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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第一章
19/89

第19話

 オーディン王国王都にある中級迷宮の一つ。

 通称ゾンビ迷宮。

 まったく人気のないこの迷宮を探索するのは俺とモニカの二人だけ。

 魔物の取り合いもなく実に快適だ。

 今回でちょうど10回目の探索となった。


 俺の基礎魔力は50まで増えている。

 本当に年内に100に到達できるかもしれない。

 増えた基礎魔力で鍵の空間を拡張していったのだが、正直俺とモニカだけの拠点としてはそんなに広い部屋はいらない。

 すでにトイレとお風呂付の素晴らしい拠点となっている。

 時間停止空間は増やせば増やすほど、保存できる食料と温かいお湯が増えるので、今は時間停止空間だけ増やすことにした。


 時間停止空間はコツコツ増やしていくとして、残った基礎魔力は毎日モニカの戦具に与えている。

 だいたい1日に魔力5ぐらいは与えられているかな。

 結果こうなっています。


1980/100:修復

1980/5000:覚醒『金剛』

1980/50000:進化『金剛』


 進化まではまだまだ遠いけど順調だと思う。

 1回覚醒できる状態になればいざという時に覚醒で対応することが出来るから、とりあえず1回分の覚醒魔力を早く溜めてあげたい。

 今回のゾンビ迷宮の探索では最奥部の一歩手前というところまで進めた。

 次回の探索は最奥部に行ってみたい。

 ゾンビ迷宮の迷宮主は『ロードゾンビナイト』と呼ばれる人型で鎧を着た魔物だ。

 知能も高く耐久力も高い。

 おまけに大きな両手剣を持っているそうで、攻撃力も高い。

 取り巻きも5~6匹ほどいるそうで、『ゾンビウォーリア』や『ゾンビアーチャー』といった人型で構成されているそうだ。

 かなりの強敵のためモニカ一人で倒すのは難しいだろう。

 迷宮主を倒すために覚醒の魔力を消費するのも勿体ないしね。

 だからこそ進化がいいんだよね。

 進化しちゃえばずっと覚醒状態……になると思っているんだけど、そうであるならモニカ一人で倒せる魔物がずっと増えるはずだ。

 二人目の専属戦士を探してもいいんだけど、今はまだ早い。

 モニカの戦具の進化が先だね。


 今回の探索が終わったらモニカの戦具に集中的に魔力を与えて、覚醒状態まで持っていこう。

 いざという時の対応のために。

 部屋に籠ってぐーたら生活して基礎魔力を回復していけば、1日に使える基礎魔力は100はある。

 モニカとイチャイチャする時間を無くして突き詰めれば125ぐらいいけるんだけど、モニカ寂しがるだろうし、俺も我慢できないからちょっとそれは無理です。

 1日に魔力100。

 つまり1日に魔力1000だ。

 覚醒まであと3020だから、3日間部屋に籠ればいい。

 よし! 3日間イチャイチャ……じゃなくて魔力回復に徹するぞ!





「マリアナ様が婚約!?」

「ええ。フレイ王国の王と婚約を結ばれたそうですよ」


 ゾンビ迷宮から戻ってギルドに行くと、ギルドマスターのジェラルド様がいた。

 探索の状況を聞かれるのかと思ったら、何とマリアナ様の婚約話を聞かされたところだ。

 そっか、マリアナ様はフレイ王国に嫁がれるのか。


「それで明後日の出発だそうです」

「明後日!? 早すぎないですか? 婚約が決まったのって最近なんですよね」

「三日前ですな」

「それで明後日に出発って……」

「なんでもフレイ王国の王が1日でも早くマリアナ様に来て頂きたいとか」

「へぇ~」


 そこまでマリアナ様にぞっこんな王なら、きっとマリアナ様を幸せにして下さるだろう。

 マリアナ様が騎士学院を退学したことは聞いていた。

 王女として生きていくにしても、どうせなら自分のことを愛してくれて幸せにしてくれる男性と結ばれる方が、マリアナ様にとっても良いことだ。

 今さら俺の鍵の魔具の特殊能力を伝えて俺の騎士になって下さいとも言えない。

 そもそも俺は賢者じゃないけど。


 白銀の宿に戻ると珍しくモニカが真面目そうな顔で話してきた。


「ご主人様は良いのか?」

「うん? 何が?」

「マリアナちゃんのこと」

「う~ん、良いも悪いもないよ。僕は賢者じゃないんだから」

「ご主人様の魔具の特殊能力を伝えれば、きっと賢者に戻れる」

「そうかもしれない。でも戻れないかもしれない」

「戻れないなんてないっしょ」

「……どうだろうね。それに鍵の空間のことを伝えても、僕の魔具の魔力増幅効果は1倍だ。マリアナ様のあの巨大な戦具の卵を孵化させるに相応しい人物とはならない」

「本当は1倍じゃないっしょ?」

「いや1倍だよ。特定の条件下においては1倍ではないけど。まったくの第三者にとっては1倍でしかない。つまり僕の魔具が特定の条件下において1倍ではない魔力増幅効果を発揮するということを、第三者に伝えるのは不可能に近いんだ」

