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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第二章
35/89

第35話

「ん……ここは……」

「あ、おはようございます」


 昼前にティアさんは起きた。

 よほど疲れていたのだろう。

 ティアさんが自然と起きるまで待っていたらこの時間になったのだ。


「アルマさん?」

「はいアルマです。昨日のこと覚えていますか?」

「昨日、私は……はっ! ディアを、ディアを助けにいかないと!」

「ティアさん落ち着いて。僕達も力を貸しますから。一緒にディアさんを助けましょう」

「ディアが、ディアが……ああ、お願いします。精霊力が、精霊力が必要なんです」

「分かりました。精霊力を一緒に集めましょう」


 昨日のことを思い出した途端、ティアさんはまた異常な状態になってしまった。


「落ち着いたら一緒に迷宮に行って精霊力を集めましょう」

「すぐに、すぐにお願いします!」


 このままではまた倒れてしまう。

 とりあえず何か食べさせないと。


「昨日のように気を失ってはいけません。少し何か食べてから行きましょう」

「いりません。すぐに迷宮へ」

「だめですよ。また倒れたいのですか? それではディアさんを助けにいけませんよ」

「それは……」

「さぁ、消化に良い食事を用意してもらいますから。まずはご飯を食べましょう」


 どうにかこうにかして、ティアさんにご飯を食べてもらった。

 すぐに迷宮に行きたがっていたけど、相当お腹は空いていたのか、ご飯を食べ始めるともぐもぐと食べてくれた。


「ティアさんは他に精霊石を持っているのですか?」

「はい。あ……精霊石……私の部屋に……」

「ティアさんの部屋とはスヴァルト区域に?」

「う、うう……」


 突然泣き出してしまった。


「私……私もうあそこには……」

「ティアさん落ち着いて。大丈夫ですよ」

「ディア……ディア……」


 精神状態はよくないままだ。

 あまり何か考えさせないで、迷宮に行った方がよさそうだな。


「とりあえず迷宮に行きましょう。僕の精霊石に精霊力を溜めましょう」


 そこで小声で囁く。


「昨日の秘密のこと覚えています? 僕の精霊石に精霊力を溜めれば、ティアさんの精霊石にまた精霊力を移せますから」

「はっ!」


 覚えていなかったのか?

 急に思い出したようにすごいびっくり顔になったぞ。


「あの……どうしてアルマさんは……精霊力を……その……」

「ま~詳細は秘密なんですけど。絶対に秘密でお願いしますね」

「それは、はい……」


 じっとティアさんが俺の顔を見ている。

 精霊力を移したことが珍しいんだろうな。

 この鍵の魔具でなければ、出来ないだろうし。


「では迷宮に向かいましょう」

「は、はい」





 上級迷宮にやってきた。

 寝てご飯を食べたことでティアさんの体力は少し回復したようだ。

 昨日は靴を履いていなかったので、モニカに靴を買って来てもらった。

 モニカが倒した霊物の精霊力を俺の精霊石にどんどん溜めていった。

 アーネス様とマリアナ様がいないのであまり奥にはいけない。

 入口から近い場所を右に左へと探索している。


「ティアさん答えられないことは何も答えて頂かなくていいので、僕の独り言だと思って聞いてください。もし答えても大丈夫なことは話してもらえると助かります」

「……はい」


 少し落ち着いたところで本題に入った。


「ここに来て僕が感じたことですけど、エルフ族の方達は何かを話してはいけないことがあると思っています。おそらく、それは精霊力に関すること。また世界樹に関することだと思っています」

「……」

「ここに来て最初、中級迷宮に行きました。そこでは多くのエルフ族の方達が必死に精霊力を集めていました。みんな世界樹に精霊力を捧げるためにこんなにも必死なんだと驚きました」

「……」

「その後にこの上級迷宮にきてティアさんとディアさんに会ったわけですが……僕の想像ですけど、精霊力を世界樹に捧げることで何らかの見返り的な何かを得られるのでは? と思っています。ティアさんはディアさんを救おうと動いていました。つまり精霊力を世界樹に捧げることでディアさんが救われるということです。でもそれが上手くいかなかった。もっと精霊力を捧げなければいけなくて、僕のところに来たんですね」

「……」

「ティアさんがこうして何も答えられないこと。それは何か魔法契約のような制約がティアさんにかかっているのではないか? と考えています。もしそうなら……仮にですけど、その制約を解除できるとしたら、ティアさんは解除したいですか?」

