第21話
戦具:0/10000
神獣:0/10000
マリアナ様の戦具の卵に見える情報だ。
孵化させるのに必要な魔力は1万。
モニカの10倍ですよ。
でも問題はそこじゃない。
戦具という文字の情報が見える。
モニカの時には見えなかった。
理由はその下の神獣だろう。
マリアナ様の戦具の卵の中には神獣がいるのか?
どういうことなんだ?
「マリアナ様……マリアナ様の戦具の卵の中には鞭の武器があると感じていらっしゃいましたよね?」
「はい、そうです」
「それ以外に感じるものってあります?」
「えっ!? どうしてそれを!?」
「いま見ましたので。マリアナ様の戦具の卵を鍵で開けたら、孵化するまでに必要な魔力量が見えたのですが、それが1つではなく2つあったんです」
「実は……そうなんです。鞭以外にも私の卵の中には『何か』いるような気がしていました。でもはっきりと分からなくて、今まで誰にも言ったことはありません」
「なるほど……」
まさか戦具の卵の中に神獣がいるとは思わないよね。
これ魔力与えたらどうなるんだ?
「マリアナ様の戦具の卵に魔力を与えますね」
「はい!」
まずは魔力1を与えてみる。
まさかモニカにだけ10倍とかないよね。
戦具:10/10000
神獣:0/10000
無事に10倍だった。
それは喜ばしいことなんだけど、神獣の方は増えていない。
魔力の与え方なのか?
その後、鍵を通じて何か感触を得られないかといろいろ試してみたけど、神獣の方の数値が増えることはなかった。
もしかすると戦具の必要魔力が全て溜まった後なのかな。
「これでマリアナ様は僕の戦士ですね」
「嬉しい! アルマ様、末永くよろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ」
「マリアナちゃん良かったっしょ。モニカは側室で大丈夫だから、正妻はマリアナちゃんでいいっしょ」
「まぁ! モニカさんったら! 気が早いですわ。でもこういうのは勢いが大事ですもんね。アルマ様を襲って」
「ちょ、ちょっと! 何の話ですか」
「大事な話っしょ」
「大事な話ですわ!」
この二人なんだかんだ仲良かったからな。
見事な連携プレーじゃないか。
「マリアナ様は武器何もないですよね? とりあえずゾンビ迷宮の探索を始めますので、マリアナ様はこの空間の中でお待ちください」
「え~。退屈です~。危なくないように見ているので、一緒に行ったらだめですか?」
「う~ん、モニカはどう思う?」
「大丈夫っしょ。マリアナちゃんは身体能力高いっしょ」
騎士学院でマリアナ様も決して弱いわけではなかった。
モニカと同じでもっと強い人はたくさんいるけど、弱くはない。
モニカが中の上なら、マリアナ様は中の中か中の下ぐらいだろう。
「ではマリアナ様は僕の後ろで見ていてください。魔物の前に出ないように気を付けてくださいね」
「了解です!」
マリアナ様は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら鍵の空間から外に出ていく。
すると外に出た途端、ぴたっと動きが止まって足を見ている。
どうも飛び跳ねるとメイド服のスカートが動き難いみたいだ。
「えい」
「あっ!」
マリアナ様はスカートを、深いスリットを入れるようにびりびりっと破いてしまった。
「膝に当たるのが動き難いですわ。モニカさん、ちょっと切ってもらっていいですか?」
「いいっしょ」
そしてスカートの長さを膝上……のかなり高い位置までモニカの戦具の斧で切ってしまう。
スリットの入ったミニスカートの出来上がりです。
めっちゃエロいんですけど。
いや可愛いからいいんですけどね。
「アルマ様! どうですか?!」
「……すごく動きやすそうで……すごく可愛いですよ」
「やった!」
「よかったっしょ」
「はい! 殿方はこういう短いスカートを見ると興奮するとお姉様から習いましたが、本当のようです」
アーネス様……妹に何を教えているんですか。
マリアナ様と一緒にゾンビ迷宮の探索を始めた。
今回は最奥部まで行く予定だった。
鍵の空間を使った探索のスピードは、騎士達の探索よりもずっと早いペースで進行できるようで、3日も進めば最奥部まで行ける状況になっていた。
でもマリアナ様がいらっしゃるからどうするか。
鍵の空間の中で一人待っているのは退屈のようだけど、最奥部に近づけば近づくほど魔物も強くなってくる。
武器のないマリアナ様がいるには危険すぎる。
なんて思っていたら、モニカがとんでもない提案してきた。
「マリアナちゃん囮になるっしょ」
「はいですわ!」
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの?」
「大丈夫っしょ」
「大丈夫ですわ!」
本当かいな。
まぁ魔物との戦闘においては俺なんかよりモニカやマリアナ様の方がずっと分かっている。
マリアナ様だって騎士学院の頃に迷宮で魔物と戦っていたわけだし。
自分の身は自分で守るのが当たり前。
俺のようにこうして迷宮の探索についてくる魔術師の方が珍しいわけで。
専門外の俺が下手に口出しするより、二人に任せた方がいいだろう。
そしてそれは正しかった。
