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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第二章
38/89

第38話

「お目にかかれて光栄ですミラ様。オーディン王国の魔術師アルマです」

「どうぞおかけになってください」


 ギルドでハイエルフのミラさんと会った。

 ハイエルフの居住区は立ち入り禁止のため、こうしてわざわざハイエルフ様がやってきてくれたわけだ。

 もう完全に上からの見下し感が半端ないです。


「名高いハイエルフのミラ様にお会い出来て嬉しいです」

「まぁ。アルマさんは賢い殿方のようですわね。オーディン王国は紳士的な御方が多いと伺っておりましたが、それは本当のようで。野蛮なフレイ王国の者とは大違いですわ」


 フレイヤ王国とフレイ王国はあまり仲が良くないらしいね。

 対立しているわけではないそうだけど。


「早速ですが、こちらが精霊石です」

「素晴らしい! この輝き。精霊石に精霊力が一杯に溜まっている証拠ですわ」

「はい。この光が出てから、精霊石は精霊力を吸収しなくなりましたので、これで一杯なのだろうと思いました」

「その通りですわ。精霊石はその大きさや質によって溜められる精霊力に差がありますのよ。これを一杯に出来るのなら……。あら、私ったらいけない。まずはこの精霊石の買取りでございましたね。この金額でいかがでしょうか?」


 ミラさんが提示した金額はずいぶん多かった。

 普通の冒険者なら1年ぐらい遊んで暮らせる金額だ。


「こんなによろしいのですか?」

「はい。ぜひお受け取りください。そして……こちらも」


 ミラさんは新たな精霊石を取り出した。

 今まで持っていた精霊石よりも大きい。


「ぜひこの新たな精霊石に精霊力を溜めて、またお売りにいらしてください」

「分かりました。またこの精霊石を光り輝かせて、ミラ様にお会いしたいです」

「まぁまぁ。本当にアルマさんは素敵な殿方で……。お待ちしておりますわ」

「ありがとうございます。僕も世界に恩恵を与えてくれる世界樹の役に少しでも立てられて嬉しいです」

「全て人族がアルマさんのような御方なら、この世界はいつまでも平和が続くことでしょう」

「そんな僕なんか……そういえば、王都のギルドマスターが古い友人から聞いた話で、世界樹に精霊力を捧げると精霊獣が産まれて世界に恩恵を届ける、という素敵な話を聞きました。本当なのでしょうか?」

「うふふ。それはおとぎ話でございますわ。でもそのような素敵なお話を信じることも、また素敵なことだと思いませんか」

「はい。そう思います。生きている間にぜひ精霊獣を見てみたいものです」

「本当に素敵な殿方だこと。アルマさんのことは私がフレイヤ様にお伝えしておきますわね」

「女王様に! そんな恐れ多い」

「いえいえ。ぜひお話させてください。もしフレイヤ様がアルマさんに興味を持たれたなら、次回は精霊石を直接フレイヤ様にお渡しできるかもしれませんよ」

「精霊石をフレイヤ様に?」

「はい。実はアルマさん達にお渡ししている精霊石には刻印というものがされております。この精霊石を渡したエルミアはフレイヤ様に忠誠を誓うエルフ族の戦士なのです。そしてこの精霊石に刻印したのはフレイヤ様なのですよ」

