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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第一章
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第17話

 モニカが斧を振る。

 人型のゾンビは右手で斧を防ぐが、その右手は砕け散っていく。

 再び斧が振られると、次はゾンビの頭が砕け散った。


 ゾンビ迷宮5回目の探索。

 2日かけて進めるだけ奥に進んだ。

 ゾンビ迷宮の中間地点ぐらいまでは来ているだろう。

 ここまで来ると人型のゾンビも多くなってきた。

 人型はゾンビの中では知能が高く強い。

 モニカの斧を防いでくるため、一撃で倒せなくなってきた。


「アースウォール」


 土の壁でモニカとゾンビの群れを遮断する。

 人型のゾンビは群れて組織的な動きをしてくるから厄介だ。

 いまはモニカが3匹に囲まれる寸前だったので、魔法を使って支援した。


「はぁはぁ! はぁはぁ!」


 モニカに疲労の色も見える。

 この地点での狩り3日目だ。

 今回の探索はこれで十分だろう。

 十分すぎる成果だ。

 残った3匹のゾンビを倒したところで、鍵の空間を出して中に入った。


「これで今回は終わりにしよう」

「はぁはぁ……よ、余裕っしょ」

「いやいや、全然余裕じゃないでしょ。めっちゃ息切らしてるよ」

「これは……はぁはぁ……昨日のご主人様が激しかったのが原因っしょ」

「いやいや、襲ってきたのはモニカだからね? 返り討ちにしようと頑張ったけど」


 鍵の空間の拠点は便利で快適過ぎる。

 この中にいると迷宮を探索していることを忘れてしまいそうなほどだ。

 それほどリラックスできる空間なので、自然とムラムラもしてきてしまう。

 結果、激しい運動をしてしまい翌日の狩りに少し影響を及ぼすこともある……反省。


「休んだら白銀の宿に戻ろう」


 稼ぎが増えたので宿をランクアップしている。

 白銀の宿は上級宿屋だ。

 温泉はないけど部屋にお風呂があって、魔道具によってお湯が出る。

 あまり大量にお湯を頂戴すると怪しまれるかもしれないけど、今回の探索の前にお湯を頂いておいた。


 時間停止空間にお湯を溜めての迷宮探索中のお風呂は格別だった。

 こんな贅沢な迷宮探索があっていいのだろうか?

 このお風呂も迷宮探索を忘れてモニカとイチャイチャしてしまう要因だったりするんだよな。

 でももうお風呂無しの迷宮探索なんて考えられません。


 基礎魔力も30まで上がっている。

 今回の魔石の量なら3から4増えるんじゃないかな。

 とても順調だ。

 上手くいけば年内に基礎魔力100達成出来たりして……。

 いやいや焦りは禁物だ。

 じっくりやっていこう。


 今回のゾンビ迷宮探索に出発する時点で、まだあのフェンリル級の魔獣は討伐されていなかった。

 でもフィリップ様が騎士に魔力を与えて討伐に向かわせたと、王家から発表があったため、帰ったころには討伐されているかもしれない。

 結局王家の魔力が消費されることになったか。

 力になってあげたかったけど、今の俺達では無理でした。


 この日もお風呂に入ってゆっくり休む……ことなく、モニカとイチャイチャしてから眠りについたのであった。





「失敗?!」

「はい。討伐に失敗です」

「そんな……」

「フィリップ様の騎士3名は死亡。あまりに激しい戦闘のため従者達は近づくことすら出来ずに後方で待機していたそうです。戦闘音が止んだことで現地に向かってみると、騎士3名の死体があったそうです」

「魔獣は?」

「分かりません。騎士3名が死亡していたことから生きていると思われます。従者達は急いで騎士の死体を回収して戻ってきたようで、現地の状況は不明です」


 なんてこった。

 フェンリル級の魔獣が近くにいるかもしれないのに騎士がいない状況で、長くその場にいたくない気持ちは分かるけど、少しは情報収集してくるべきじゃね?

 それにしても大変なことになったな。


「王家はかなり混乱しているようです。フィリップ様が騎士にきちんと魔力を与えなかったのではないかと糾弾する大賢者がいるようでして」

「でも騎士は覚醒したのでしょう?」

「従者達の証言で騎士の覚醒は確認されています。ですが魔力が十分でないと覚醒状態を維持できる時間が短くなります」


 詭弁だな。

 覚醒できる魔力は決まっている。

 出来るか出来ないかのどちらかだ。

 不十分な魔力ではそもそも覚醒できない。

 どれだけ覚醒状態を維持できるかは、その戦具の性能に依存するはずだから。

 迷信を持ち出して非難しているのか。


「仮に覚醒状態を維持できる時間が短かったとしても、覚醒している騎士3名が負けるなんて……」

「予想を超える強力な魔獣でしたな。不運としか言いようがありません」


 上級迷宮の最奥部ではなく、最上級迷宮の最奥部級の魔物だったのか?

