第41話
黄金に輝くリンゴ。
ティアのイズンのリンゴが現れた。
リンゴを手にとりまじまじと眺めるティア。
そしてついにリンゴを食べた。
「はむ……お、美味しい!」
「モニカも食べたいっしょ」
「だめだよ。ティアがちゃんと全部食べてね。中途半端なハイエルフになったら大変だ」
もぐもぐとティアはイズンのリンゴを全部食べ終えた。
食べている時からティアの体から黄金色の輝きが溢れていたが、食べ終わるとより一層強い輝きを放つ。
神々しいといえばいいのか。
思わず拝みたくなってしまうな。
しばらくすると黄金色の輝きは消えていった。
ティア
精霊力:1000
精霊術『治癒』
精霊術『結界』
精霊術『再生』
精霊具『白法衣』
精霊具『白雪杖』
0/10000:種
あれ? 何も変わってないぞ。
イズンのリンゴが消えただけだ。
精霊獣の情報は追加されていない。
ハイエルフになったとかもないし。
ティアがじっと俺を見つめてくる。
「おめでとう。これでティアはハイエルフだね」
「何かティアのことで新しく分かったことありましたか?!」
やっぱり気になるよね。
「ハイエルフになったとかは視えないね。そもそもハイエルフってエルフ族が考えた言葉だからかな。イズンのリンゴを食べたエルフは長命になるから、普通のエルフとは違うという意味でハイエルフと位置付けた。その情報は僕には視えないけど、ティアは長命になったんだと思う」
「精霊獣は……」
そこやっぱり気になるよね。
「ティアには精霊獣の祝福はなかったみたい」
「そ、そうでしたか」
「でも、精霊獣の代わりの祝福が出てきたよ」
「えっ?! なんですか?!」
「種だね」
「種?」
「うん、種」
『種?』
「うん、だから種だって」
「種……とは何の種ですか?」
「分からない。でもきっとすごい種なんじゃないかな。マリアナ様の神獣と同じだけの精霊力を必要としているから」
「ほえ~。私の神獣と同じ」
「それはきっとすごい種だな」
種のことは今まで伏せていた。
精霊獣の代わりということにしておこう。
何の種なのか分からないけど、役に立たない種ではないだろう。
精霊力10000も必要なんだから。
植えたらずっと豊作が続くとか、きっとご利益があるはずだ。
「精霊力も1000まで上げておいたよ。明日からの探索で、みんなを守ってあげてね。新しい精霊術『再生』と精霊具『白雪杖』はどうかな?」
「はい。ご主人様から授かった新たな力が分かります。精霊術『再生』は治癒では治せないような重い怪我や病気を治せます。精霊具『白雪杖』は私の精霊術の効果を大幅に上げてくれるようです」
ティアの力の源は精霊力だ。
鍵の魔具に溜めた精霊力分しか俺も与えられない。
ティアは支援回復系の精霊術だったから、いざという時の出番まで精霊力を温存できるのがありがたい。
これが戦闘系だったら、戦うために精霊力を消費することになるからね。
マリアナ様の戦具の卵の神獣も、9990/10000となっている。
これで後は鍵の魔具に溜められるだけ精霊力を溜めて、最後に持っている精霊石を輝かせたらいい。
精霊力はこれでいいとして……明日からは魔力だ。
俺の基礎魔力をもっと上げていく。
そして、明日はついに属性付与を試す。
アーネス様
73250/1200:修復
73250/120000:付与『聖属性』
73250/600000:解放『ブリュンヒルド』
モニカ
100000/1000:修復
100000/100000:付与『雷属性』
100000/500000:解放『トール』
モニカの魔力を10万まで先に与えたのだ。
明日は雷属性の付与を試してみる。
「大丈夫っしょ。モニカの勘は当たるっしょ」
モニカ曰く、雷属性の付与は一時的ではなく永続的なものだそうだ。
戦具に魔力が溜まった感じからして、モニカの勘がそう言っているそうな。
モニカの勘は当たるから、明日は期待しよう。
属性付与が永続的なものなら、次はいよいよ『解放』となる。
モニカの解放に必要な魔力は50万。
今の俺では気軽に溜められる魔力じゃない。
まぁ、こんな魔力を気軽に溜められるようになるのもどうかと思うけど、せっかく鍵の魔具のおかげで基礎魔力が増えていくんだ。
オーディン王国のためにも、志は高く持たないとね。
それとマリアナ様のためにも。
あいかわらず戦具を得られないマリアナ様。
明日からの上級迷宮の最奥部での探索でも、おそらく実質戦力にはならない。
特に迷宮主との戦闘では。
この探索が終わって女王フレイヤ様に会えることが出来れば……結果がどうであれ、マリアナ様の戦具を孵化させることになっている。
ただ……会えなかったらどうしよう!
