第3話
この世界で男は魔具を授かり賢者となる……落ちこぼれは魔術師になる。
では女は?
女は戦具を授かり騎士となる。
賢者学院の入学式があった日に、騎士学院の入学式もあった。
そこで事前に戦具の才能があると認められた女の子達は、戦具の儀を受けている。
俺達と同じように卵を授かっているのだ。
この世界でも男と女だと基本的に男の方が強い。
筋力的な意味で。
城の兵士とかは男がなる。
でも戦具を持つ女は違ってくる。
彼女達の戦闘能力は男を遥かに凌ぐ。
そしてこの世界で魔物と戦うのは主に戦具を持つ女なのだ。
戦具の卵も孵化しないと中の戦具を使うことはできないのだが、孵化する前でも卵の中の戦具がどのような武具なのか分かるそうだ。
剣とか弓とか、盾や鎧という場合もある。
騎士学院に入学した女の子達は、自分の戦具と同じ種類の武具について学び鍛錬していく。
戦具を授かった女は、戦具だけではなく身体能力も男より遥かに高くなる。
そのため、戦具でなくても通常の武器を持って戦っても強いのだ。
騎士候補生となった彼女達にとって、まずは戦具の卵を孵化させることが重要となってくる。
一度孵化してしまえば、以後は戦具を自分の装備として使えるから。
ただこの孵化が問題となってくる。
戦具の卵の孵化にも魔力が必要となる。
この世界で魔力は男しか持たない。
女は魔力を一切持たない。
つまりどういうことか。
戦具の卵を孵化させるのは、賢者なのだ。
さらに彼女達にとって厄介なのが、一度卵に魔力を与えて登録されると、その者の魔力でないと孵化出来なくなる。
正確には一度魔力を受けた卵でも別の魔力を多く注いで以前の魔力を消し去れば、新たな魔力での孵化も可能なのだが、一度登録された魔力を消し去るにはとんでもない魔力が必要とされるため、実際にされることはない。
そして孵化して現れた戦具は、そのまま使っても非常に強力な武具だけど、さらに魔力を与えて『覚醒』可能な状態とすることで真価を発揮する。
使用者が戦具に溜まった魔力を開放して戦具を覚醒させると、とんでもない威力を発揮してくれるそうだ。
この覚醒のための魔力も、もちろん孵化の際に登録された魔力でないといけない。
また戦具の性能を保つにも魔力が必要とされる。
孵化だけしてもらった後に、覚醒を諦めて魔力を与えずに戦具だけを使い続けていくと、いずれ戦具の性能は落ちていってしまうというわけだ。
このため賢者と騎士の間には主従関係が存在する。
賢者が主であり、騎士が従。
騎士は賢者に忠誠を誓い従うことになる。
一度登録された魔力以外では、戦具の卵を孵化させることも、その性能を維持することも、そして覚醒させることも出来ないのだから。
この事実だけでも、賢者がどれだけ有利な立場なのか分かる。
騎士は一人の賢者しか選べない。
しかし賢者は違う。
複数の騎士を従えている賢者なんて当たり前だ。
そしてその中から誰に魔力を与えるかは、賢者に選択権があるのだ。
騎士となる彼女達も必死だ。
自分に少しでも多くの魔力を与えてくれる賢者を探す。
賢者を選ぶ最大の基準は、やはり魔具による魔力増幅効果となる。
魔力増幅効果の高い賢者は、1の魔力で戦具に4や5などの魔力を与えることが可能だ。
少しでも魔力増幅効果の高い魔具を持つ賢者の方が、自分に魔力を与えてくれると思うのも自然だろう。
そして、騎士候補生となる彼女達の数は、賢者候補生の男よりもずっと多い。
今年の賢者学院1年生が俺を含めて10人なのに対して、騎士学院1年生は54人。
5倍も多いのだ。
もちろん全員が騎士になれるわけではない。
