第32話
エルフ族の双子の姉妹ティアとディア。
彼女らと一緒に上級迷宮を探索することになった。
道中の魔物はモニカが倒す。
霊物が現れたらモニカが弱らしてディアの弓で仕留める。
その精霊力はティアが持つ精霊石に溜めていった。
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。ティアさん達の助けになれて嬉しいです」
余計なことは聞かず探索を黙々と進めていくと、ティアさんの方からぽつぽつと喋り出してくれた。
「私達……双子の捨て子なんです」
「そうでしたか」
「おい、ティア」
「アルマさんはスヴァルトのことご存知です?」
「泊まっている宿の女将さんに聞きました。昨日ディアさんを見て、ちょっと驚いたので」
「ごく稀に黒い肌を持って産まれてくるエルフ族はスヴァルトと呼ばれて、エルフ族の中で忌み嫌われています。ダークエルフなんて呼ぶ人もいます」
「宿の女将さんは、スヴァルトは乱暴で凶悪と言ってましたけど、ディアさんと見る限り……そんなに凶悪には見えないですね……ちょっと口の悪い子って感じです」
「なんだとっ!」
「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」
「実際スヴァルトと呼ばれるエルフの方達は、肌の白いエルフと何か違うのですか?」
「決してスヴァルトは乱暴だったり凶悪だったりしません。みんなから忌み嫌われてしまう中で、他人を信頼できなくなっているだけで……」
「けっ。呪われているじゃねぇか」
呪われている?
「ディアさんは呪われているの?」
「ああ。俺は呪われている」
「そうは見えないけど……」
「お前達人族には分からないだけだ」
「ディア……諦めないで。絶対に大丈夫よ」
「よかったら話してくれませんか? お力になれることがあるかもしれませんし」
「そ、その……話すことは出来ないんです。でもこうして精霊力を譲って頂けていることで本当に助かっています」
「俺が話してやろうか?」
「だめよっ!」
ディアさんが何かを話そうとするとティアさんが強くそれを止めた。
話すことは出来ない。
話してはいけない。
話すとどうなるんだ?
「無理にお話して頂かなくて大丈夫です。こうしてティアさんの精霊石に精霊力を溜めていけば、それがお二人のためになるんですよね?」
「はい。本当に本当にありがとうございます」
「いえいえ。ではその精霊石が一杯になるように頑張りましょう」
それ以上は聞かず、その日は上級迷宮を1日探索した。
鍵の空間を出すことは出来ないので、日帰りの距離での探索とあってそれほど奥に進むこともない。
危険を冒すことなく、探索を無事に終えて迷宮から出た。
「よかったらまた明日も一緒にどうですか?」
「あ、ありがとうございます! ほら、ディアも」
「……チッ。よろしく頼むわ」
「それじゃ、また明日ここで」
二人と別れると、俺達も宿に戻った。
女将さんにまた4人分の食事をお願いする。
ティアさんとディアさんは双子の捨て子。
おそらくスヴァルトとして産まれてきたディアさんと一緒に、双子のティアさんも捨てられてしまったのだろう。
二人が精霊力を集めているのは、ディアさんのためのように思える。
ただなぜ精霊力を集めているのか、話してはいけないという感じだ。
そういえば、今まで会ったエルフの人達も、精霊力をどうしているのかはっきりと言う人はいなかった。
生活のためとか、世界樹が世界に恩恵を与えるためとか、ぼやかした答えばかりだ。
具体的に精霊力をどうしているのか、答えてしまうと何か不利益があるのか?
「何らかの制約をかけられているかもしれませんね」
アーネス様の見解だ。
魔法契約のようなもので答えてはいけないと制約されている。
確かにそれだと答えた瞬間に、最悪は死の恐れがある。
そのような魔法契約となっているなら。
「でもディアちゃんは答えようとしたっしょ」
「ティアさんが強く止めていたけどね。答えられないってわけじゃないのかな?」
まだティアさん達と会って二日目だ。
明日以降も一緒に探索するなら、少しずつ何か分かってくるかもしれない。
「お風呂いくっしょ」
「そうだな」
「私は寝室でお待ちしていますね」
今日のお風呂当番はアーネス様とモニカか。
一緒に寝るのはマリアナ様だね。
翌日。
「おはよう。今日もよろしくね」
「よろしくお願いします」
「……よろしく」
上級迷宮の前で待っていたティアさん、ディアさんと合流して、今日も上級迷宮を探索する。
にこにこ笑顔のティアさんは昨日より仲良くなれているような気がする。
ディアさんはあいかわらずぶっきらぼうな態度だけど。
「モニカさんはとてもお強いですね」
「ご主人様のおかげっしょ」
「あっ? それもしかして戦具なのか? ならお前が強いんじゃなくて、戦具のおかげだろ」
「ちょっとディアっ!」
「その通りっしょ。ご主人様が授けてくれた戦具のおかげっしょ。ご主人様は偉大っしょ」
「あんまり持ち上げないでね、モニカ」
順調に探索は進む。
霊物にもそこそこ遭遇できることから、やっぱりオーディン王国より霊物が多いと分かる。
ティアさんの持つ精霊石にどんどん精霊力が溜まり、そしてそろそろ帰ろうとかとしたその時、精霊石は淡く光り輝いた。
「あ、一杯になったかな」
「すごい! 精霊石に精霊力が一杯になるなんて……初めて見ました!」
「本当に光るんだな」
エルフ族のティアさん達も見たことないのか。
もしかして精霊石に精霊力が一杯になるのって珍しいのかな?