翌日。
昨日恐ろしいことが判明してしまった
ティアが新たに得た精霊術『再生』だ。
治癒よりも高い回復効果を持つこの精霊術……なんと俺の体力と精力も再生してしまったのだ。
昨日はティアとお風呂に入っていたんだけど、そこでティアが再生を試してみたら、自分の体力と精力が回復したのが分かった。
あまりに恐ろしい効果である。
そして、ティアは分かっていたようだ。
使用者本人であるティアは分かっていたのに、あえてみんなの前では内緒にしていたのだ。
俺はその場で土下座する勢いで、ティアにこのことを内緒にしてもらうようお願いした。
ティアは快諾してくれた。
素晴らしいほど可愛らしい笑顔と共にこう言って。
「ティアと二人きりの時だけ使いますねっ!」
ティア……恐ろしい子!
そんなわけで迷宮探索です。
この上級迷宮の迷宮主に関する情報はない。
最奥部まで探索するエルフ族なんてほとんどいないそうだ。
そんなことをするのはハイエルフだけだそうな。
「念のため迷宮主を見つけてからにしようか」
「了解っしょ」
モニカの勘を疑うわけじゃないけど、勘は勘だから。
雷属性付与を使って、やっぱり消費型でしただと勿体ない。
せめて迷宮主を見つけていれば、それも有効活用できる。
初めて使う雷属性をモニカが使いこなせるかは別問題として。
さすがは上級迷宮の最奥部とあって、魔物の攻勢も激しいものがある。
とはいえ、俺達はまだまだ余裕だけど。
基本陣形で問題なく対処できているし、少し陣形が乱れることがあれば空を舞うアーネス様がすぐに上空からサポートしてくれる。
迷宮主を見つけたのは空を飛ぶアーネス様と、偵察用魔霊獣を持つディアが同時であった。
「いた」
「あれですね」
アーネス様が降りてくると、強力なゴーレムの群れを見つけたと報告してきた。
同じくディアの闇鷹の眼もそれを捉えていた。
中央に一際大きいゴーレムが1体。
その周りを取り囲むようにゴーレムが6体いるそうだ。
「迷宮主と見て間違いないね」
「あの頑丈そうな体……何の材質か分かりませんが、持ち帰られるならお願いしたいです」
「了解」
「いくっしょ?」
モニカはやる気満々です。
「もちろん、やるっしょ」
俺の言葉に笑顔で答えるモニカ。
金剛の斧を構えると精神を集中していく。
斧と鎧の戦具の中で魔力が爆発的に高まっているのが分かる。
10万もの魔力がいま雷属性となるべく蠢いている。
「なっ……」
まさにそれは雷鳴。
ゴォォンという轟音と共にモニカに雷が落ちたように見えた。
実際は逆か。
モニカから雷が発生したのだろう。
黄金色の斧と鎧は、その色を輝かせながら雷を纏っている。
無数の黄金の雷の線が斧と鎧を駆け巡っているのだ。
「どう?」
「魔力が減る感覚は無いっしょ」
「モニカの勘が当たったね」
「これすごいっしょ。今ならアーネスっちに勝てるっしょ」
「ほ~私にか」
「こらこら、ここで試合はしないでよ」
「アーネスっちが聖属性を付与されたら勝てないっしょ。帰ったら勝てるうちに試合するっしょ」
「それずるくない?」
二人の試合はさておき、問題はどれだけすごいかだ。
「どれだけすごいか見せてもらえるかな? こっちに向かってきているようだし」
「ういっす」
あれほどの魔力の爆発と雷鳴だ。
迷宮主と取り巻き達はこちらに近づいてきていた。
俺達を視認すると、敵意を露わに襲い掛かってくる。
次の瞬間、モニカが取り巻きのゴーレムを1体叩き潰していた。
見えなかった。
モニカが動いたのがまったく見えなかったぞ。
「む、速いな」
アーネス様は見えているのね。
雷属性によって動きが高速化……光速化と言った方がいいか。
とにかく速い。
