第13話
モニカを専属戦士として迎え入れて、20日ほどが経過した。
俺の計画は順調だ。
モニカの戦具の卵はすでに990/1000となっている。
いつでも孵化させることが出来る状態だ。
鍵の空間も順調に拡充されて、今では泊っているこの部屋ぐらいの広さとなっている。
また空間の中身を俺が好きにいろいろといじれることも分かった。
壁で部屋を区切ったりすることができるのだ。
そのため、たまに狭い空間に区切ってモニカと二人でぎゅうぎゅうになってイチャイチャしたりもしている。
話がそれた。
鍵の空間は拠点として使える広さとなった。
俺とモニカの二人だけだからね。
喜ばしいことだが、お金の残金は少なくなってきた。
ちょっと稼ぐ必要がある。
最も早く稼ぐには、魔石魔力を得られる魔石をギルドに売ることだ。
つまり中級以上の迷宮を探索することになる。
戦具もなく武器もないモニカでは中級迷宮を探索するのは不可能だ。
すぐに死んでしまう。
でもお金は無く武器は買えない。
武器って高いんだよね。
鉄の武器とかめっちゃ高いし。
やはり戦具となる。
戦具はお金がかからない。
代わりに魔力がかかるけど。
でもモニカが戦具を得たことを知られたくはない。
そこで出した答えが、人気のないとある中級迷宮を探索するということだ。
そこはゾンビ系の魔物が多く出現する迷宮である。
ゾンビは腐った肉の魔物だ。
魔物を倒した後に心臓部の魔石を取る必要がある。
腐った肉のゾンビの心臓部を武器や戦具で開けるのは大変不人気なのだ。
武器や戦具が汚れるしね。
スライムは透明な液体のため砂粒のような魔石がどこにあるかすぐに分かる。
倒したスライムなら手を突っ込んで取り出すだけ。
倒した魔物の死体は時間が経つと迷宮の中に吸収される。
強い魔物になると、牙や骨、毛皮とかが素材として高値で売れることもある。
ゾンビの腐った肉は価値ないけどね。
通常の武器だと腐った肉を斬ったりこじ開けたりすると本当に武器が腐食してしまうらしく、ゾンビ相手に通常の武器を使って戦うことはないらしい。
では戦具は?
戦具も腐った肉を斬ったりこじ開けたりすると、同じく戦具が腐食して性能が落ちてしまう。
ただし、魔力で戦具の性能を維持してもらえたら、その時に腐食も一緒に治るそうだ。
戦具の性能維持のための魔力を惜しむ賢者や魔術師は多い。
特にそれがゾンビ系の腐った肉による腐食となればなおさらだ。
戦えば戦うほど戦具の劣化が激しくなるのだから、不人気なのも頷ける。
逆に俺にとっては好都合だけど。
モニカの戦具の性能維持のための魔力を惜しむつもりはない。
鍵の特殊能力で問題なく性能維持できるはずだ。
それにこの20日間である現象が俺に起こっている。
その理由を考えた時、俺はこの中級迷宮の探索を決めた。
増えているのだ。
何が?
