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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第一章
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第10話

 全快した魔力を鍵に流して空間を広げようかと考えていた時だ。

 ドアがノックされた。

 女将さんがやってきて、俺に来客だと告げた。

 誰だろう? と思っていたら。


「モニカと名乗っております」


 え? モニカさん?




「ちーっす」

「本当にモニカさんだ。どうしてここに?」


 本物だ。

 本物のモニカさんだ。

 ただ学院の制服を着ていない。

 それどころかちょっとみすぼらしい布の服を着ている。

 ちょっとだけ露出が高くてドキドキしちゃうじゃないか。


「もちろんアルマっちに会うためっしょ」

「いやいや。僕のことは聞いてますよね?」

「卵孵化したっしょ?」

「……1倍ですよ。1倍。まったく魔力を増幅しない魔具でした」

「知ってるっしょ」

「僕は賢者失格です。魔術師として細々と生きていく落ちこぼれですよ。こんな僕に会ってどうするんですか?」


 モニカさんはニヤリと笑って言った。


「もちろんアルマっちの魔力もらうためっしょ」

「いやいや、いま話しましたよね? 僕は落ちこぼれだって」

「それで何か分かった? 魔具のこと」


 いきなり真面目トーンで真面目そうに言ってきた。

 普段からお茶らけて軽いモニカさんの真面目モードは、ギャップもあってかなんだかすごく凛々しく見えた。


「だから僕の魔具は魔力をまったく増幅しないって」

「そうじゃないっしょ。その鍵の魔具。何かあるっしょ?」


 真面目モードは一瞬でお終いかい。

 しかし何でモニカさんは俺の魔具に特殊能力があると思ったんだろう?

 誰にも話していない……というか誰とも接触すらしていないのに。


「……どうしてそう思うんですか?」

「モニカの勘っしょ。アルマっちに初めて会った時からモニカはアルマっちに特別な何かをビンビンに感じていたっしょ」


 何そのちょっとエロい言い方。

 当たっているからなおさら怖いな。


 さて、どうするか。

 モニカさんに鍵の魔具の特殊能力について話すかどうか。

 鍵の特殊能力を把握するためには協力者が必要だ。

 鍵の空間の中に入った時、外から完全に隔離されているかどうかはすごく重要な問題だけど、俺一人では確認しようがない。

 しかしモニカさんは騎士候補生……あれ? 騎士候補生なのか?


「モニカさん。騎士学院の制服着てませんけど……」

「退学してきたっしょ」

「ええ!?」


 た、退学した!?

 退学しちゃったの!? どうして?