モニカは真正面から叩き合うのが得意だ。
重量のある金剛の斧と鎧はそのためにうってつけの戦具と言えた。
その重さに雷の速さが加わって、とんでもないことになっている。
取り巻きのゴーレムが次々と叩き潰されていく。
迷宮主のゴーレムも黙っていない。
両手からビーム砲のようなものを放っている。
でもモニカが速すぎて当たらない。
あっという間に6体の取り巻きを叩き潰し終えた。
「やっちゃっていいっしょ?」
「いいけど……」
「待て。モニカばかり活躍させんぞ!」
アーネス様も羽ばたいて迷宮主と戦い始めた。
続いてナルルとディアも参戦する。
俺とマリアナ様とティアは後ろで高みの見物です。
「モニカの攻撃凄まじいですね」
「あれなら最上級迷宮の魔物も」
「ですね」
「ご主人様達が勝てずに退却した王家の迷宮の最上級ですか」
「うん。オーディン王国に戻ったら、あそこを探索して攻略したいんだよね。等級魔石をたくさん手に入れられるだろうから。それを王家が貯蓄すれば」
「お父様頑張っていましたね」
「さすがは王様だね。スヴァルト達を匿ってもらうために何度か戻ったけど、賢者騎士達との話し合いは上手い方向に進んでいるようだね」
「大賢者様達からはずいぶん反発を受けていたようですけど」
「それは仕方ないかな。まだ僕の存在を公表していないからね。帰ったら正式に公表するから、そうすれば大賢者様達も王家に従うはずさ。そうでなければ、自分達が不利になると分かるだろうから」
「ご主人様がいれば他の賢者はいらないのでは?」
ティアの疑問だ。
まぁそう思っちゃうよね。
でもそれでは国の形が持たない。
「僕しか賢者として認められなかったら、他の賢者はきっと他国に行ってしまう。僕が生きている間はそれでもいいかもしれないけど、僕が死んだ後はそうはいかない。それに賢者の権力が僕だけに集中するのは良くない。例えそれがもっとも効率的であってもね」
「でもご主人様に魔石を集中させるのが、最も栄える道では?」
「今言ったように、僕が生きている間はそうかもしれない。僕はいつか死ぬ。次代の人達のことを考えないとね。ただ……賢者と騎士の関係性は変わっていくだろうけど。特に進化の存在によって」
「私達が最上級迷宮を攻略できれば、多くの等級魔石を支給することができます。大賢者だけではなく」
「最低でも一人の賢者に一人の進化騎士。これが出来ればオーディン王国の国力はすごいことになる。どうしても賢者の数は騎士の数より少ないから、結局は魔力増幅効果の高い魔具を持つ人に、多くの進化騎士を持ってもらうことになるだろうけど」
「進化騎士が当たり前になったら、精霊王国は太刀打ちできないでしょうね」
オーディン王国だけが強くなり過ぎたら。
王は他国を侵略するつもりはまったく無いでいる。
でも次代の王達はどうなるか分からない。
王には男の子供がいない。
娘が二人とも戦具の卵を授かるという奇跡を得たことで、アーネス様の主となる賢者が時代の王となるか、アーネス様が女王として即位するかどちらかの予定だった。
アーネス様の主の賢者には俺がなってしまった。
俺は王にはなりたくないので、出来ればアーネス様に女王として即位して欲しい。
政治のこととか分からないし。
アーネス様に以前話したら、頑張ります、と答えが返ってきた。
頑張って! アーネス女王!
「そろそろ決着がつきそうですね」
ずいぶん早い。
王家の迷宮の上級迷宮の迷宮主の時は30分近くかかったはずだ。
10分もかかっていない。
それだけモニカの攻撃力が上がっているのだろう。
アーネス様にも聖属性を付与できれば……最上級迷宮もいける気がしてきたぞ。




