覚悟は出来ています!」

「ティアもです!」

「ありがとう。反省するべきことはして次に生かしていこう。今は……やることをやらないとね」


 整理したいことは山ほどあるけど、今は目の前のことだ。

 フレイヤが襲ってきたときに自分の中で決めたこと。

 徹底的にやると。

 フレイヤを僕の駒とする。

 ゆっくりフレイヤに近づいていった。


「今からフレイヤ様の制約を解除させて頂きます。つきましては、僕の仲間……となって頂きますので」


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