第40話
本格的な探索開始です。
一度かなり奥まで行ったけど、結局最奥部までは行かなかった。
今回は最奥部まで行き、迷宮主を倒すことを目標としている。
森林の構造をした迷宮には、多くの影や暗い場所がある。
迷宮の中に太陽があるわけではない。
森林に生えている樹の中で明るく輝いているものがあるのだ。
また空高くの天井も明かりを注いでいて、それなりに光源は確保されている。
影や暗い場所が多いことは、スヴァルトにとって有利となる。
ナルルとディアの闇魔法が効果的に作用するから。
いまはナルルの闇魔法『霧』を展開している。
これは暗闇の霧を辺りに発生させることで、魔物がこちらを見つけ難くしてくれる。
うす暗い森林の中では効果抜群だ。
辺りが開けた明るい場所だと、暗闇の霧は明らかに浮いた場所となってしまって、逆にそこに誰かいると分かる。
それを囮にすることも考えられるけど、やっぱりこうして薄暗い中で展開するのが最も有効だろう。
この暗闇の霧の中でもナルルは霧の影響を受けることなく見ることができる。
魔物を見つけるとディアに指示を出してくれる。
ディアの魔霊具の闇弓と闇矢。
これは戦具のように実体のあるものではない。
あくまでディアの魔力によって造られた弓と矢だ。
つまり使うたびに魔力を消費してしまうことになる。
消費魔力はそれほど多くないから助かっている。
まぁ、この考えも鍵の魔具によって基礎魔力が増え続けている俺だから考えられるのかもしれないけど。
ナルルの指示に従って、ディアは闇矢を飛ばして魔物を次々と倒していった。
「この闇魔法『衣』は素晴らしいですね。私も闇魔法が使えれば」
「アーネス様にはご主人様から授かった素晴らしい戦具があるではありませんか。それにご主人様なら闇魔法をお使いになれるのでは?」
「まぁ使えるには使えますけど、僕の鍵の魔具は魔力を増幅して魔法を使ってくれないので……それにナルルやディアの闇魔法は僕の魔法とはたぶん違う」
「人族とエルフ族の違いでしょうか?」
「分からないけど、僕は魔力を様々な属性に変換させているんだ。だから僕の魔力を闇という属性に変換させて、ナルルの衣のように使えば同じ効果を得られると思う。でもナルルやディアは自分の魔力を闇魔法に変換させようと思ってないでしょ?」
「はい。ご主人様から授かったこの闇魔法……以前は闇の精霊術と呼んでいましたが、自然と使えるものです。もちろんご主人様から頂いた魔力を消費してですが」
「限定されているからなのかな。闇魔法以外は使えないしね」
「では今後はアルマ様にこの闇の衣を……いや、闇だけではなく、光や水でも可能なのではっ!」
「いや、やらないからね」
ナルルの闇魔法『衣』。
これは闇を纏うことで防御力を上げる魔法だ。
ただこの闇を纏うというのが……実にエロティックなのだ。
あれなんですよ……真っ黒なぴっちりスーツを着ているみたいになるんですよ。
俺の魔法とは根本的に何かが違うのだろうけど、それまで着ていた服や防具を闇が包み込んで、身体のラインにぴったりの真っ黒スーツが現れる。
このぴったり真っ黒スーツは攻撃を受けると、一定ダメージまでは守ってくれる。
攻撃を受け続けると、ぴったり真っ黒スーツが破け飛んで、着ていた服や防具の姿に戻るわけです。
すごい便利なんだけど、便利なんだけど……。
胸の大きなアーネス様、マリアナ様、モニカ、ナルルのぴったり真っ黒スーツの姿はあまり圧巻過ぎる。
ディアもまだ身長は低いとはいえ、出るところは出ている。
ティアは……。
「べ、別に私は悔しくありませんもん!」
エルフ族からすると胸が大きいことは太っていることになる。
この中でティアだけ胸がない。
胸がないからぴったり真っ黒スーツの前は絶壁である。
胸が大きいことを太っているとするエルフ族にとって、美醜の価値観は何なんだろう? と疑問に思い聞いてみた。
人族から見れば誰もが美形のエルフ族だ。
答えは……どれだけ世界樹から祝福を受けているかであった。
世界樹から多くの祝福を受けているエルフほど美しい。
つまりエルフよりハイエルフの方が美しく、ハイエルフの中でも最も世界樹から祝福を受けている女王フレイヤ様が一番美しいというわけだ。
逆に世界樹から祝福を受けられないスヴァルトは最も醜い存在とされている。
制約から生まれてしまった価値観なのだろう。
ナルルの魔霊獣『闇馬』とディアの魔霊獣『闇鷹』。
これも実体はない。
魔力によって造られた馬と鷹だ。
ナルルの闇馬は移動に便利で、実際の馬ではないからどんな条件下でも速度を落とさず走ってくれる。
どんなに地面が悪くても、どんな崖でも、脚の先が闇となって走り抜けてくれるようだ。
ディアの闇鷹は完全な偵察用だ。
闇鷹の視界とディアの視界を同調させることができるので、離れた場所を視ることができる。
精霊獣は実体があるのだろうか。
今のところティアは精霊獣を持っていない。
精霊獣も魔霊獣のように精霊力を使って造るものなのか。
ティア達も精霊獣に関してはあまり知らなかった。
「世界樹の祝福の中でも最後に授かるのが精霊獣だと言われています。精霊獣は神の加護を授けるとか」
神の加護か。
世界に恩恵を届けるというおとぎ話はここから来ているんだな。
神の加護を得られるのは精霊獣を授かった者だけなのか。
それともその神の加護は世界に与えられるのか。
「女王フレイヤは精霊獣を持っているはずです」
「聞いても教えてくれないだろうね。っていうか、言えないだろうし。制約で」
女王フレイヤ様の制約を解除すれば話してくれるだろう。
でもそれはどうなのか。
ティアは俺が精霊力を与えるからいいけど、エルフ族にとって制約とは世界樹から祝福と言う名の精霊力を与えてもらう機会でもある。
捧げた精霊力の10分の1ぐらいしか精霊力をもらえないという、とんでもなく不利な条件であっても、精霊力を得るには世界樹しかない。
俺が全エルフに精霊力を与える?