「そ、そうだったんですか。僕はフレイヤ様の精霊石に精霊力を溜められたんですね」

「はい。この精霊石の輝きに、きっとフレイヤ様も喜んで頂けることでしょう」


 ミラさんは俺のことを気に入ったのは、その後も世間話が続いた。

 ギルドの人からハイエルフは忙しいからあまり無駄話はしてはいけないと言われていたけど、ミラさんの方からあれこれと話を振ってくるのだから仕方ない。

 結局、予定を大幅に超えて俺はミラさんと話し合い、ミラさんは上機嫌で帰路に着いたのであった。





「神獣には反応しなかったよ」

「そうでしたか」


 ミラさんとの話の中で、オーディン王国に伝わる神話の中に出てくる神獣のことを話してみた。

 世界に恩恵を届ける精霊獣はまさに神獣のような存在ですね、と。

 ミラさんの反応は、精霊獣を持ち上げてくれたことに対する喜びだけで、神獣そのものに対しては何の反応もなかった。


「次はもしかしたらフレイヤ様に直接お会いできるかも、だってさ」

「危険ですね」

「僕のことはただの聞き分けの良い魔術師だと思っているだろうから、大丈夫じゃないかな」

「女王フレイヤに会うということは、ハイエルフの区域に入ることになります。ハイエルフは長命だけあって、誰もが強力な能力を持っているはずです」

「確かに。今日会ったミラさんも何かしらの強さを持っているように感じられたよ」

「備えは十分にするべきかと」

「そのつもり。ナナル達も来てくれるよね?」

「もちろんです」

「私も、ティアもいきます!」


 モニカの真似なのか、ティアは自分のことをティアと呼ぼうとするんだよね。

 それも可愛いからいいけど。


「……俺もついていってやるよ」

「ありがとうディア」

「ふん! ぐほっ!」


 もはやお約束のコントみたいになってるぞ。





 その日の夜。

 今日はマリアナ様一人の日だった。

 可愛らしい下着姿のマリアナ様がちょこんとベッドの上に座っている。

 こんな素晴らしい光景を見れる俺は幸せ者だ。

 このあと、もっと幸せになるんですけどね。


「アルマ様」

「はい」

「もし女王フレイヤ様とお会い出来て、でもフレイヤ様も神獣に関して何も知らないようでしたら……私の戦具を孵化させて頂けませんか?」

「そうですね……」


 マリアナ様だけ戦具を授かれない状態が続いている。

 フレイヤ王国に来てここまで、神獣に関する確たる情報は何も得られないままだ。

 マリアナ様を狙っていた……推測だけどこの神獣を狙っていたのではないかと思われるフレイ王国の王フレイなら、何か知っているのかもしれないけど。

 フレイ王国にいって神獣のことを聞き回るのは危険すぎるからね。


「そうしましょう。女王フレイヤ様とお会い出来て、そこでも神獣に関する情報が何も得られなかったら、マリアナ様の戦具を孵化させましょう」

「アルマ様っ!」


 マリアナ様が笑顔いっぱいで抱き着いてきた。


「約束通り、その時は私の戦具にいっぱい魔力をくださいね」

「分かっていますよ。マリアナ様の戦具を進化させるまで、ずっとマリアナ様だけです」

「ずっと私を可愛がりながらですからね」

「はい。その約束も覚えていますよ。アーネス様とモニカも納得していますし」


 マリアナ様の戦具の卵を孵化させても、神獣は消えないかもしれない。

 でも消えるかもしれない。

 分からないことだけど、俺達は絶対的に神獣を必要としているわけではない。

 推測通りフレイ王国が狙っているとしたら、神獣は大きな力になるかもしれないけど、オーディン王国には俺がいる。

 ちょっと生意気な発言だけど、事実だ。

 オーディン王国に戻ったら、多くの騎士を進化させることになるだろう。

 アンナ達はもちろんのこと、俺達がフレイヤ王国に行っている間に、オーディン王国では王家支持派の中からさらなる選抜を進めているはずだ。

 さらには王家支持派ではない者達へも、俺の能力は伏せて、王家支持派への鞍替えの話をしていることだろう。

 騎士として戦具と覚醒をすぐに授ける、という条件で。


 王は別に大陸を支配したいわけじゃないと言っていた。

 ただ大賢者とのパワーバランスにおいて、王家が有利である状況は作りたいと。

