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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第一章
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第18話

 ギルドマスターのジェラルド様から呼び出しをくらった。

 何も悪いことしてないぞ? と思って行ったら、人を紹介された。

 エルフ族の戦士だった。


「フレイヤ王国の戦士エルミアです」

「同じくフレイヤ王国の戦士ララノアです」

「オーディン王国の魔術師アルマです。彼女は僕の専属戦士モニカです」

「モニカっす」


 フレイヤ王国。

 オーディン王国から北側にある精霊王国の一つだ。

 フレイ王国と双璧を成す精霊王国の大国だ。

 古い言い伝えでは、フレイ王国を建国した王と、フレイヤ王国を建国した女王は双子だったとか。


「貴重なお時間を頂きありがとうございます。本日アルマ殿にお会いしたのは、アルマ殿が中級迷宮を探索されているとお聞きしたからです」

「はぁ、確かに僕達は中級迷宮を探索していますが……」


 賢者学院でエルフ族について勉強したことはあったけど、あまり詳しくは分からない。

 中級迷宮を探索していることが会いに来た理由?


「アルマ殿は私達エルフ族についてどの程度ご存知でしょうか?」

「すみません。不勉強でしてあまり詳しくは知らないです」

「いえいえ。人族の方の多くはエルフ族について詳しくありませんので。お気になさらないでください。私達エルフ族は人族と多くの共通点を持っていますが、決定的に違うのはその力の源です。人族の方達が魔力を力の源としているように、私達は『精霊力』を力の源にしています」

「精霊力。それは少し聞いたことがあります」


 賢者学院で学んだことがあったな。


「人族の方々が『魔物』と呼ぶ存在の中には私達が『霊物』と呼ぶものが含まれています。オーディン王国の中でも有名なのが中級迷宮や上級迷宮に出現する『ゴースト』と呼ばれる魔物です」

「ああ、魔石を落とさない厄介な魔物ですね」

「人族の方達にとっては魔石を落とさない厄介な魔物でございますが、私達エルフ族にとっては違います。ゴーストは精霊力を持っているからです」

「でもゴーストを倒しても何も落とさないはずですよね? そもそも心臓がないから魔石もない。倒しても霧のように消えてしまうだけでは?」

「ある物を持たずに倒しても意味がありません。ですが……こちらを持って倒して頂けると意味があります」


 そういってエルミアさんは俺の前に1つの綺麗な水晶のような石を置いた。


「これは『精霊石』です。これを持ってゴーストを倒すと、この精霊石の中に精霊力が溜まるのです」

「へぇ~それは知りませんでした」

「一般にはあまり知られていないことですから。アルマ殿が中級迷宮を探索されると聞いて、ぜひこの精霊石をお渡ししたかったのです。霊物はどの迷宮にも出現する可能性がありますが特定の場所に出現しません。もし遭遇した際に精霊石をお持ちなら精霊力を溜めることができます。そして精霊力が溜まった精霊石は私達エルフ族が買い取っております」

「あ~なるほど。そういうことですか」


 つまり俺にこの精霊石を持って霊物を狩って、精霊力を溜めたら自分達に売って下さいねってことか。


「話は分かりました。僕が霊物の出現する迷宮を探索するかどうか分かりませんが、この精霊石に精霊力を溜めることが出来たらエルミアさんにお売りすればいいのですね」

「はい、ぜひ。売るのは私でなくても構いませんが、必ずフレイヤ王国のエルフに売って頂けますようお願い申し上げます」

「……分かりました。フレイヤ王国の方に売るようにします」

「ありがとうございます。ではこちらの精霊石はアルマ殿にお譲りしますので、ぜひともよろしくお願いします」

「しかしどうして僕なんかに声を? もっと優秀な冒険者や騎士にお願いした方がいいのでは?」

「……冒険者の方で中級迷宮を探索される方はそれほど多くありません。探索をされている方には全員声をかけております。騎士の方は……あまり私達の話を聞いてくれませんので。そもそもオーディン王国の賢者様方にとっては、まったく関係ない話となりますから」