「ど、どうして!?」

「だからアルマっちに会って魔力をもらうためっしょ」

「ええ!? そ、そのために騎士の資格を諦めたんですか!?」

「モニカはもともと騎士の資格なんて欲しくないっしょ」

「へ? ならどうして騎士学院に……って戦具の卵を授かったら強制入学でしたね」

「モニカは強い男が好きっしょ。アルマっちは強いから好きっしょ」

「いやいや、僕は別に強くないですよ」

「モニカの勘が強いと言ってるっしょ」


 なんでも勘で済ますな。

 でもそうか……モニカさんは騎士学院を退学して戦士になったのか。

 俺にとってはありがたいことでしかないか。

 つまりモニカさんも冒険者ギルドに登録してパートナーの魔術師を必要としているのだから。

 最初から俺をパートナーにするつもりだったみたいだけど。


 俺も今後、迷宮で魔物を倒すにしても、誰かを組まなくてはいけない。

 俺一人では魔物を多く倒すことはできない。

 すぐに魔力切れになっちゃうからね。

 でも、モニカさんと組んで迷宮探索すれば……。

 モニカさんの戦具の卵はかなり大きいけど、モニカさん自身の戦闘能力もかなり高い。

 交流もある知り合いだし、まったく知らない人と組むよりずっと良い。


 これはもうモニカさんと組んでいくべきだろう。

 鍵の魔具の特殊能力を調べるにも、モニカさんにいろいろ協力してもらおう。


「モニカさん……騎士学院を退学したってことは戦士として冒険者ギルドに登録したんですよね?」

「これからっしょ」

「あ、まだなんですね」

「アルマっちに会う方が大事っしょ」

「そ、そうですか。でもこの後に登録するんですよね?」

「するっしょ」

「なら、僕と組みましょう。僕と一緒に迷宮を探索しましょう」

「最初からそのつもりっしょ」

「ありがとうございます。正直言って、僕一人では困っていました。モニカさんが一緒なら心強いです」

「それじゃ~くれるっしょ?」

「え?」

「魔力。アルマっちの魔力をくれるっしょ?」

「あ~……戦具の卵に僕の魔力を与えるってことですか?」

「それ以外ないっしょ」

「あの……本当にいいんですか? その……確かに僕の鍵の魔具にはちょっとした特殊な能力がありました。でもまだちゃんと把握できていません。これに関してもモニカさんに協力してもらいたいと考えていますけど……でも魔力増幅効果が1倍なのは本当なんです。こんな僕の魔力を登録しちゃったら」

「あはっ!! やっぱりあったっしょ! アルマっちの魔具は特別だったっしょ!」


 いやいや、俺の話をよく聞いてよ。

 しかも一番大事な特殊能力がどんな能力なのかも説明していないのに。


「早くやるっしょ! モニカの卵に魔力を与えるっしょ!」

「あ、いや、そのですね。モニカさんちゃんと話を」

「話は後で聞くっしょ! それより魔力が欲しいっしょ!!」


 ……だめだこりゃ。

 興奮状態で聞ける状態じゃないな。

 俺の魔力を……登録しちゃうか?

 まぁそもそもこれだけ大きな戦具の卵を持つモニカさんに、魔力を与えようと思う魔術師は普通いない。

 いたら、それは完全にモニカさんの身体目当てだ。

 俺は……そ、そんなことないけどね。

 いや、ほんのちょっと期待しちゃったりするかもしれないけど、それは男なら仕方ないじゃないか!

 誰に言い訳しているんだ俺は。


「分かりました。では僕の魔力をモニカさんの戦具の卵に与えますよ?」

「やったっしょ! モニカ超嬉しいっしょ!」


 満面の笑顔でモニカさんは戦具の卵を出した。

 戦具の卵に魔力を与える際には、その戦具の卵の所有者が受け入れるつもりでないと魔力を与えることはできない。

 つまり賢者や魔術師が、戦具の卵にいきなり魔力を与えようとしてもだめなのだ。

 これに関しては騎士候補生や戦士側の了承が必要となる。


 戦具の卵や戦具に魔力を与える時は、普通は魔具を卵や戦具に当てて与えることになる。

 理由は1つしかない。

 魔力を増幅して与えるためだ。

 でも俺の鍵の魔具は魔力を増幅しないので、手から魔力を与えても結果は同じ。

 増幅もしないのにわざわざ魔具を使うのが何となく恥ずかしくて、モニカさんの戦具の卵に手で触れようとした。


「あれ? 魔具使うっしょ?」

「え? いや、でも魔力増幅しないし」

「使ってみるっしょ」

「え?」

「いいから使ってみるっしょ。アルマっちの魔具は特別だから、何か分かることがあるかもしれないっしょ」

「なるほど……」


 確かにモニカさんの言うことには一理ある。

 この鍵の魔具は特別で、他にも特殊能力があるかもしれない。

 とりあえずいろいろやってみるということは大事だ。


 モニカさんの戦具の卵に、俺の鍵の魔具を押し当てる。

 そして魔力を流す。


「ん?」


 あれ? なんだこの感じ?

 この感触……覚えがあるぞ。

 ドアだ。

 あの特殊な空間に入れるドアの鍵を開けた時と同じ感触だ。

 別にいまあのドアを開けようとしていない。

 いま鍵の魔具に当たっているのは、モニカさんの戦具の卵だ。


「……」


 モニカさんは何も言わず嬉しそうに見つめている。

 何かを期待している目だ。

 俺の魔力をもらえることじゃない。

 何かが起きることを期待している。


 俺も期待してしまうな。

 この鍵はただの魔具じゃない。

 それは分かっている。

 特殊な空間に繋がるドアだけじゃないのか。

 この鍵が開けられるのは……もしかして……もしかするけど。


「ふぅ……」


 モニカさんの戦具の卵に押し当てた鍵をぐっと奥に差し込んでみる。

 すると鍵は卵の中に吸い込まれるように入っていった。

 鍵が魔力を必要としている。

 それに応えて魔力を流し続ける。

 すると『カチャッ』と鍵が開いたような音が頭の中に響いた。


 戦具の卵のドアが開くのか?

