第26話
オーディン王国王城。
アーネスは父である王と二人きりで会っていた。
大事な話があると人払いをお願いしたのだ。
「モードルの件か?」
「いえ、違います。関連はしますがまったく別の話となります」
「ほ~なんだ?」
「私の賢者を変えます」
「む……どういうことだ?」
すでにアーネスの戦具の卵はモードルの魔力を受けている。
今さら己の賢者を変えることなど出来ない。
正確には一度魔力を登録された戦具の卵に、他の賢者の魔力を受け入れさせるためには膨大な魔力を消費しなくてはいけないからだ。
絶対ではないにしても、貴重な魔力をそう簡単に注げるものではない。
「アルマ殿を私の賢者にします」
「アルマ……確か学院で期待しておった者だな。賢者の資格を失ったと聞いておったが」
「はい。ですがアルマ殿の魔具の真の力を聞いてきました。それは……」
「信じ難いな」
「鍵の空間に関してはすぐにでもご覧に頂けます。戦具に10倍の魔力増幅効果を発揮することは信じて頂くしかありません。ですが、一月以内に私の戦具の卵に登録されたモードル殿の魔力を消し去り、さらには私の戦具を孵化させてみせます。それで父上には信じて頂ければと」
「ふむ……基礎魔力が上がるという話が仮に本当だったとしても、確かにそれだけのことを成すには10倍とは言わんが、1倍の魔力増幅効果では難しいだろう。わかった、よかろう。一月以内にアーネスの戦具を孵化させることが出来たなら、私はいまの話を信じよう」
「ありがとうございます」
「モードルはどうするのだ?」
「仕事はしてもらいましたので、報酬の魔石は渡します。アルマ殿の魔力が登録され次第、モードル殿の騎士を辞めることを淡々と伝えるつもりです」
「王家支持派とはならぬじゃろうな」
「申し訳ありません。言い訳となってしまいますが、モードル殿は初めから王家支持派となる性質ではありませんでした。6倍という魔量増幅効果に魅かれた私が誤りました」
「仕方あるまい。6倍など早々現れぬからな」
「マリアナについてもお伝えしたいことがあります」
「分かったのか?」
「はい。無事に元気に過ごしております」
「そうか……そうか……」
可愛い娘が無事と知り王も安堵する。
「居場所に関してはしばらく私の中で留めて頂ければ」
「よい」
「フレイ王国の動きは?」
「変わらんな。マリアナの代わりにマリアナに優るとも劣らない女性を勧めてみたが、まったく相手にしなかった。やはり何か裏がありそうじゃ」
「その件に関しても、実は少し気になる情報を得ました。それを調べるために、近々フレイヤ王国に行きたいと思っております」
「ほ~……よいじゃろう。任せよう」
「はっ! ありがとうございます」
「何か必要なものがあれば用意させよう」
アーネスは一瞬迷うも言った。
「王家の貯蓄魔石から8等級の魔石全てをお借り出来ないでしょうか」
「む? 借りるとはどういうことだ?」
「フィリップ様が魔力を消費され、また先日私のために10等級、9等級の魔石を頂き、現在王家が貯蓄する魔石は多くありません。ですがアルマ殿の真の力を発揮するためには、魔石が必要です。アルマ殿から戦具を孵化させて頂いた後、『王家の迷宮』にてお借りした8等級の魔石を集めお返ししたいと思います」
「ふむ……よいだろう」
「ありがとうございます!」
こうしてアーネスは王家が貯蓄する8等級の魔石500個を全て借りたのであった。
~オーディン王国王都白銀の宿~
「これまたすごい……」
「全て借りたものですので、返す必要がありますが」
「任せてください。絶対に王家に返します!」
「アルマ様を信じております」
アーネス様にアルマ様と呼ばれるのは慣れないな。
しかも……。
「早くアルマ様を『ご主人様』とお呼びしたいです。モニカが羨ましいです」
「私も! アルマ様をご主人様と呼びた~い! お姉様! 誰もいないなら呼んでいいのでは!?」
「そうね。でもご主人様って呼ぶ癖がついちゃったら……それはそれでいいのかもしれないけど、一応私達は王女だから。きちんと手順を踏まないといけないわ」
「はぅ」
「二人とも面倒な立場っしょ。その点モニカは違うっしょ。モニカはご主人様って呼べるっしょ! 早くご主人様の子供が欲しいっしょ!」
「モニカ、しばらくはだめだぞ。それにアルマ様の子を最初に産むのは私だ。学院で決めた通りの約束でいくと決めたではないか」
「わかってるっしょ」
「私も早くアルマ様の子供が欲しいですわ~」
とんでもない会話が繰り広げられている。
アーネス様を俺の戦士にすると決めた日、アーネス様を女にした。
最初は二人きりがいいということで、二人で寝室にいった。
その後にモニカが乱入してきて、最後にマリアナ様も乱入で、結局最後は3人を相手することになって、めっちゃ疲れた。
それからアーネス様は俺のことをアルマ様と呼ぶようになった。
さらに騎士学院の頃に、俺の嫁順を3人で話して決めていたとか。
正妻がアーネス様。
側室がマリアナ様。
愛人がモニカ。
モニカの愛人というがよく分からないが、とりあえずこういう順番だったらしい。
俺が賢者の資格を失ったことで、この取り決めは無くなったはずなのだが、こうして再び4人で集まれたので、この取り決めが再復活したそうな。
3人とも美女でスタイル良くて胸もでかい。
まさに絵に描いたようなハーレム状態だ。
でも実際は3人同時に相手すると本当に疲れる。