「あ~確かにそうですね。フレイヤ王国の迷宮には霊物は多いのですか? 自国で精霊石に精霊力を溜めていらっしゃるのでしょう?」

「はい。ですが霊物は特定の迷宮の特定の場所に出現するものではありません。いつどの迷宮に出現するか分かりませんので、精霊力の確保には難儀しています」

「確かにそれは大変ですね。精霊力の溜まった精霊石はどのように使われるのですか?」

「人族の方達と同じでエルフ族の生活のためのエネルギー源として活用されております」

「そうですか。それではエルフ族の方達の暮らしのためにも、霊物を見つけた時は狩って精霊力を頑張って溜めていきますね」

「ありがとうございます」


 エルミアさんとララノアさん二人と握手して、冒険者ギルドを後にした。


「あの二人どう思う?」

「かなり強いっしょ」

「僕もそう思った。精霊石を持って霊物を倒すと精霊力が溜まるとは知らなかったな」

「見つけたら狩るっしょ?」

「だね。でもこの精霊力……エルフ族の暮らしだけに使われているわけではないだろうね。賢者の魔石魔力のように絶対に何か他の使い方があると思う」

「モニカもそう思うっしょ」

「まぁ、考えたところで仕方ない。それにエルミアさんを紹介したのはジェラルド様だ。ギルドマスターからの紹介なんだから、こうして精霊石を渡されて精霊力を溜めた後にエルフ族に売ることは公認されているということ。つまり僕達に害はないってことだね」