マリアナ様の囮は実に効果的に作用した。
ゾンビ系魔物の動きが鈍いというのもあるけど、華麗に舞うように魔物の攻撃を避けては動きを誘導していく。
マリアナ様に釣られた魔物をモニカが戦具の斧で一掃するといった感じだ。
息ぴったりの見事な連携プレー。
「二人は一緒に魔物と戦ったことあるんだ?」
「あるっしょ。騎士学院の時にマリアナちゃんとはよく一緒に迷宮行ってたっしょ」
「はい!」
「あ、よく一緒に行ってたんだ」
「私とモニカさん、それとお姉様の三人ですね。三人一緒の時もあれば二人の時も」
「楽しかったっしょ」
「へぇ~そうだったんだ」
「モニカさんやお姉様に比べたら、私はやっぱり動きが悪くて」
「そんなことないっしょ。マリアナちゃんはやるっしょ。ただアーネスっちが異常なだけっしょ」
「やっぱりアーネス様は飛び抜けてたんだ?」
「めっちゃ強いっしょ」
「お姉様は異常です」
モニカやマリアナ様は弱くはないけど最強の部類といえるほど強くはないのに対して、アーネス様は最強の部類に属する強さだと聞いていた。
戦具無しでの戦闘技術では、現役の最強騎士と対等に渡り合ったとか。
「アーネスっちは騎士学院にまだいるっしょ?」
「はい……その……お姉様は騎士になられました」
「え? 誰の騎士っしょ?」
「モードルさんです」
ええっ!? と俺も心の中で思わず叫んでしまった。
アーネス様があのモードル君の騎士に……。
でも冷静に考えると、同年代の中で6倍の魔力増幅効果を持つモードル君がアーネス様の賢者候補の最有力だったのは間違いない。
だから自然な流れとも言えるけど……やっぱり想像できないな。
「アーネスっちがあいつの……」
「はい。ただ取引に近い形でした」
「取引?」
「はい。いま王家と王家支持派の賢者と騎士の力は、そうではない賢者と騎士に比べて弱い立場にあるようなんです。それなのに、例の魔獣の件でフィリップ様の大切な騎士が三人もお亡くなりになられてしまって……。それでお姉様は早く自分が騎士にならないといけないって考えたんだと思います。モードルさんから与えてもらう魔力は王家が貯蓄している魔石から補うようで、さらにモードルさんには報酬として魔石を渡すようです」
「そんな……王家にめちゃめちゃ不利じゃないですか?」
「はい。それでもお姉様はモードルさんとの関係を少しずつ良くしていって、モードルさんを導くつもりのようです。モードルさんの性格がもっとまともなら良かったのですが」
あのモードル君の性格が変わるとは思えないな。
とても王家支持派の賢者には向かないんじゃないだろうか。
「ご主人様の能力を先に伝えておくべきだったっしょ。アーネスっちなら絶対信じたはずっしょ」
「もう言っても仕方のないことだよ」
「はぅ……それでもお姉様にはアルマ様の能力のことを伝えたいです。きっとお姉様ならアルマ様の能力を信じてくれます。きっとアルマ様を賢者に戻してくれます」
「う~ん……」
どうなんだ?
アーネス様に俺の能力を伝えてどうなる?
アーネス様は俺に好意的だったけど、でも王族として王女としての自覚がすごくはっきりとされていた。
第三者に証明できない俺の能力を信じてくれたとしても、やっぱり王やその他の賢者、貴族達を納得させるのは難しいんじゃないかな。
逆に変にアーネス様の立場を悪くすることになりかねないんじゃ。
「とりあえず今は迷宮探索に集中しよう。何をするにしても、僕の魔力を増やしていかないといけないからね」
「了解っしょ!」
「はいです!」
~オーディン王国王城~
「行方は分からぬか」
「申し訳ございません」
マリアナが王城から姿を消して、すでに4日が経過している。
フレイ王国の王との婚約を拒絶しての逃亡なのは間違いない。
ただのお姫様なら城から逃げたとしても生きていく術がなく、すぐに捕まるだろう。
だが、マリアナは違う。
騎士学院で迷宮内での野営なども学び経験した騎士候補生だったのだ。
外で生きていけないお姫様ではない。
「ふむ……フレイ王国からの迎えの方達には、一度お戻り願おう」
「よろしいのですか?」
「仕方あるまい。本人の心の準備がまだ出来ておらんと伝えるしかない」
「マリアナを欲する理由は単なる好色から……本当でしょうか?」
「分からん。分からんが、フレイ王国とはここ100年ほどは平和を保ってきておる。奴もこの平和をそう簡単に崩すようなことはやるまい」
オーディン王国の暗部がエルフ族やフレイ王国を探った結果、フレイ王国の王がマリアナに執着しているのは単なる好色からという結論になった。
「まぁ、逆にこれで分かるかもしれんの。奴が本当にマリアナの美しさを目当てにしているのなら、多少遅れることに問題はあるまい。逆にその他の目的があるなら焦るじゃろう」
「確かに」
「それでアーネス。お前の方はどうなんだ?」
「モードル殿からとりあえずの魔力1を与えられました」
「なかなかの野心家ではないか」
「現在は私の戦具の卵を孵化させるための手配と、その報酬に関して細かな部分を詰めております」
「うむ。多少の魔石の出費は構わん。だが、王家が貯蓄する魔石はあまり多くないぞ」
「分かっております」
「上手く王家支持派の賢者となるように導いてやってくれ」
「はっ!」