確かに俺なら持ってきた精霊力を10倍にして与えることができるけど、そんなことになったら俺は精霊王国から動けなくなる。
それに俺が死んだ後はどうするのか。
どうしてこんな世界の造りになっているのか分からないが、ここはそういう世界なんだ。
安易に俺がエルフ族と世界樹の関係を壊してはいけない。
俺の能力はオーディン王国のためにある。
オーディン王国は俺の能力を最大限に使って、変えていくものは変えていくし、俺が死んだ後のことも用意できるものは用意する。
スヴァルトに関しては例外だ。
幸いにも人口が少なかったのもあるけど、俺が救わないとスヴァルトは魔力暴走によって死んでいくだけの運命だった。
ナルルを救った時点で、スヴァルトは俺が責任を持たなくてはいけない。
俺でなければ救えないし。
もともと最奥部まで行くのは問題なく行けていたはずだ。
いまはナルル、ディア、ティアの3人の戦力が増えてさらに余裕である。
ティアは直接的な戦闘能力ではないから、俺と一緒に後ろで見守る係り。
大剣のナルルと斧のモニカが前衛で、中衛に弓のディアと鞭のマリアナ様、その後ろに俺とディアだ。
アーネス様は空にいます。
「絶はどうだい?」
「……まだ上手く使えないよ」
「練習あるのみだね。魔力は僕が与えられるから、遠慮なく使っていいからね」
「サスガハゴシュジンサマデスワ」
「もうちょっとありがたく思ってもいいんだよ?」
闇魔法『絶』はかなり強力だけど、まだディアが使いこなせていない。
もう1つの闇魔法『闇玉』は魔物にぶつければダメージを与えられるけど、どうも光りを吸収する特性もあるようだ。
「本当にご主人様に感謝しなさい。こんなに闇魔法を使えることなんてないのだからな」
「はい。分かってますよ」
スヴァルトの力の源は魔力だ。
俺の基礎魔力と同じで、栄養を取って寝れば回復する。
その保有量は人族に比べたら圧倒的に多い。
ナルルは98もあったからね。
いまナルルとディアが持つ多くの魔力は俺が与えている。
魔石魔力と同じだね。
俺から与えられた魔力は自然回復するものではない。
使ったら終わり。
でも俺がいる限り、また魔力を与えればいいので問題ない。
迷宮探索3日目。
最奥部に到着したようだ。
魔物の強さで分かる。
最奥部の探索は明日からにして、鍵の空間の中で休むことにした。
「結構な精霊力が溜まったから、ティアに与えるね」
「ありがとうございます。ティア……う、うれぴー!」
「モニカ」
「うっす」
「ティアで遊ぶのやめてね」
「ティアちゃん可愛いっしょ」
「可愛いのは否定しないけど、あまり変な言葉使いにしないでよ」
うれぴーはさておき、ティアに精霊力を与えた。
ティア
精霊力:1000
精霊術『治癒』
精霊術『結界』
精霊術『再生』
精霊具『白法衣』
精霊具『白雪杖』
0/1000:イズンのリンゴ
0/10000:種
精霊術3つに精霊具2つ。
ディアと同じだけ揃った。
新たな情報は追加されない。
精霊獣の情報が出てくるかと期待していたんだけど。
イズンのリンゴかな。
精霊獣はハイエルフが授かる。
ならティアがイズンのリンゴを食べてハイエルフになったら精霊獣が出てくるのかもしれない。
鍵の魔具に残っている精霊力はおよそ150。
10倍に増幅してくれるから、イズンのリンゴを与えられる。
「ティア」
「はい!」
「今からティアにイズンのリンゴを授けるよ」
「えっ!」
「ティアはハイエルフになる」
「私が……ハイエルフ……」
「良かったな! ティアがエルフの王族の仲間入りだ!」
「あ、あの、私……ティアはハイエルフになっても、ご主人様達と一緒にいられますよね?!」
「もちろん。ティアの制約を解除したのは僕だから。ティアは世界樹から祝福を受けられない代わりに僕が祝福? を与えてあげるから。僕達と一緒にいてね」
「はいっ!!」
ティアに精霊力を与えていく。
イズンのリンゴが1000/1000となった。
するとティアの前の空間が黄金色に輝き始めて、1つの点に収縮していく。
その黄金色の輝きが集まり形を作っていけば……そこに1つのリンゴが現れた。
これがイズンのリンゴか。