オーディン王国の上級迷宮の最奥で探索しまくっていたから、そこで遭遇した霊物の精霊力は高かったのだろう。
「よかったですね。一杯になったので戻りましょうか」
「はい!」
ちょうど戻る頃の時間だったので、そのまま出口に向かう。
帰り道も問題なく魔物を倒しながら出口に着いた。
外に出るとティアさんは何度も何度も頭を下げて礼を言ってきた。
「ありがとうございます。この恩は一生忘れません!」
「いえいえ。困った時はお互い様ということで。今度僕達が何か困ったことがあったら、力になってください。あ、僕達は新緑の宿に泊まっていますから、逆に困ったことがあったら、ぜひ訪ねてきてください」
「はい! ぜひ!」
「チッ……仕方ねぇから助けてやるよ」
二人と別れて宿に戻る。
僕達が歩き始めたその後ろでティアさんの小さな声が聞こえた。
「これでディアを……」
翌日。
俺達は上級迷宮に来ていた。
ティアさん達はいない。
俺達は俺達の目的があったので、今日はそのために来ている。
「さて、行こうか」
「了解っしょ!」
金剛を発動させる。
進化した戦具を纏い、モニカが駆ける。
俺は置いていかれないように走っていく。
モニカは俺のことをちゃんと見ているから置いていかれることなんてないんだけどね。
ある程度奥に進んだところで、アーネス様とマリアナ様にも鍵の空間から出てきてもらう。
「久しぶりに身体を動かせますね」
「アルマ様の空間は居心地が良すぎて、油断していると太ってしまいますわ」
アーネス様も戦乙女を発動。
マリアナ様はミスリルの鞭を持つ。
「では最奥を目指して行きましょうか」
『はいっ!』
この上級迷宮の構造は森林だ。
迷宮によくある構造の一つで、木に隠れた魔物が突然襲ってきたりする。
でも空を飛ばれるとは魔物も思っていないだろう。
光り輝く翼で迷宮の空を飛ぶアーネス様。
魔物達も上空のアーネス様に意識を向けてしまい、隠していた気配を察知させてしまう。
おかげでマリアナ様とモニカは難なく魔物を見つけて倒していく。
もちろん上空からアーネス様も魔物目掛けて急降下して攻撃している。
オーディン王国で上級迷宮の最奥部での探索をしていたこともあって、魔物の強さに関しては慣れたものだ。
油断はならないけど、常に覚醒状態である進化戦具を持つ二人がいるのだから、余裕を持って探索を進められる。
二人の活躍を見るたびにマリアナ様は早く戦具を欲しがるけど、もう少し我慢してもらわないと。
マリアナ様の戦具の孵化のためにも、神獣に繋がる精霊獣の情報が欲しい。
そのためにも、この精霊石の精霊力を一杯にしてハイエルフと接触だな。
霊物との遭遇が多いことから、最奥部まで行かずともかなりの精霊力を稼ぐことができた。
やはり奥に行けば行くほど、霊物の出現率は高まるようだ。
ティアさん達と探索していた入口付近でもそれなりに遭遇していたのに、奥に行くとさらに遭遇率が上がった。
とは言っても、やはり通常の魔物の方が圧倒的に多いんだけどね。
宿の女将さん達に話を聞いても、エルフ族が精霊力を集めるのはほとんどが中級迷宮だそうだ。
上級迷宮は魔物が強すぎて、命の危険を考えて避ける。
ただハイエルフは上級迷宮を探索するとか。
エルフとハイエルフの違いを聞けば、エルフの中でも世界樹に選ばれた王族の血を引く者達がハイエルフらしい。
人族でいう平民と貴族王族の違いなのだろう。
宿には泊りでの迷宮探索をすると伝えてある。
一応カモフラージュ的にモニカが野営道具の入ったリュックを持って出てきたけど、たったあれだけの荷物で何日も迷宮に籠るのはおかしいと思うかな。
まぁ、適当に誤魔化しておこう。
5日間ほど迷宮の中で探索を続けた。
何度か精霊石に精霊力が一杯になったので、それをマリアナ様の戦具の卵に与えていった。
マリアナ様
9990/10000:戦具
8540/10000:神獣
良い感じだ。
水と食料、それにお湯の余裕はまだまだあるけど、ここら辺で一度戻って補給しておこう。
戻りがてら精霊石に精霊力を一杯にして一度ハイエルフに会ってみてもいいかもしれないな。
「ご主人様の精霊石とティアちゃん達の精霊石は違うっしょ?」
「ん? そうなの?」
「ご主人様の精霊石の方がたくさん精霊力が溜まるっしょ」
「う~ん……確かにそうかもしれないね。ティアさん達の方が早く精霊力が一杯になったかも。そもそもこの精霊石って何なんだろうね?」
「精霊石は世界樹の根が張る土の中にある石と言われています。大きさによって溜められる精霊力が違うのでは?」
「確かにアルマ様のは大きいですもんね」
「ご主人様は大きいっしょ」
「それは間違いないですね」
やめなさい。
違う意味になってるから。
迷宮の出口付近に近づいてきたので、アーネス様とマリアナ様には鍵の空間に入ってもらう。
モニカも戦具の金剛を解いて通常形態に。
外に出たら戦具をしまって銅の斧だ。
まぁ、ティアさん達に見られちゃってるけどね。
エルフ族にとって戦具を持つ戦士が珍しいのかどうかも分からないけど。
無事に迷宮の外に出た。
陽が沈みかけている頃だ。
今日は宿に戻って休んで、明日にでもギルドに顔を出そう……と思っていたら、迷宮を出たすぐのところに一人のエルフの女の子が立っていた。
ティアさんだ。
「アルマさん!」
何かあったようだ