「えっ!?」


 ティアさんの反応があった。

 反応したことそのものが、制約があることを伝えてしまうんだけど。

 まぁ俺は見て知っているけど。


「制約が仮に解除されたらどうなるのか。ティアさんも分からないですよね。だって制約が解除されることなんて本来はあり得ないことのはずですから」

「…………」

「制約が解除されると……例えば授かれるものも授かれなくなってしまうとか? そんなリスクがあるかもしれませんよね」

「…………」

「ここまでが僕の独り言です。探索に集中しますね」


 伝えることを伝えて、探索に集中することでティアさんから意識を離す。

 ティアさんがよく考えられるように。

 解除した時のリスクは本当に分からないんだ。

 そのリスクを冒してでも、解除に意味があるのか。

 それは俺には分からない。

 ティアさんが決めることだ。


 しばらく探索を続けて見つけた霊物をモニカが倒した。

 その精霊力を精霊石に溜める。

 さすがに1日で一杯にはならないか。

 奥で探索できればもっと効率いいんだけど。


「解除……本当にできますか?」


 ティアさんが呟くように言った。

 決心が着いたのか。


「出来ます」


 真っすぐティアさんの目を見て言った。


「お願いします! 解除してください。私を……解放してください」

「分かりました」


 心は不安で一杯だろう。

 今にも泣きそうな目をしている。

 ゆっくりティアさんに近づいて、可愛らしい頭の上に手を優しく置いた。


「解除に必要な力がいま足りるか分かりませんが、やってみます。足りなくても力を集めれば絶対にできます。ティアさんの精霊石を借りてもいいですか? その精霊力も使いたいので。もちろん後でちゃんと溜めますから」

「は、はい」


 淡く光るティアさんの精霊石を受け取る。


「ではゆっくり目を閉じて」

「はい」


 ティアさんから受け取った精霊石の精霊力を鍵の魔具で吸収する。

 さらに今までの探索で溜めた自分の精霊石からも精霊力を吸収した。

 そして鍵の魔具の中に溜まった精霊力をティアさんに与えていった。


「はっ! こ、これは……」


 昨日は寝ていたから何も反応が無かったけど、精霊力が体の中に入ると何か感じるのだろう。


「温かい……それに気持ち良い」


 おかしいな、気持ち良くする能力は俺には無いはずだが。


「ご主人様の力は気持ち良いっしょ」


 別に俺じゃなくてもそう感じるだけだ。

 きっとそうだ。

 俺の魔具に……そんな能力は……あるかもしれないけど、ないことにしよう。



ティア

制約:スキールニルの契約(解除:1000/1000)

0/100:精霊術『治癒』

0/100:精霊術『結界』

0/500:精霊具『白法衣』

0/1000:イズンのリンゴ

0/10000:種



 精霊力がもう無くなる! というところで、どうにか解除に必要な1000までいってくれた。


「ああっ!!」


 するとティアさんの体が光り輝き始めた。

 まるで戦具の卵が孵化する時のようだ。


「え?」


 眩い光りに包まれたティアさんを、同じく光り輝く半透明な美しいエルフが抱きしめた?

 一瞬だけど、俺にはそう見えた。

 なんだ?


「本当に……制約が解除された……」

「どうですか?」

「解除されています。エルフ族が生まれながら刻まれる契約の制約が」

「今まで話せなかったことが話せるということですね?」

「はい。大丈夫です。話そうとしても制約によって止められないのが分かります」


 スキールニルの契約という制約は、やはりエルフ族が何かを喋ることを制限していたのか。


「アルマさん……いえ、アルマ様。ありがとうございます。私は制約から解放された、おそらく初めてのエルフになりました」

「ティアさんにとって、制約が解除されて解放されることが良かったとしたら、僕も嬉しいです。それに……」



ティア

0/100:精霊術『治癒』

0/100:精霊術『結界』

0/500:精霊具『白法衣』

0/1000:イズンのリンゴ

0/10000:種



「ティアさんが授かれるものはそのままのようですし」

「あの……アルマ様は何をご存知なのですか?」

「エルフ族の強さの秘密ですかね。エルフ族の方は精霊術や精霊具を授かって強くなるんじゃないですか? おそらく世界樹から」

「その通りです。でもどうしてそれをご存知なのですか? 私はいま制約から解放されたので、アルマ様にお伝えすることができますが……あっ、私の他に制約を解除したエルフから聞いたのですか?」