魔力回復に支障をきたすほど疲れる。
だから順番を決めることにした。
1:アーネス様の日
2:マリアナ様の日
3:モニカの日
4:休息日
5:アーネス様とマリアナの日
6:マリアナ様とモニカの日
7:アーネス様とモニカの日
8:休息日
こんな感じになった。
さすがに3人同時に相手は疲れるので勘弁してもらいました。
2人の日に誰かが乱入してきたら3人になっちゃうんだけどね……。
アーネス様が王家から借りてきた8等級の魔石。
ちなみに先日、モニカが覚醒して倒したロードゾンビナイトの魔石が7等級。
取り巻きの魔石は9等級だった。
8等級の魔石は上級迷宮の奥に出現する魔物からでないと取れない魔石だ。
かなり貴重なもののはず。
それを王家が貯蓄する500個全てを借りてくるとは。
これでどれだけ基礎魔力が上がるかな。
「アーネス様がお借りしてくださった8等級の王家の魔石。吸収させて頂きます」
鍵の魔具で8等級の魔石の魔力を吸収していく。
ロードゾンビナイトの7等級を吸収した時のように、10等級とは比べものにならない力強い魔力を感じることができる。
500個と数が多かったので、全てを吸収するのに30分ほどかかってしまった。
「ふぅ……終わりました」
「さすがはアルマ様早いですね」
「え? そうですか?」
「モードル殿はもっと遅かったです」
「ああ、モードル君は魔力操作の授業さぼっていましたからね」
自分の身体の中に感じられる魔力の量が今までと比べて半端なく上がっている。
「アーネス様。戦具の卵を」
「はい」
アーネス様の大きな戦具の卵を出してもらう。
まずはモードル君の魔力解除だ。
鍵を挿し込んで魔力を流していく。
いったいどれだけ数値が上がるか。
孵化:882/1200 ※モードル・カーラル
解除:1580/12000 ※アルマ
1580。
10倍とすれば元は158。
俺の基礎魔力は60だった。
ロードゾンビナイトやその他魔物の魔石を吸収して、60まで上がっていた。
いま8等級魔石500個を吸収して98も基礎魔力が上がったというわけか。
基礎魔力158。
目標にしていた基礎魔力100を通り越して、200に近くなっちゃったよ!
「モードル君の魔力を解除するまで1580/12000です。このことから、僕の基礎魔力は158まで上がったと思われます」
「基礎魔力158。改めて聞くととんでもないことですね」
「これでやれることが一気に増えました。でもまずはアーネス様の戦具の孵化ですね」
「よろしくお願いします」
1日の間に休憩をすれば魔力は回復する。
だいたい倍の316ぐらいは1日で使える魔力となる。
全部アーネス様の魔力解除に注ぎ込めばあと3日とちょっとで解除できるな。
まずはそれをやってしまおう。
解除できてしまえば、その日のうちに孵化もできる。
「計算上は4日で孵化までいけるはずです」
「素晴らしい! ありがとうございます」
「ただ……僕が休憩している時に、変に襲わないでくださいね?」
3人を見て言った。
「「「それは約束できません」」」
こらこら。
4日後。
まったく約束を守らなかった3人を相手に、どうにかして魔力を回復させて頑張った。
そしていま、モードル君の魔力が解除された。
「むっ! 戦具の卵から確かにモードル殿の魔力が消えたように感じます。以前の卵に戻りました」
「僕が見えている表示も同じです」
0/1200
解除されたからだろう。
モニカと同じように見えている。
そしてここからは一気にいく。
「ではアーネス様の戦具の卵を孵化させますね」
「おお、ついに!」
魔力を注いでいくと、アーネス様の戦具の卵は光り輝き始めた。
モニカの時と同じで、卵の中から戦具が現れる。
それは一振りの美しい剣だった。
光りが収まっても輝いて見えるような、白銀の美しい剣だ。
「これが私の戦具……ああ、アルマ様! ありがとうございます!」
「おめでとうございますアーネス様。アーネス様と同じ美しい剣ですね」
「いますぐ襲ってもよろしいですか?」
「だめですよ」
白銀の剣を手に取って頬ずりしながら言わないでください。
ちょっと怖いですよ。
~オーディン王国モードル・カーラル邸~
王家から報酬として魔石が支給されたモードルは、同年代の賢者の中では飛び抜けた存在となっていた。
もともと魔具の魔力増幅効果が6倍と優秀なため、同年代はおろか10傑の賢者からも一目置かれる存在となっている。
モードルは自分が歴史に名を残す大賢者になると信じて疑わない。
そんな将来の大賢者様の前にアーネスはいた。
「な、なんだとぉぉ!!!」
「モードル殿にはいろいろとご迷惑をおかけしました。面倒な王家の騎士は去ります。今後のモードル殿のご活躍を祈っております」
「ふ、ふざけるな!! お前の戦具の卵には俺の魔力が登録されているんだぞ! 俺でなければ孵化させることは出来ないのだぞ! いいのか!? 戦具を授かった王女がそれでいいのか!」
「良いか悪いかは王が判断いたします」
「けっ! 間違いなく処罰が下るだろうな」
「お気遣い頂きありがとうございます。ですが、それは無用なご心配です」
「あっ? なにを……な、な、なんだそれは!! ど、ど、どうして! どうしてそれは……まさか……そんなはずは!!!」
何もない空間から突然美しい白銀の剣が現れる。
それをアーネスは愛おしそうに握りしめた。
「私の主は決まりましたので……では」