 今日は休養日だけど明日からまたゾンビ迷宮に行く予定だ。

 魔獣の件は気になるけど、今の俺達に出来ることはない。

 覚醒状態の騎士3人が束になって勝てない魔獣なんて、俺達が行っても殺されるだけだ。




~オーディン王国賢者学院~


「これはこれはアーネス王女様。今日はどのようなご用件で?」


 賢者学院のとある部屋にアーネスはやってきていた。

 この部屋はモードルの部屋だ。

 魔力増幅効果が6倍の魔具を得た彼はいまだに賢者学院にいる。

 2倍以上の魔具を得れば正式な賢者となり、騎士を一人でも決めれば学院の部屋から出ていき自分の家を持つのが普通だ。

 家の購入費用は国から全額借りることが出来る。

 家を決めるまでの間、リチャードのように学院に留まることもあるだろう。

 6倍という高性能な魔具を得たモードルのもとには、騎士になりたい候補生達が殺到している。

 その中から一人でも二人でも、本来なら好きに選んでさっさと学院の部屋から出ていきたいとモードルも考えていた。

 しかし、モードルはまだ誰も騎士に迎え入れていない。

 それは王家の都合によるものだった。

 王家からの要望により、モードルは誰も騎士に迎えることが出来ないでいた。

 王家の都合で好きに出来ないモードルの機嫌は悪く、アーネスに対する挨拶も嫌味十分な言い方であった。


「ご不便をおかけして申し訳ありません」

「まったくだ! いつになったら俺は自由になるんだ!」

「……魔法契約の下に私を騎士として頂き、覚醒に必要な魔力を与えて下さるなら、すぐにでも」

「チッ……またそれか」

「必要な魔石は王家で用意します。さらに報酬として魔石も支給します。モードル殿にとって悪い話ではないと思うのですが」

「魔法契約は無し。それとお前が俺の女になるならやってやると前にも言ったはずだが?」


 アーネスとモードルの話が平行線を辿っている原因はこれだ。

 アーネスはモードルの人となりを見て、王家を支持する賢者として不適格と判断した。

 しかし同年代で6倍という性能の魔具を持つ者は他にいない。

 モードルは不適化だが、魔具は適格だ。


 一時は己の身体でモードルを篭絡しようかとも考えた。

 それも男としてモードルを好きになれないため、結局はやめた。

 そこでモードルに取引を持ち掛けたのだ。


 戦具の卵を孵化して覚醒状態とするまでの魔石を全て王家側で用意するので、自分を騎士にして魔力を与えて欲しい。

 そうしてくれれば、報酬として魔石を渡す。

 通常の賢者と騎士の間に魔法契約などあり得ないのだが、モードルに信用がおけないため魔法契約を交わすことを前提とした。

 だがモードルは魔法契約を交わすことを拒んだ。

 賢者のプライドが許さなかった。


 さらにアーネスが自分の女、つまり身体を許すことを要求してきた。

 王女に対して失礼この上ないことだが、これが賢者と騎士という関係性になると話は違ってくる。

 騎士になりたいなら抱かせろと、モードルのように要求する賢者はいくらでもいるのだ。

 そしてそれは黙認されており、たとえ王女に対しても同じだ。


「女として魅力的だと思って頂けるのは大変嬉しいのですが……私は王女としての役割も果たさなければならない身のためご理解頂きたいのですが」

「けっ! 他の男の女になるお前に魔力だけ与えろってか?」

「現在オーディン王国の王女は私とマリアナしかおりません。他国との縁を結ぶためにも、私は王女としての責務を果たさなければならないのです」


 アーネスのこの言葉は嘘である。

 現王の娘二人が共に戦具の卵を授かるなど、可能性としては奇跡に近い。

 そして王女が騎士になれることは王家にとって大きな力だ。

 その王女を他国に嫁がせるなんてあり得ない。

 嫁ぎ先の国も、有事の際には妃を騎士として戻すなんて約束を結ぶはずもない。

 つまり、これはモードルと男女の関係になりたくないアーネスが考えた詭弁なのだ。


「嫌だね。俺は別にお前を騎士にする理由なんてないんだよ」


 アーネスほど見麗しく戦闘能力も高い騎士候補生はなかなかいないが、他にも綺麗な騎士候補生はいるにはいる。

 その騎士の能力が低くとも、モードルにとっては関係ない。

 足りない質は量で補えばいい。

 6倍という優秀な魔具を持つモードルのもとには、多数の騎士達が集まることだろう。


 今回も話は平行線を辿りそうだ。

 しかしそれで困るのはアーネスであった。

 フレイ王国との間に不穏な緊張感が漂い始めている。

 父である現王は最悪のケースとして戦争まで想定し始めているのだ。

 その時に、王女である自分が戦具を得られず何の力にもなれないなどあってはならない。

 焦りがアーネスを動かした。


「ではこれでどうでしょう。私の戦具の卵を孵化させて頂けたら、以前にお話した報酬の魔石をお渡しします。私はモードル殿の騎士となるのですから、その後にゆっくりとお互いのことを知り、仲を深めていければ……。いずれ自然と男女の仲にもなりましょう。王女としての責務は父上に私が我儘として言えばどうにかなるかもしれません。お互いを良く知れたなら覚醒の魔力を与えて下さるということでいかがでしょうか? もちろん覚醒の魔力を与えて頂ければ報酬の魔石もお渡しします。魔法契約は無しとします」

「ふ~ん……」


 今回の提案は悪くないとモードルも考えた。

 男としてアーネスは欲しい。

 この王女様を自分が屈服させて従えることが出来たらどれほど楽しいか。

 王族の賢者や騎士が王家のために動くとはいえ、賢者と騎士の関係性が崩れるわけではないのだ。

 取引という側面のある内容ではあるが、アーネスの戦具の卵に魔力を与えれば、アーネスは自分以外の魔力を受け入れることはできなくなる。

 時間をかけてこの王女様を自分のものにするのも悪くないと思えた。


「悪くないな」


 モードルの好感触にアーネスも喜んだ。


「魔石はそっちが用意しろよ」

「はい。もちろんです」


 魔石魔力を得られる等級魔石は、王家が賢者や冒険者ギルドから買い取った分を大賢者や将来有望な賢者に支給している。

 しかしその全部を支給しているわけではなく、王家の中に貯蓄している等級魔石がある。

 魔獣討伐のために魔力を消費したフィリップに魔力の補填としてかなりの等級魔石が支給されたが、まだ貯蓄されている分はある。

 アーネスはこの貯蓄された等級魔石を使ってモードルと取引することを王から許可もらっていたのだ。


 魔法契約を無しとしたことに不安は残るが、モードルも約束をまったく反故にすることはないはずだ。

 まずは戦具を得ること。

 その後は、オーディン王国にとって有事となれば、モードルも自分に魔力を与えてくれるだろう。

 またそうなるように自分がモードルとの関係性を今後良くしていけばいいのだ、とアーネス前向きに考えた。


 モードルはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらアーネスに言った。


「この場で俺の魔力を1与えてやる。感謝しろよ。これはサービスだ」

「……ありがとうございます」


 獲物を逃がすつもりはない。

 アーネスも逃げるつもりはないのだが。

 こうしてアーネスの戦具の卵にモードルの魔力が登録された。


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