「いいえ。僕が制約を解除したのはティアさんが初めてです」

「なら、どうして?」

「僕のちょっとした能力です。ティアさんが授かれる精霊術や精霊具が分かるんですよ」

「そんなこと……本当にですか?」

「はい。本当です。ティアさんは精霊術『治癒』と精霊術『結界』を授かれるみたいですよ。それに精霊具『白法衣』ですね」

「私は治癒と結界の……それに法衣まで……。でもそれは授かれません」

「え? どうしてですか?」

「制約から解放された私は、世界樹から祝福を受けることが出来ないからです」

「世界樹から祝福?」

「はい。エルフ族は精霊石に溜めた精霊力を『ウルズの泉』と呼ばれる世界樹の大きな根が伸びている泉で捧げることができます。その時に捧げた精霊力に応じて、祝福を受けます。祝福を受ける時に稀に精霊術や精霊具を授かることができるのです。でも、これは制約の褒美と言われています」

「言われているだけで、分からないのでしょ?」

「それは……ディアが、ディアが祝福を受けられない以上、本当のことなんだと思います」

「ん? ディアさんが?」


 ここでディアさんに繋がるのか。


「はい。スヴァルトは世界樹の祝福を受けられないとされています。制約を受けていないからです」

「え? スヴァルトは制約を受けていない?」

「はい。スヴァルトは生まれた時に制約を刻まれません。そのため世界樹に精霊力を捧げても祝福を受けられないとされていて……でも絶対じゃないとも……だから私はディアを助けたくて」

「祝福を受けないとディアさんはどうなってしまうのですか?」

「ディアは……スヴァルトは本来持つはずのない魔力を持ったエルフなんです」

「えっ!? 魔力!?」

「はい。スヴァルトは体内に魔力を持っています。でも成長していくと体内にある魔力を制御できなくなって……死んでしまいます」

「そんなことが……」

「制約を受けないスヴァルトも制約を守っていれば、世界樹の祝福を受けられることがある……祝福を受けられたスヴァルトは普通のエルフに戻れると。私はその言葉を信じて、ディアを救いたくて」


 ディアさんを捕まえようとしたモニカの目の前から一瞬でディアさんが消えたあれは、やっぱり魔法なのか。

 体内に魔力を持つから魔法が使えるのかもしれない。


「ディアさんは魔力を持っているから、魔法のようなものを使えたのですね」

「はい。あれは『闇の精霊術』と呼ばれています。スヴァルトは制約を受けず世界樹から祝福を受けられない代わりに、産まれた時から闇の精霊術を必ず1つは持っているそうです」

「なるほど……制約を受けないスヴァルトは世界樹から祝福を受けることができないから、制約から解放されたティアさんも世界樹から祝福を受けることができないと」

「はい。その通りです」


 世界樹から祝福を受けることが出来ないなら、俺が精霊力を与えたら?


「ティアさんもう一度、ゆっくり目を閉じてもらえますか?」

「は、はい」


 目を閉じたティアさんに鍵の魔具で少しだけ残った精霊力を与えてみた。


「はぅ」


 いや、だからその気持ちよさそうな声は……可愛いんだけど。



ティア

30/100:精霊術『治癒』

0/100:精霊術『結界』

0/500:精霊具『白法衣』

0/1000:イズンのリンゴ

0/10000:種



 増えたね。

 大丈夫だ、俺が精霊力を与えても問題なく精霊術や精霊具を授かれるだろう。


「ティアさん。僕がティアさんに与えます」

「え? アルマ様が?」

「はい。僕がティアさんに精霊力を与えます。それで精霊術や精霊具を授かれるはずです」

「ほ、本当ですか!?」

「はい。本当です」

「ご主人様なら当然っしょ」


 こうなったらティアさんの問題を全部解決するしかない。

 神獣の件はその後だ。

 ティアさんから絶対的な信頼を得られれば、神獣のことだって協力してくれるかもしれない。

 そのためには、俺の鍵の魔具でスヴァルトを救えるかどうかだな。


「それにディアさんのことも。これはまだ分かりませんが。僕の力でディアさんも救えるかもしれません。だから一緒に頑張りましょう」

「は、はい! お願いします! 私……アルマ様の仲間、いえ、部下? いえ、奴隷でも構いません! ディアを助けてくれるならっ!」

「ティアさんを奴隷にはしませんよ。そうですね……では僕は魔術師ですから、ティアさんは僕の戦士になってくれますか? これでどうでしょう」

「はい! はい! 私、アルマ様の戦士になります!」


 希望の光に見えたことで、ティアさんの顔は本当に明るくなった。

 もう虚ろな目じゃない。


「では僕の戦士になったティアさんに紹介したい場所と人がいます」

「場所と人?」

「はい。こちらです」

「え? へ? ええええっ!!!???」


 鍵の空間を開けた。

 可愛らしい顔がびっくり仰天していて面白い。


「ようこそティアさん。僕達の拠点へ」


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