 ……いや開かない。

 卵がドアのように開くのかと思ったけど、そんなことはなかった。

 ドアが開くことはなかったけど、いま俺の目の前にはあるものが見えている。

 なるほど、こういうことか。

 ちらっとモニカさんの見てみる。


 さっきと同じようにウキウキした目でこっちを見ている。

 でも気づいていないな。

 これが見えていたら、モニカさんならすぐに反応しそうだし。



0/1000



 戦具の卵の表面に浮かんできた数字。

 これが意味するものはなにか?

 孵化までに必要な魔力以外ないだろう。

 モニカさんの戦具の卵の孵化には魔力1000が必要ってことだ。

 そしてまだ0ってことは、俺の魔力は与えられない。

 いま使った魔力はこれを見るために消費されたのだろう。


 魔力1000か。

 俺の基礎魔力20はかなり多い方で、平均的な基礎魔力は7か8ぐらいだ。

 魔石魔力を考慮しないとなると、基礎魔力だけで孵化させることになる。

 ただ魔術師は基礎魔力の全てを毎日卵の孵化のために使うわけじゃない。

 むしろ使いたがらない。

 魔石魔力をもたない魔術師は、基礎魔力だけが頼りだ。

 自分の命を守る基礎魔力はなるべく使いたくない。

 だから魔術師が戦士の戦具の卵に魔力を与えるにしても、1日に与えるのは魔力1か2で、それも毎日ではないらしい。

 つまりモニカさんの戦具の卵は、普通の魔術師では孵化させるのに何年もかかる。

 魔術師の持つ魔具の魔力増幅効果は2倍未満だからね。

下手すると10年以上だ。


 俺なら50日か。

 自分の基礎魔力全てをモニカさんの卵に与え続ければ50日で孵化させることができる。

 ゴールが見えているからこそ出来る考え方だけどね。

 普通の魔術師は戦具の卵を孵化させるのにどれだけ魔力が必要なのか分からない状態で、卵に魔力を与えるかどうかの判断をしなくてはならない。

 でも俺はあとどのくらいか見ることが出来る。

 見るために多少の魔力は消費したけど。

 魔力5ぐらい消費しているな。


 魔力の残りは15ぐらいだ。

 空間の拡張もしたい。

 とりあえずモニカさんの戦具の卵に魔力5を与えておこう。

 俺が魔力を与えれば、モニカさんの戦具の卵は他の魔術師の魔力を受け入れられなくなる。

 まぁ、そんな心配はモニカさんの様子を見る限りいらないのかもしれないけど。


 再び魔力を鍵の魔具を通して卵に流していく。

 今度は卵に魔力を与えていけるだろう。


「んんっ!」


 モニカさんも感じるのか?

 魔具も戦具も所有者と一心同体と言うからね。

 戦具の卵に俺の魔力が流れたことを感じれたのだろう。


「これがアルマっちの魔力っしょ……す、すっごく気持ち良いっしょ!」


 何か変な感じ方をしているようだ。

 女性を興奮させるような効果はないはずだけど。

 まぁ、いいか。

 喜んでくれてるみたいだし。


「モニカさんの戦具の卵に魔力を与えました。これで僕とモニカさんはパートナーですね。これからよろしくお願いします」

「もちろんっしょ! モニカとアルマっちは永遠にパートナーっしょ」


 うぐっ! 嬉しさのあまりモニカさんが飛びついてきた。

 喜んでくれるのは嬉しいけど、あまり勢いよく来られると痛いからね。

 それに胸が当たって変な気持ちになっちゃうからね。


 これであと残り995か。

 戦具はそれ自体が強力な武器だから、早く孵化させたいな~。



50/1000



 あれ? なんで50?


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