「む?」


 モニカは俺から戦具に与えられる魔力を感じているから何となく分かるのだろう。

 でもそれはモニカが戦具の所有者本人だから。

 俺の鍵の魔具の魔力増幅効果は、賢者学院で測定したように、何度測定しても1倍という結果しか第三者には伝わらない。

 しかも10倍だと確実に言えるのは、俺だけに戦具や戦具の卵に与えられた魔力量が数値として見えているからだ。


 鍵の空間に関しては見せてあげれば納得する。

 基礎魔力が増えていることも……これは測定すればいま俺の基礎魔力が50という、過去に例がないほどの魔力値と測定されるだろうから、納得してくれるかもしれない。

 でも戦具に与える魔力増幅効果に関しては、俺がそう主張するだけ。

 あとは魔力を与えられた本人が、俺の基礎魔力に比べて多い魔力を与えてもらえています、と何となく感じて分かるだけ。

 明確に第三者に示すことは不可能だ。

 そんなことを国が信じてくれるとは思えない。


「モニカは難しいことはよく分からないっしょ。でもマリアナちゃんはご主人様に惚れていたっしょ!」

「マリアナ様が必要としていたのは僕じゃなくて、優秀な魔力増幅効果の魔具を持つ賢者だよ」

「違うっしょ!!!」


 え?

 モニカが初めて俺に怒った顔を見せた。

 なんでそんなに必死なんだ?


「マリアナちゃんはご主人様のことを好いていたっしょ! ご主人様の魔具の魔力増幅効果が2倍でも100倍でも、マリアナちゃんにとってはどうでもいいことだったっしょ!」

「モニカ落ち着いて」

「落ち着いていられないっしょ! モニカは断言できるっしょ。マリアナちゃんはフレイ王国なんかに絶対嫁ぎたくないと思ってるっしょ。マリアナちゃんが一緒にいたかったのはご主人様だけっしょ。マリアナちゃんが王女じゃなかったら、モニカと一緒に絶対ご主人様を追ってきていたっしょ……マリアナちゃんは本当に優しい子っしょ……」


 なぜかモニカがポロポロと泣き出してしまった。

 学院にいた頃から何だかんだいって、モニカとマリアナ様は仲が良かった。

 それにアーネス様も。


「ぐすっ……モニカはご主人様がこの先どれだけ戦士や騎士を抱えても構わないっしょ。ご主人様はそれだけの器っしょ。でも……マリアナちゃんのことも迎えに行って欲しかったっしょ。モニカはご主人様の準備が整ったら、マリアナちゃんを迎えに行くと思ってたっしょ……」

「分かったよ。ごめんよモニカ。さっきの言葉は謝る。僕もマリアナ様に好意を抱いていたよ。それは嘘じゃない。ただ賢者と騎士の関係性で、僕はマリアナ様やアーネス様、それにモニカにも魔具について期待されていると感じていたんだ。それで結果があれだったから」

「ぐすっ……」

「でも今からマリアナ様のことを僕がどうこうするなんて出来ない。モニカの言う通り、僕の準備……僕が持つ力がもっと整っていたら違ったかもしれない。でもその前に王族同士の婚約として決まってしまったんだ。仕方ないよ」

「ぐすっ……それは分かるっしょ」

「今はまだ、僕は多くのことは出来ない。力を溜める時期なんだ。モニカのおかげで僕の計画は本当に順調に進んでいる。感謝しているよ」


 悲しむモニカに寄り添ってその日は過ごした。

 王族同士の婚約。

 しかも国と国との縁談を今から無しになんて出来ないことはモニカも理解している。

 理解はしても頭で納得できないのだろう。

 俺も軽はずみな言葉を言ってしまった、反省である。

 マリアナ様が俺に好意を向けてくれていたことは十分に分かっていたはずなのにな。

 いつの間にか俺は皮肉れてしまっていたようだ。


 明後日にマリアナ様はフレイ王国に出発なさる。

 最後に一目……いややめておこう。

 予定通り3日間は部屋に籠って、モニカに魔力を与えよう。

 その後はいつも通り、ゾンビ迷宮に向かおう。


 そうして3日間を過ごした。

 予定通り、モニカの戦具は覚醒状態となる。

 食料やお湯を準備して、俺達は再びゾンビ迷宮に向かった。

 今回の探索では最奥部まで行くつもりだ。


 オーディン王国王都にある中級迷宮の一つ。

 通称ゾンビ迷宮。

 まったく人気のないこの迷宮を探索するのは俺とモニカの二人だけ。

 魔物の取り合いもなく実に快適だ。

 今回でちょうど11回目の探索となる……という説明になるはずだったのだが……。


「アルマ様!!!」


 なぜかゾンビ迷宮に入ったすぐの場所に、マリアナ様がいた。

 あれ? フレイ王国に行かれたのでは??


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