 でもどうしてそんな魔獣が急にオーディン王国に?

 それほどまでに強くなるまで、まったく目撃情報がなかったのか?


「現在は捜索隊を編成中のようです」

「そうですか……」


 衝撃を受けたまま冒険者ギルドを後にした。

 宿に戻ったらモニカにも伝えよう。

 モニカが戦っていたら、死んでいたのはモニカだったな。





「おかしいっしょ」

「どこが?」

「そんな強力な魔獣が何の目撃情報もないまま成長するなんてあり得ないっしょ」

「やっぱりそう思う?」

「当然っしょ。アマゾネスが暮らす大森林にも強力な魔獣がいるっしょ。魔獣が強くなるためには魔獣の魔石を喰らうっしょ」

「そういえばそうだったね」


 迷宮の魔物は産まれた時から決まった強さを持っている。

 個体差はあれど、産まれた後に強さが変動することはないとされている。

 魔獣は違う。

 魔獣は親の魔獣が産んだ時は弱い子供の魔獣だ。

 そこから時間をかけて成長していく。


「いくつも目撃情報があって、それでも討伐出来ず、やがてその魔獣は強力な魔獣へと成長してしまうっしょ。何の前触れもなく、覚醒騎士3人を殺せるような魔獣が現れるのはおかしいっしょ。それはもう魔獣じゃなくて神獣っしょ」


 神獣か。

 伝説にだけ登場する。

 一番有名なのはドラゴンだな。

 確かに伝説の神獣なら覚醒騎士3人を相手にしても勝てそうだけど。


「今の僕達に出来ることはない。王家が混乱しているそうだから、アーネス様やマリアナ様が心配だけど……」


 俺の魔具は強力だ。

 とんでもない可能性を秘めている。

 でも今はまだ幼い子供と同じ。

 時間が必要なんだ。

 いま焦っても何も出来ない。

 じっくり力をつけるしかない。





~オーディン王国王城~


オーディン王国の王のもとに再び精霊王国の1つ『フレイ王国』から手紙が送られてきた。

 その内容に王は眉をひそめる。


「父上、今度は何と?」


 アーネスはフレイ王国の王がマリアナを妃に迎える件で催促の手紙を寄越してきたのかと思っていた。

 この忙しい時期に迷惑な……と思っていたのだが。


「例の魔獣の件だ」

「え? フィリップ様の騎士を3人も殺したあの魔獣ですか?」

「そうだ。その魔獣はその後にフレイ王国に侵入してきたと書いてある。そしてそれを自分達が討伐したと」

「まさか……」

「位置的にはそのまま北上すれば確かにフレイ王国に流れ着くじゃろう……」

「すぐに目撃情報を集めさせます」

「これは仕掛けられた罠だな」

「罠?」

「我が国の北部中央に突如として覚醒騎士3名をもってしても討伐不可能な魔獣が現れた。これだけでも不可思議だ。その上、その魔獣がすぐにフレイ王国に入りすぐに討伐され、そのことをこれだけ早く我が国に伝えてくる。どう考えてもおかしい」

「確かに……」

「奴め……いったい何を焦っておる? こんなことに我が引っかかると思っていたのか? いや、そうしなくてはならない何か事情が?」

「……」

「いずれにしても、鍵はマリアナにある」

「マリアナですか?」

「うむ。我が国で討伐に失敗した魔獣によって被害がもたらされたフレイ王国は賠償を求めない代わりに、一刻も早くマリアナを妃として寄越せと書いておる。つまり、奴がこれほどまでに焦る理由はマリアナにあるとしか考えられん」

「マリアナが欲しいのか、それとも……あの巨大な戦具の卵が目的か」

「フレイ王国の目的がマリアナであろうと戦具であろうと、それが我が国にとって害成すものでないのなら、マリアナを妃として送り出すことになろう」

「……」

「マリアナは騎士となることを諦めた。今はただの王女だ。王女であるなら国のために他国に嫁ぐことなど当たり前のこと」

「はい。マリアナも分かっております」

「うむ。だが、奴らの目的が我が国に害成すことであれば、マリアナを渡すわけにはいかん。例えそれによって戦争となろうとも」

「フレイ王国の目的を探る必要がありますね」

「フレイ王国と会談の場を設ける。同時に暗部にフレイ王国を探らせろ。それとアーネス、お前は一刻も早く戦具を得て覚醒状態となってくれ」

「はっ!」


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