男が賢者資格を失って強制卒業で魔術師になるように、女も騎士資格を失う者達がいる。
騎士資格を失う条件は、20歳までに賢者から騎士として選ばれなかった者だ。
選択権は賢者にある。
魔具の卵が孵化して手に入れた魔具の魔力増幅効果が2倍以上なら、晴れて賢者となる。
すると、自らの騎士を選ぶことができる。
何人の騎士と主従関係を結んでもいい。
騎士が納得したのなら。
とはいえ、ものには限度がある。
魔力増幅効果が2倍ぎりぎりの賢者ですでに騎士を何人か抱えていたら、あえてその賢者と主従関係を結ぼうと考える者は少ない。
逆に魔力増幅効果が5倍、6倍、7倍ともなれば、数人の騎士と主従関係を結んでいようが、まだまだ騎士候補生からのラブコールは続くだろう。
こうして20歳までに主となる賢者に選ばれなかった者は、騎士資格を失い『戦士』となる。
魔術師と同じで戦士は冒険者ギルドに登録して活動することが多い。
迷宮の中でも弱い魔物が多く生息する迷宮で狩りを行い、小さな魔石を集めて稼いで暮らすのだ。
賢者が魔力吸収できない小さな魔石でも、その魔石を集めてエネルギーとして動く魔道具がある。
これらの魔道具の多くは生活魔道具であり、庶民の生活に欠かせないものだ。
そのエネルギー源の確保のために冒険者達は迷宮で魔物を狩ることになる。
さて、どのような騎士候補生が賢者に選ばれやすいのか?
第一に戦具の卵の大きさが重要となる。
魔具の卵がそうであるように、戦具の卵も大きければ大きいほど、孵化のために必要な魔力が多くなると言われている。
そして孵化した後の、性能維持や覚醒のために必要となる魔力も多くなる。
ただし、大きな戦具の卵ほど性能の高い戦具が現れるともいわれている。
このためあまりに小さな戦具の卵は人気がない。
なぜなら騎士には賢者のために迷宮の奥深くで強力な魔物を狩って、魔石を持ってきてもらう必要があるからだ。
あまりに弱い戦具では、魔物を狩ることができない。
そして逆に大きすぎる戦具の卵も人気がない。
孵化のため、その後維持、いざという時の覚醒、これらのためにかかる魔力が多すぎるからだ。
いくら強力でも賢者の魔石魔力がマイナスになるようなごく潰しはいらない。
つまり人気はほどよい大きさの戦具の卵となる。
賢者に選ばれる基準の第一は戦具の卵の大きさだ。
これは間違いない。
では第ニは?
それは賢者によって変わってくる。
真面目な賢者なら、その騎士候補生の身体能力や武器の扱いの熟練度といったものに目を向けるだろう。
しかしそれは少数派だ。
ほとんどの者は……彼女達の見た目に目を向けることになる。
賢者と騎士、つまり男と女である。
しかも騎士は賢者に絶対的な忠誠を誓う。
恋仲になることも多ければ、愛人のような関係になる者も多い。
むしろ騎士側も多くの魔力を与えてもらえるように、積極的に賢者に気に入られようと誘惑する者も多いのだ。
残念ながら騎士学院にどんな騎士候補生がいるのか、俺達は分からない。
最初の顔合わせは2年後。
学院3年生になった時に、騎士学院の騎士候補生と会うことになる。
可愛い子いるかな~と考えてしまうのは、男なら仕方のないことだ。
俺が騎士候補生からラブコールを受けることが出来るかどうかは、この大きな卵が孵化した時に現れる魔具次第となる。
頼むぜ相棒!
ちなみに、騎士の資格喪失には自主的な退学もある。
自分は賢者に選ばれないと見切りをつけた時点で、学院を退学することが認められているのだ。
男の場合は一応『卒業』ということにしてくれるのに対して、女の場合は『自主退学』となっていることに、ここでも賢者側の有利性を感じたものだ。