 それが国内の、さらには国外に向けても安定に繋がると王は考えている。

 俺も王の考えに賛成だし、アーネス様達の父親である王に協力するのは当然だと思っている。

 俺が生きている間は、オーディン王国において王家の力が圧倒的に強い状況が続くことになるだろう。


 さらには後の世代のためにも、多くの等級魔石を貯蓄しておきたい。

 俺が死んだ後も、王家に多くの等級魔石があれば、騎士を進化させることが出来るから。

 進化した騎士がいれば、また魔石を多く貯蓄できるはずだ。


 オーディン王国に戻って準備を整えたら、あの王家の迷宮の最上級迷宮を攻略するつもりでいる。

 以前はまったく探索できずに逃げ帰ったけど、進化した騎士10人以上のチームを組んで探索すれば、絶対に攻略できるはずだ。

 もちろん探索拠点は鍵の空間。

 俺もついていくことになる。


「オーディン王国に戻ったら、進化したマリアナ様の戦具と一緒に、あの王家の迷宮の最上級迷宮を探索しましょうね」

「はいっ!!」


 これでもかと押し当ててくるマリアナ様の胸の感触を楽しみながら、俺もぎゅっとマリアナ様を抱きしめる。

 今ではアーネス様よりも大きくなったマリアナ様の胸。

 やっぱり胸が大きいと、戦具の卵は大きいんだな。

 それとも戦具の卵が大きいから、胸が大きくなるのか?

 これは永遠の謎かもしれない。

 いまはその謎を解き明かすことではなく、目の前の胸を堪能することに集中しよう。





~フレイヤ王国王都 ハイエルフ居住区 女王の館~


「各地のスヴァルトが姿を消している……醜いスヴァルトが消えてくれるのはありがたいが、理由は把握せねばならん」

「はっ! すぐに各地のスヴァルト区域を調べさせます」

「単にスヴァルトが死んでくれているだけならよい……せっかくなら我が王都のスヴァルトがいなくなってくれれば良かったのだがな」

「王都のスヴァルトは減っていないようです」

「まったく鬱陶しい奴らだ……」


 女王フレイヤに各地のスヴァルトが姿を消しているという報告が上がった。

 理由はもちろんアルマの救いを求めて各地のスヴァルトがここ王都に集まっているからである。

 闇魔法を使えるスヴァルト達はその力を使って闇に紛れて王都のスヴァルト区域に入ってきている。

 そのため、王都に集まっていることをまだフレイヤ達は把握出来ていなかった。


「失礼いたします」

「ミラか。どうした」

「はい。本日、人族の魔術師と会って参りました。フレイヤ様が刻印された精霊石を持ってきたのですが……」


 ミラはアルマのことをフレイヤに話した。


「ほ~そのアルマという人族の魔術師はなかなか見所があるではないか」

「本当にそうなんです。これはぜひフレイヤ様にも見定めて頂く必要があるかと」

「ミラの渡した精霊石に精霊力を溜めることが出来れば、私が会おう」

「アルマさんは大喜びするでしょうね。フレイヤ様にお会いできるかもしれないと話した時のあの顔ったら」

「ふふふ。ミラお前、そのアルマという男を夜に誘うつもりだな?」

「あらあら。フレイヤ様は何でもお見通しですわね。このハイエルフの区域に招待することが出来たら、その時に……と考えておりますわ。でももし、フレイヤ様が気に入られたのなら、どうぞお好きになさってくださいませ」

「人族の男と寝たのはいつだったか……たまには悪くないかもしれないな。ただミラの言う通りの男で気に入り過ぎると……私の『コレクション』にしてしまうかもしれないぞ」

「そうなった時はそれまでですわ。残念ですけど、私は諦めるだけです」

「戦士が一人いると言っていたな」

「はい。モニカという太った人族の女でしたわ」

「アルマを招くことがあれば、その女も招いておけ。アルマを私のコレクションにする時は……」

「はい。始末しておきます」

「オーディン王国とは友好関係を続けていくが、魔術師と戦士が一人いなくなっても不思議に思うまい。迷宮で死ぬなどよくある話だからな」


 ニヤリと笑う女王フレイヤの首には、眩いばかりの黄金の光りを放つ首飾りが輝いていた。



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