俺の魔力が。
鍵の魔具で小さなスライムの魔石から魔力を吸収出来ているのだから、魔石魔力が少しでも増えるのは当たり前だ。
でも違う。
俺は魔石魔力を得ていない。
スライムの小さな魔石から、鍵の魔具で魔力を吸収しても魔石魔力を得ていないのだ。
俺は魔石魔力を得たことがないから、正確には魔石魔力がどんなものなのか分からない。
それが身体に流れてきた時にどうなるのか分からない。
でも俺がスライムの小さな魔石から得ているのは魔石魔力ではないと思っている。
なぜか。
俺の基礎魔力が増えているから。
そう増えていたのは、俺の基礎魔力なのだ。
賢者学院の最後の1年間でまったく成長しなくなった基礎魔力。
それが増えたのだ。
俺の基礎魔力は20だった。
いまは21ある。
基礎魔力がいくつあるのか正確に測定するには、賢者学院にある魔道具が必要だ。
高価な魔道具でそこら辺にあるものじゃない。
だから測定することはできない。
でも分かる。
魔力操作に自信のある俺は、自分が使える魔力を正確に把握している。
それが増えていた。
鍵の空間の拡充をしていた時、今までよりも魔力1多く拡充できたのだ。
自分でも本当に驚いた。
どうして1年間まったく成長しなかった基礎魔力が突然増えたのか。
単に自然的に成長したとも考えられる。
でもそう考えるよりも、鍵の魔具の特殊能力だと考えた方が納得できる。
スライムの小さな魔石から鍵の魔具で魔力を吸収しても、自分の中に魔石魔力という魔力を感じることはできない。
そして基礎魔力は増えた。
つまり鍵の魔具で魔力を吸収すると、それは俺の基礎魔力になる。
いま現在分かっている鍵の特殊能力の中で、これが一番すごい能力だと思う。
基礎魔力は消費しても回復するのだ。
基礎魔力が100、200と増えていけるなら、瞬発力は魔石魔力を溜めている賢者に負けるかもしれないけど、持続力では俺の方が優ることになる。
「モニカ。今からモニカの戦具の卵を孵化させる」
「マジっしょ? めっちゃ嬉しいっしょ!」
どうして孵化するのが分かるのか? とか疑問に思わないのかな。
思っていても主である俺を信頼して聞く必要がないと判断しているのか。
「モニカの戦具の卵が孵化したことは、しばらくの間は隠しておきたい。だから戦具は消しておいてね。ゾンビ迷宮についてから出そう」
「了解っす!」
鍵をモニカの戦具の卵に挿して魔力1を流す。
10倍に増幅されて魔力10が与えられる。
1000/1000
卵が輝き出した。
光りでばれないように、鍵の空間の中に入っている。
俺の魔具の卵のように、眩いばかりに輝くモニカの戦具の卵の殻にひびが入ると、殻が落ちていき光りを失うと同時に戦具が現れた。
斧だ。
大きくて立派な斧が宙に浮いている。
両刃の斧だな。
これは強そうだ。
「手に取って」
「う、うっす!」
モニカも自分の戦具に興奮しているのか、変な返事が返ってきた。
モニカが斧を手に取ると、宙に浮いていた斧は浮力を失い、モニカの手に重さを伝えたことだろう。
「おめでとうモニカ」
「あ、ありがとうっしょ! 感激っす! これがモニカの戦具……かっこいいっしょ!」
「かっこいいね。それに強そうだ」
「ご主人様が与えて下さった魔力のおかげっしょ!」
「くすっ。そうだね。きっとそうだよ」
「間違いないっしょ!」
誰が孵化させてもきっとこの斧だっただろうけど、俺が孵化させたからってことでいいだろう。
俺もモニカも、その方が嬉しいし。
「モニカの戦具の斧を使って、中級迷宮のゾンビ迷宮を探索するよ。食料と水は買い込んだから、迷宮内での滞在も問題ない。あ、トイレも作ったからね。まだお風呂場は無理だけど」
「迷宮探索にトイレあるって、めっちゃ贅沢っしょ!」
トイレといっても壁で区切った空間の中に座れる箱を置いて、便座になるように真ん中をくり抜いた。
そのくり抜いた真下を異空間に繋げたのだ。
この空間の中をいろいろいじれると分かった一つに、この異空間があった。
どこに繋がっているのか分からない。
俺やモニカは入ることができなかったが、物を投げ込むと消えてしまうのだ。
用途としてごみ箱とトイレをすぐに思いついた。
実に便利だ。
鍵の魔具で魔力吸収した空の小さな魔石とか、ここに放り込んで処分出来たし。
「ベッドが用意できれば良かったんだけど……とりあえず寝袋で我慢してね」
「安全に寝れるだけで贅沢っしょ!」
「僕の寝袋に入ってきたらだめだからね? 破けちゃうからね?」
「分かってるっしょ! やる時は寝袋の上っしょ!」
「……まぁそれは否定しない」
こうして初めての中級迷宮であるゾンビ迷宮の探索が始まった。




